7−4:虹色の旅路


『エ……エペル氏ってあんなキャラだったんだ……「VDC」の時の印象と違いすぎ……』
『え?そう?一年生の間だと、もう結構あのキャラで定着してるみたいだよ』
 エペルはしばらく興奮冷めやらぬ様子だったけど、やがて僕たちを冷静な顔で振り返った。
「おう、エペル!オメー、やっと目が醒めたんだゾ?」
「うん、やっと頭がはっきりしてきた。みんなには格好悪いところ見せちゃったね」
「そんな事は無い。『闇』に打ち勝てるのは強い意志を持つ者だけだ」
「ふん。軟弱者かと思っていたが……悪くない戦いぶりだった。一年生なのに、ユニーク魔法をモノにしているとは……」
「えへへ、まだ成功率は七、八割ってところだけど。キマッていがった!」
 エペルの笑顔の返答を受けて、セベクが驚きに目を見開く。
「なにっ!?そんなに高確率で成功させられるのか?」
「『嘆きの島』の時より成功率上がってるよね。あの時は覚えたてだったから、当たり前だけど」
「うん!訓練、けっこう頑張ってるんだよ」
「も、もしや、割と最近修得した……のか……?」
「まあね」
「そ、それで七、八割……」
 ショックを受けた様子のセベクを見て、シルバー先輩が笑みをこぼす。セベクも表情を引き締めた。
「……負けていられないな、セベク」
「言われずとも!」
 刺激受けてるなぁ。まぁ良い事だよね。
「ところで……僕たち、リリアサンの送別会で、マレウスサンの起こした魔法災害に巻き込まれたんだよね?オルトクンがそんな事言ってたし」
「ああ、うん、そうそう、そんな感じ」
「今の偽物のヴィルサンたちは何?一体、何が起きてるの!?」
『説明は僕たちがするよ。ちょっとこの動画を見てもらっていい?』
 シュラウド先輩のタブレットが横向きになり、例の動画が再生される。エペルは真剣に動画を見つめ、首を傾げつつもこちらを振り返った。
「ここはマレウスサンの作り出した夢の中で、みんなはマレウスサンを倒すために仲間を集めてる……突飛すぎて、まるで作り話を聞いてる気分」
 しみじみと呟くけど、僕たちを疑っている雰囲気はない。
「でも、今はその話を信じるしかなさそう」
『ありがとう。それで、マレウス・ドラコニアさんと戦うにあたって、エペルさんには他のポムフィオーレ寮生を起こす手伝いをしてほしいんだ』
 今回の『魔王討伐のパーティーメンバー集め』には、そういう人員も含まれているらしい。もちろん戦力としても数えられていると思うけど。
 エペルはユニーク魔法が攻守に応用利くし、成長具合も目覚ましい。結構活躍できそうな気がする。
『やっぱり夢の主と「現実での記憶」を共有しているヒトの方が、対象を覚醒へと導きやすいみたいだからね』
『うん。自分の経験しか裏付けがなかったから確信は持ててなかったけど、グリム氏たちとエペル氏のやりとりを見る限り、魔法で作られたこの夢の中でも、「夢から醒める」タイミングは普通の夢とあまり変わらないみたいだし』
「夢から醒めるタイミング……?」
『普通に寝てて夢を見てる時も、現実との強烈な齟齬に直面した時に「あ、コレ夢だな」って気付いたりする時あるでしょ』
 あるある。不思議だよなぁ。起きてみると荒唐無稽ぶりはそんなに変わらないのに、気付く時と気付かない時があるの。
『今回は「本当のお前はこうだろ」って事実を君に突きつけた事によって、君自身が強烈な齟齬を認識する事が出来たわけ』
「そっか……。僕、みんながここに来るまでムキムキな自分に全然違和感を抱いてなかったけど」
『それはこの夢の世界全体が、ムキムキエペル氏を全肯定してたからっすな。僕も「S.T.Y.X.」とオルトが夢に介入してくるまでは、なんの違和感もなく普通に夢の世界で暮らしてたし……』
「うむ……僕もそうだ。別に恥じ入る事ではない」
「僕だけじゃないんだね。みんなの話を聞いてちょっとホッとした……かな」
 逆を言えば、それぐらい夢にのめり込んでても、こうして起こす事が出来ているんだし、意外とみんな素直に起きてくれるかもしれない。
「それで、他のポムフィオーレ寮生を起こすにはどうしたらいいの?」
『そのヒトの夢へ移動することになるね。ただ、夢の主であるエペルさんがいなくなれば、きっとゲームマスターがそれを察知して、マレウスさんが飛んでくるはず』
 ヴァンルージュ先輩が引きつけてくれてるってのも、どれぐらい通用するか解らないもんなぁ。考えたくないけど、とっくに眠らされている可能性も考えて、対策はしておくべきだろう。
『ダミーデータを残しておけば、ある程度の時間はバレずにやり過ごせると思う』
「ダミーデータ?」
『うん。今頃、僕が送ったデータを基にして「S.T.Y.X.」のエンジニアがエペルさんのダミーデータを作ってくれてるはず……あっ!ちょうど本部からデータが送られてきたみたい』
 数秒、オルトが目を閉じて黙り込む。唐突に、データのダウンロードが終了しました、と事務的なアナウンスを口にした。
『ホログラムを出力するね』
 そう言って数秒と経たず、あのエペルが姿を現した。見ただけではホログラムとは判らない出来栄えだ。……肌の質感とかがちゃんと人間だから、やっぱり余計に怖いな……。
「うっ……!!あ、改めて見ると、なんていうか……なしてわ、これがかっけど思ってだんだべ~!?」
『クソコラハリボテ筋肉ダルマ……言い得て妙……』
 ぼそっとシュラウド先輩が呟くと、何故か視線が僕に集まってくる。
「……な、なにか?」
「そういやさっき、人の事を『脳味噌筋肉通り越してスッカラカン』とか言ってくれたよなぁ?」
「あー……あれはそのぅ、ほら、目覚めさせるためには怒らせるのも必要かなーと思ったから!ね!」
「ほーんと、ヴィルサンの事になると目の色変わるよな~。普段は澄ましたツラして良い子ちゃんしてるくせに」
「べ、別にそんなつもりないもん……ちょっと、たまーに、羽目を外しすぎちゃうだけだもん……」
「自分で言う事か」
 セベクにツッコまれて言葉に詰まる。
「えーと……調子に乗って言い過ぎました。ごめんなさい、エペル」
「許さん」
「えっ」
「くすぐりの刑だオラーーーーーーーーーー!!」
「ぴゃーーーーーーーーーーーーーーーーっっっっ!!!!」
 道の脇の芝生にもつれて倒れ込む。じたばたと暴れて逃げようとしても、追いかけて脇腹をくすぐられる。ずるい、エペル寮服だからやり返してもあんまり効かないのに。
「……何をやってるんだ、あいつらは……」
『なるほど……これが薔薇で作った百合の造花的な…………栄養価高ぇー……』
「イデア先輩?」
『何でもないよ、兄さんのただの独り言。気にしないで』
「全くしょーがねーヤツらなんだゾ」
 僕が悶え苦しむのを一通り楽しんだエペルは、清々しい顔でみんなの所へ戻っていく。僕は疲れて芝生から起きあがれない。
「気は済んだか?」
「うんっ!まぁ、ユウクンの口の悪いトコ見られるのは友達の特権だと思ってるから、そんなに気にしてないけどね」
「あっれぇ、僕くすぐられ損じゃない!!??」
「ユウもくすぐりには弱いって今のでよーく分かったし」
「弱みまで握られてるぅ!!」
『あー……っす……いい事聞きましたわ……』
「いや、今のは不意打ちだったからで!!別にいつもこんなに弱いワケじゃ!!」
「言い訳は見苦しいぞ、ユウ」
「大丈夫だ。誰にだって弱点はある」
「子分は結構多い気がするけどなー」
『さて、エペルさんの復讐も済んだ所で、次の夢へ移動しようか!』
 雑にまとめたオルトが、はっとした顔でエペルを振り返る。
『……っと!そうだった。大事な事を忘れてたよ。これ、パーティーへの招待状』
「パーティーへの招待状?」
『別名、マレウス氏との最終決戦フィールドへのリンクコード。それはエペル氏専用だから、なくさないでくだされ』
「わかりました。しっかり持っておきます」
 封筒の形をしたデータを、エペルはしっかりと懐にしまう。夢の中だし『ここにある』ってイメージが出来ていれば大丈夫な感じかな。
「みんな、移動の準備は出来たか?」
 僕はグリムを抱え、セベクも特に問題は無さそう。オルトも先輩の後ろに回ってるし、エペルだけ戸惑った顔になっている。
「……では、エペル。俺につかまってくれ」
「は、はい。……こう、かな?」
 困っていたけど、もう空いてる所が正面しかない。ぎゅっと抱きついた。
「うう、どんどん人口密度が高くなってきたな……。大丈夫なのか、シルバー?」
「ああ、問題ない。元々魔力の消費は多くない魔法だからな」
 いや、そうでなく、物理的に大丈夫なのかって意味だと思うけど……大丈夫じゃなかった場合、人数減らしたりとかしないとだからそれはそれで問題か。
 シュラウド先輩が何も言わない辺り、そういう実験も兼ねてそう。何人までいけるか、みたいな。
「みんな振り落とされないよう、しっかりつかまっていてくれ……いくぞ」
 やっと慣れてきた気はするけど、やっぱりちょっと不安はあるなぁ。
 そんな事を気にしている暇はないのだけど。
「いつか会った人に、いずれ会う人に……『同じ夢を見よう』!」
 シルバー先輩の詠唱が完成し、目の前が虹色の光に包まれた。

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