7−3:蒼炎の砦


「最後にサポートツールの説明ね」
「まだ何か機能があるんですか!?」
「あるよ。何かあった時に変装するための、外見変更ツールですな」
 と言われたものの、他に新しいアプリは見当たらない。
「アプリは触らずに、スマホに向かって『ドリームフォーム・チェンジ』って言ってみて」
「ドリームフォーム・チェンジ!」
 声に応じて、スマホの画面が一瞬で切り替わる。なんかずらりと衣装の名前が並んでいた。……メイド服とか四種類ぐらいあるんだけど、要るのか?これ。
「好きなの選んでタップしてみて」
 と、言われたものの、どれにしよう。
 とりあえず式典服に触れてみると、目の前に光が散った。自分を見下ろせば、確かに服装が式典服に変わっている。
「ふなっ!オメーが式典服を着てるの、スゲー久しぶりに見たんだゾ」
「その服を着ているユウを見ると、入学式で貴様らが起こした騒動を思い出すな」
「ちなみに眼鏡のオンオフオプションもあるので、自由に使ってね」
 ホントだ。画面に書いてある。
 とりあえず制服のメガネありに変えると、いつもの服装になった。これが一番落ち着く気がする。
「……あ、でもベルトと魔石器が……」
「さっきも言ったけど、あれは『情報』だから、現実には持ち帰れないよ」
「……そうでしたね」
『さっきユウさんの状態確認のために全身をスキャンしたから、装備品のデータは保存してあるよ。現実に戻ったら、記念にレプリカとか作ってみる?』
「そういうのも良いかも。ありがとう、オルト」
『どういたしまして!』
 繰り返し情報だと言われてしまうと複雑な気持ちだ。一応、顔を合わせて話した人から託されたものだし。それもシュラウド先輩たち的には『ただのNPC』にすぎないんだろうけどさ。
「う~!いいな、いいな!オレ様もその『ドリームフォーム・チェンジ!』ってのやりたいんだゾ~!」
「グリム氏は必要ないでしょ……まぁ、サポートツールくらいつけてあげてもいいけど」
「ほんとか!?オレ様も!オレ様も~!」
「わかった、わかった……」
 グリムがじゃれつくと、シュラウド先輩はうっすら嬉しそうな顔でモニターを操作し始めた。
「……あ、でもオレ様のリュックも、変身したらなくなっちまうのか……」
 グリムが名残惜しげに背中を見る。グリムも気に入ってるんだな。
「外見のデータはこっちで保管しておくね。何か魔法がかかってたりするの?」
「縦にしても横にしても中身が動かねー魔法がかけてあるんだゾ!弁当を入れても中身がぐちゃぐちゃにならねーんだ!」
『ふむふむ、了解。魔法の再現は難しいかもしれないけど、見た目は同じものが作れそうだね』
「帰ったらエースやデュースに自慢するんだゾ!」
 気持ちが和む。
 ……ナイトレイブンカレッジの関係者のID振り分けがほとんど終わってるなら、エースやデュースの夢も行こうと思えば行けるのかな。
 気になる。どんな夢見てるんだろう。
 エースとか遊んで暮らしてる夢だったりするのかな。デュースは優等生になってる夢とか。
 興味本位で見てみたいけど、まぁでも僕が一方的に見るのはフェアじゃないし。寄り道の暇も無いだろうから、出来るだけ考えないようにしなくちゃ。
「はい、グリム氏もこれでおっけー。……で、ついでに訊くけど」
 シュラウド先輩の視線はセベクとシルバー先輩に向いた。
「そっちの二人は装備変更、自力で出来そう?」
 二人は顔を見合わせる。
「特にセベク氏はその鎧姿だと絶対に目立つんで、何とかしてほしいんですけど」
「そう言われても、手持ちの服はこれしかないのだ。僕の寮服はボロボロになってしまい、リリア様の夢に置いてきたからな」
「えっと、な、何度も言ってるけど、ここは夢の中で、仮想現実。全部がイマジネーションの世界なわけ」
 シュラウド先輩の言葉に、セベクは首を傾げた。
「ボ、ボロボロになって置いてきた、って認識があるから、手元に無いだけ。『今、自分は新品の寮服を着ている』ってイメージできれば、自動的に着替えられるはずだよ」
「き、急にそんな事を言われても……新品の寮服、新品の寮服……」
 唸り声を上げて悶えているセベクを横目に、オルトが画面の向こうで溜め息を吐く。
『兄さん。僕たち一年生は魔法で洋服を着替える実践魔法すら習ったばっかりだし……現物もないのに服の情報だけを器用に書き換えるなんて、ちょっと難しいんじゃないかなぁ』
「色変え魔法の応用のようなものだろうか?幻覚系の魔法は俺も得意ではないし、即座に対応するのは難しそうだ」
 シルバー先輩も珍しく不安そうな表情だ。
「えぇ……RPGで装備変えると自機のビジュアルが変わるみたいなもんだから、パッとイメージできそうなもんだけど……」
「みんなオマエみてーなオタクじゃねぇんだゾ」
 着替えて遊んでいるグリムがすかさずツッコむと、シュラウド先輩がつらそうに呻いた。辛辣。
「し、しょうがないな……じゃあ、君たちの魔法石にもサポートツールを付けてあげるよ。マジカルペン貸して」
 セベクとシルバー先輩は、素直にシュラウド先輩にマジカルペンを渡していた。先輩は再びモニターを操作する。
「……うーん、だいたいこんなもんか?ん、インストール終了」
 モニターが消えて、シュラウド先輩がそれぞれにペンを手渡す。一見して判る変化は無い。
「……特に変化はないようだが?」
「各々ペンに向かって『ドリームフォーム・チェンジ!!』って言ってみて」
「はぁ!?ぼ、僕たちもその変な呪文を言うのか!!??」
「装備変更にキメ台詞は鉄板でしょ。これがキッズアニメなら気合いの入った変身シーンが入るとこですぞ」
 それは半分冗談として、とか言いつつ話を戻す。
「呪文っていうのは、うっかりで魔法が発動しないわざとらしい言葉の方がいいの。一人で装備変更すら出来ない若葉マークの君らのために、わざわざ付けてやったんだが?」
 いつになく言葉が辛辣。
「拙者は開発の仕事がつかえてて忙しいんだよ。最低限の動作確認ぐらいとっとと協力して。ほら、さっさとやる!」
「……ドリームフォーム・チェンジ!」
 セベクは不承不承、シルバー先輩は大真面目な顔で呪文を口にする。
 彼らの目の前に、ホログラムのような画面が映し出された。シンプルなフレームの中に衣装の名前を示す文字が並んでいる。…………なんか僕のに比べて少なくない?
「なっ!?なんだ、これは!?」
『その中から、着替えたい服をタップしてみて』
 オルトの指示を受けて、それぞれが思い思いの服装を選ぶ。一瞬で服装が変わった。シルバー先輩は制服、セベクは寮服だ。
「おお!甲冑が寮服になった!あんなにボロボロになってしまったのに、綺麗に復元されているぞ!!」
「あのぉ……何度も言ってるけど、その服はただの『情報』だからね」
「やはりディアソムニアの寮服は落ち着く。シャツも糊がきいていて、背筋が伸びる思いだ!イデア先輩、感謝する!!」
「あ、全ッ然話聞いてないなコレ。……まあいいけど……。思い込みは激しい方がイマジネーションの強度は高くなるし……」
 シュラウド先輩は困った顔をしつつ、気を取り直して僕たち全員を見回す。
「ち、ちなみに、衣装選択は発声のみでも可能なんで……細かい機能は各自で確認しておいてくだされ」
「ユウ~!見てみろ!ボタン押すだけでいっぱい着替えられておもしれぇんだゾ!」
 声に振り返れば、グリムがさっきからいろんな衣装にくるくる着替えている。可愛いけど、なんか見た目に不安を感じた。
「こ、こらグリム!調子に乗らない!」
『グリムさん。サポートツールはあくまで補助。魔法の発動に利用する魔力は、自分のものを消費するから使いすぎに気をつけてね』
「にゃにっ!そういう事は早く言え!」
 グリムは慌てた様子で衣装を解除する。いつものリボンだけのグリムに戻った。
「……こ、ここぞって時に着替える事にするんだゾ」
『ユウさんのサポートツールも使うとスマホのバッテリーを消費するんだ。戦闘用装甲に比べたら消費量は遙かに小さいけど、念のためスマホでのサポートツールは使いすぎないように』
「了解です」
「はい、というわけで……これから先はその衣装チェンジ機能を使って、必要に応じて装備を切り替えてくだされ」
『まずはナイトレイブンカレッジの制服をデフォルト装備にしておくのをおすすめするよ。大抵のシチュエーションに対応できるだろうからね』
「うむ、そうだな」
 早速セベクが制服に変身する。こうして見ると、『制服』と一口に言っても普段の着こなしが違うもんだなぁ。結局は各自のイメージで再現されてるって事なんだろう。多分。
「イデアって、意外とスゲーヤツだったんだな。ゲームが上手いだけの引きこもりオタクだと思ってたんだゾ」
「魔法のプログラムたる術式を道具に組み込んだりするのは、魔導工学の十八番なんで……」
 グリムに褒められて、シュラウド先輩は嬉しそうだ。
「しかも仮想空間の中でのイマジネーション強度なら、拙者はオタクの中でも最強クラスと言っても過言ではない……デュ、デュフフフッ!」
「……なんか笑い方が気持ちわりぃんだゾ。やっぱコイツ、ただのオタクかもしれねぇ……」
『よーし!!チュートリアルが終わって王様に装備を授けてもらったところで、さっそく仲間探しの旅に出かけよう!』
 グリムの呟きをかき消すように、オルトが声を大きくする。
 ちょっと傷ついた顔で固まっていたシュラウド先輩が我に返った。
「あ、あ、オルト!全員にパーティーの招待状を渡すのを忘れないでね」
『任せといてよ!』
 例の招待コードの事か。その辺りはオルトならまず忘れないだろう。頼もしい。
 ちょっと疲れた様子のシュラウド先輩に駆け寄る。
「ん、どうしたの?まだ何か?」
「さっきは体当たりみたいになってしまったので、ストレス軽減のハグをし直そうかと」
「……いいの?」
「先輩がお嫌でなければ」
 おそるおそる、先輩の腕が伸びてくる。抱きしめられてしまえば、とても居心地が良い。接触に不慣れな弱さはなく、傲慢な強さも無い。頭を撫でてくれる手も優しかった。
「……行っておいで。君の大事なものを守るために」
「はい。先輩もお気をつけて」
 自然に身体が離れて、顔を見合わせて笑う。自然と勇気が湧いてきた。
「……あれが、『寮長たらし』の技術……」
「技術って呼んでいいのか、アレは」
『スキンシップは一定以上の好感度があれば、相手の精神ケアをしつつ印象を良くする事が出来る。ユウさんは顔立ちの影響で幼い雰囲気があるから庇護欲も起こさせやすいし、寮長というまとめ役の立場の人にとっては、面倒を見てあげたくなる存在に見えるんだろうね』
「子分は腹黒陰険暴力メガネだってのに、よくみんな騙される気になるんだゾ」
 うるせえぞ外野。
 怒りはなるべく出さずに、シュラウド先輩に手を振る。先輩もちょっと振り返してくれた。
 もう振り返らずに、みんなの所に駆け寄る。
『それじゃあシルバーさん、移動を開始しよう』
「ああ。みんな、俺にしっかりつかまってくれ」
 言われるまま、シルバー先輩につかまる。グリムもしっかり腕に抱えた。
 シルバー先輩はゆっくりと深呼吸して、目を開く。
「……いくぞ!」
 僕とセベクを抱えて、静かな声で詠唱を始めた。
 ……これまでは急いで逃げる場面が多かったから、こんな風にしっかり準備を整えて出発するのは初めてだな。なんだか気持ちが引き締まる。
 僕もしっかり働かなくちゃ。
「いつか会った人に、いずれ会う人に……『同じ夢を見よう』!」
 虹色の光が瞬いて視界を覆う。
 こうして『魔法討伐に挑む最強のパーティーメンバー』を集める旅が始まったのだった。

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