7−3:蒼炎の砦
「とりま、君たちに作戦を説明するために、ど、動画作ったんで……そ、それ見てもらえます?」
「動画?」
僕たちが首を傾げていると、モニターのホログラムがオルトの顔から切り替わる。
ナイトレイブンカレッジの見慣れた生徒たちをデフォルメしたキャラクターたちが、画面内を所狭しと動き回っていた。もうこの時点で頭がフリーズしかけたけど、どうにか我に返る。
やがて他の生徒たち同様に可愛い絵柄で描かれたシュラウド先輩が、シュラウド先輩の声で『マレウス・ドラコニアを攻略する方法』を解説し始めた。
ツノ太郎の魔法領域は、巨大なオンラインゲームのサーバーのような形になっている。その中に領域内で眠っている人たちの夢の世界が詰めこまれている状態だ。
自身の作った領域内にあるとはいえ、約二万人の夢を隅から隅まで、ツノ太郎一人で監視し続けるのはさすがに不可能。
そこで要所要所に、夢の世界の不具合を修正するためのツノ太郎の分身が設置されている。彼らはツノ太郎本人ではないが、夢から目覚めようとする住人を妨害し、必要とあらばツノ太郎本人に異常を知らせる警報機の役割も兼ね備えている。
なので仮に目覚めさせても、無策ではまた眠らされてしまう。
しかし、『S.T.Y.X.』の協力もあり、魔法領域の構築式は解析され、現在は干渉が可能な状態となった。うまくやれば魔法領域の主導権をツノ太郎からシュラウド先輩や『S.T.Y.X.』が奪う事が出来るかもしれない。
そこで、既に攻略済みのシュラウド先輩の夢の世界を罠に使う。
ツノ太郎を無力化し、且つ自分たちを強化する『チートツール』をシュラウド先輩の夢の中に構築し、そこにツノ太郎をおびき寄せてボコボコにするのだ。
言葉で言うのは簡単だが、島ひとつ覆うぐらいの魔法領域を展開する弩級のチートキャラを無力化しようというのだから、当然そのツールの開発には時間がかかる。その間にツノ太郎本体に気づかれてしまったら作戦失敗。次の打開策は絶望的。
開発の間、ツノ太郎の目をごまかしたり、負荷をかける役割が必要だ。
打ってつけなのがシルバー先輩のユニーク魔法『同じ夢を見よう』。シュラウド先輩が監視の目をごまかしている間、僕たちが夢を渡る事でシュラウド先輩の方に目を向けさせないようにする。
ついでに、僕達は夢を渡った先で夢の主を目覚めさせて仲間になってもらう。シュラウド先輩の夢に渡るための『招待コード』を仲間になってくれた人に渡す事で、チートツール起動後にその人を呼び出し、ツノ太郎をボコる戦列に加える事が出来るのだ。
そうやって集めた数の暴力によってツノ太郎を『説得』し、魔法領域を解除させる……というのが、シュラウド先輩の作戦。
わかりやすい。非常にわかりやすいけど、現状にそぐわない明るい雰囲気の動画に呆気にとられてしまっている。
「えー、み、皆様……ご静聴アリガトウゴザイマシタ」
動画が終わり、オルトの顔がモニターに表示された。というわけで、とシュラウド先輩が切り出す。
「君たちには『魔法討伐に挑む最強のパーティーメンバー』を集める度に出てもらいます!」
兄弟揃って悪い笑顔を浮かべている。
…………まぁ、魔王を討伐するのが勇者とは限らないよね。
「『魔法討伐に挑む最強のパーティーメンバー』を集める旅……だと!?」
気が抜けるから復唱しないでほしい。
「確かに、頼れる仲間は多ければ多いほどいい」
シルバー先輩は素直だ。見習いたい。
「外から無理矢理領域を破壊すれば中にいる人間が無事じゃ済まないっていうなら、中から何とかするしかない」
「ん?でもよぉ、さっきの動画に出てた『チートツール』?っての使えば、イデアが最強になれるんだろ?」
グリムが首を傾げて言う。
「だったら、仲間なんかいらねーじゃねーか。一人でツノ太郎をボコボコにできそうなんだゾ」
「あのね、開発者には開発者の戦いがあるの。リリースしたらそれで終わりじゃないの!!!!」
いつになく大きな声で、切実な叫びを放つ。グリムがぎょっとした顔で固まった。
「いかに拙者が天才と言えど、こんな大掛かりな魔法構築式を書き換えるなんてやった事ないし、実際チートツールを動かしてみたら致命的なバグが出る可能性だってある。しかも今回は『ベータ版リリースしたんで、テストユーザー募集してま~す。バグ報告よろしゃーす』なんて悠長な事言ってられない」
凄まじい早口で言ってるけど、多分グリムあんまり理解してないだろうな。僕も全部理解は出来てないと思う。とにかくシュラウド先輩が大変だという事しか解らない。
「全てがぶっつけ本番!失敗すれば即ゲームオーバー!しかもリトライ不可!」
それにしてもまぁ綺麗に言い切るなぁ。……合成音声に頼らなくても、普通に論文発表とか出来そうな気がするけど。やっぱ大勢人がいるとダメなのかなぁ。難しい。
「そんな状況で、出てきたバグを随時修正しつつ魔王討伐という高難易度クエを同時進行。どう考えても一人でやれるわけないでしょ。現実は『タカタカッターン!』でエンターキー押したら都合良く万事解決するわけじゃないんすわ」
確かに戦ってる最中にバグが出たら、修正する間、相手は待ってくれないもんな。開発者って大変だなぁ。
「イデア先輩が何を言っているのか、あまり理解できてはいないのだが……とにかく俺たちは、共に戦える仲間を集めてくればいいんだな?」
「そ、そう。話が早くて助かる」
『戦力になってくれそうな人に目星はつけてあるんだ。勧誘についてもきっと大丈夫だよ。こっちには「寮長たらし」「学園掌握一歩手前」と名高いユウさんがいるからね!』
「別にそんな気は無いですが!?っていうか、いつの間にそんなあだ名つけられてたの!!??」
「まぁ大体合ってるじゃん」
『シルバーさんのユニーク魔法を観測する前は、ユウさんを優先的に目覚めさせて戦力を確保してもらう案が出てたくらいだからね』
今となっては、シルバー先輩に最初に合流したのが僕たちで良かったのか悪かったのか。
ふと、考え込んでいたセベクが顔を上げる。
「……もし、この作戦が成功したとして、魔法領域が解除されたら、マレウス様はどうなる?」
『安心して……と言うのも変だけど、マレウス・ドラコニアさんが夢の中で受けたダメージが、そのまま現実に持ち越される事は無い』
夢の中の世界は、ツノ太郎にとっても夢の中。精神の世界の話。
僕たちが夢の中で怪我をしても現実では反映されないように、チートツールを使って弱体化させるのも、その後の攻撃も夢の中でしか行えず、現実には反映されない。
『でももし、現実のマレウスさんがオーバーブロット状態を維持し、交戦の意思を見せた場合……ファントムと分離させ、術者本人を捕縛するためにも、彼との戦闘は避けられないだろうね』
「現実の若様とも、戦う事になるかもしれないのか……」
「RPGのラスボスは、二段階から三段階変形するのがセオリーですからなぁ……」
「しかも後の方が強く、厄介になっていくっていう」
「そうそう。たまーに最終段階が調整不備で雑魚になったりしてる事はあるけど、現実のマレウス氏がそういう風になると期待は出来ない」
シュラウド先輩がうんざりという感じの溜め息を吐く。
「ま、その辺については『S.T.Y.X.』本部と連絡を取り合いながら対処を検討していくつもり」
まだそこまで話を詰められる段階にない、って事だろう。大変な大仕事みたいだし。
「とにかく、まずはこの夢から醒めなきゃ話が始まらない」
「…………わかった」
静かに考えていたセベクが、真剣な目をシュラウド先輩に向ける。
「仲間を集めてくるという役目、僕たちが引き受けよう」
「……また大変な旅になりそうですね」
「そうだな。だがイグニハイドの寮長であるイデア先輩が味方になってくれたのは、とても心強い」
「あ、でも拙者は君たちと一緒に冒険はできないんで」
やる気になってちょっと盛り上がった所に、シュラウド先輩がさらっと水を差す。
「えーっ!?大変な仕事をオレ様たちにさせておいて、オメーはひきこもってるつもりか!?」
「そ、そんな事言われても」
グリムがむくれているのを見て、シュラウド先輩はちょっと困った顔になっていた。グリムとしては単純に不公平を訴えてるつもりなんだろうけど、……まぁ、一緒に行きたいって言われてるようにも聞こえるもんね。
「い、一応夢から醒めてないフリはして取り繕ってはいるけど、外部から拙者への接触があった事で、この夢に常駐してるマレウス氏の分身は拙者の行動に逐一目を光らせてると思う」
なるほど。『S.T.Y.X.』と接触した事がツノ太郎には知られている、と。
今はダミー映像で夢の中で幸せに過ごしているようにしか見えてないけど、再び外から接触を図ってくるかもしれないと警戒されているワケか。
そんな状態でシュラウド先輩が移動したら、ツノ太郎本人が追いかけてくる可能性がある。
「でも君らは最初から目をつけられてる上に、夢から夢へ移動してても、マレウス氏的に君らは『そういうバグ要素』って理解してるって事でしょ。好都合この上ないってわけ」
『君たちを勧誘対象者の夢まで誘導するのは、僕たち「S.T.Y.X.」がサポートするよ』
画面の中のオルトがにっこり笑う。
『まだ魔導回路のネットワークをマレウスさんの魔法領域全体に張り巡らせる事は出来ていないけど、理論上、IDを振り分けてある夢に座標を定めて移動する事は可能になっているから』
「頼もしいな。よろしく頼む、オルト」
『とはいえ、僕らが対象を特定し追跡するために使用している霊素シグナル・トラッキングはエンジニア曰く「まだベータ版」。不測の事態が起きた場合は、夢を渡る事に慣れているシルバーさんに頼る場面も出てくると思う』
「もちろんだ。俺に出来る事があれば何でも言ってほしい」
凄くいい感じに話が進んでいる気がする。
本当に、敵に回ると恐ろしいけど、味方になるとこの上なく心強い人たちだ。
「拙者もバレない範囲でリモートでのサポートはするよ。まあ、拙者には拙者の開発業務があるんで、あんまりアテにされても困るけど」