7−3:蒼炎の砦
寒い。
自分の身体を冷たい空気が包んでいる。少しだけ湿り気を帯びた、暗渠の冷たさ。
うっすらと目を開く。暗くてろくに見えない。起きあがって周囲を見回しても、何も見えない。
だけど、自分はここを知っている。この寂しさに覚えがある。
段々と目が慣れてきた。無機質な石柱の合間にむき出しの岩。ところどころにブロットの結晶がこびりついている。
「ここは……?」
『あーあ……あんなに感動的にお別れしたのに、ちょっと再会するのが早すぎない?』
聞こえた声に身体を震わせる。この世のものではない不穏な響きなのに、とても耳慣れた誰かの声によく似ていた。
「……ひぃっ!?ファ、ファントム……!?」
声の出所を振り返り、思わず悲鳴を上げる。
巨大なファントムが、興味深そうに自分を見下ろしていた。無数のインク瓶がブロットで繋ぎ合わされた肉体に石造りの歪な手。体躯に合わせた巨大な頭部を飾る、炎を象ったような王冠が妙に誇らしげに見えた。
『やあ、元気してる?』
しかし当のファントムの方は、こちらに敵意を見せるでもなく、なんだかのんびりしていた。警戒心はともかく、恐怖心が薄れていく。
『何があって落っこちてきたんだか知らないけど……なんだか面倒な事になってるみたいだねぇ』
目を丸くする。こんなに流暢に喋るファントム、過去にいたっけ?
僕の戸惑いを無視して、ファントムは両腕を広げた。
『ま、歓迎するよ、兄ちゃん。ようこそ。暗くて陰気臭い「冥府」へ!』
「えっ……ええええええええ!!??」
いつになく大きな声の悲鳴を上げた。いやどうだろう、自室で新情報に悲鳴を上げる事はまあ、そこそこあった気がする。いや関係ないだろうそんな事は。
「さ、さ、さっきから何がどうなってるんだよ!?バーチャル美少年と『S.T.Y.X.』の機体が『兄さん』って呼んできたと思ったら……今度はクソデカファントムが『兄ちゃん』!?」
言葉にする事で状況と情報を整理しようと試みた。いや余計混乱している気がする。
「ぼ、僕の弟は、ロイヤルソードアカデミーに通う好青年だし、お前たちみたいな個性が強烈すぎる弟なんか持った覚えないよ!悪夢にしたって理解不能すぎる!!夢なら早く醒めてくれ~~~~ッ!!!!」
『え?ロイヤルソードアカデミーに通う「僕」?』
自分でもどこに向かってのものか解らない祈りを捧げて現実に見えない現実から目を逸らす。
一方、巨大なファントムは楽しそうに笑い始める。その笑い声が、よく知っている誰かと似ている気がした。
『ずいぶん妄想力逞しい夢を見てたんだね。そっちの方が悪趣味で意味不明すぎるじゃん』
こちらの『現実』をさらりと否定される。別にこんな化け物に否定されたところで構わないはずなのに、胸の奥が痛んだ。
『本当の僕はキラキラした学校じゃなくて、こーんなにジメジメした「冥府」にいるのに』
「う、嘘だ……オルトは、陽キャの友達もたくさんいて……!」
『友達?まあ、友達はたくさんいるよ。口を開けば恨み言か泣き言ばっかりの、陰キャなファントムばっかりだけど』
「ありえない。オ、オルトが『冥府』になんかいるはずない!いちゃいけないんだ!」
頭の中に、『あの日』の光景が蘇る。自分と、オルトと、もう一人。
「オルトは、僕の弟は生きてる!あの子のおかげで、一命を取り留めて……」
『あの子って誰?』
「誰?って、幼なじみのユウだよ!お前がオルトなら知って……」
『そんな子、いないよ』
「…………は?」
『ユウは、僕たちの幼なじみなんかじゃない。子ども時代の彼がどんな姿だったのか、どんな性格だったのか、僕たちは何も知らないでしょ』
信じていた世界が、冷たく否定されていく。
『だってあの子は、ついこの間、異世界から来たばっかりなんだから』
「違うっ!!」
拒絶するしかない。拒絶しなくてはならない。
あともう少しで現実になる幸せな未来を、逃すわけにはいかない。
「ユウは、僕の幼なじみで、生まれつき癒しの力を持っていて、僕を婚約者に選んでくれて……!」
『兄ちゃんを、婚約者にぃ?』
ぶはっ、と息を吹き出すような音が聞こえた。さっきまでと違う冷たさに目を見開く。
『ないない、絶対ない!僕たちの幼なじみって、どうせユウは「オルト」と同い年なんでしょ?』
「え。……そ、そうだけど」
『常識的に考えて、二年も顔を合わせない期間がある相手を想い続けられるワケないじゃん。傍に「陽キャで好青年」な僕がいるのに!』
「なっ……ば、そ、そんな事……!」
『大方そういうのってさぁ、陰キャで出会いも恋愛スキルもゼロの兄ちゃんに同情した大人たちが「イデア様を選びなさい」って後ろで言ってるに決まってるよね』
「やめてぇぇーーーーっっっ!!!!」
考えなかったワケではない。話が出来すぎている、と。
だけどユウはそんな空気を少しも出さなかった。話もしなかった。だから信じられた。
『ユウは育ててもらった恩があるから、大人たちの指示を無視できない。そして、天性の演技力で嘘を嘘だと簡単には見抜かせない』
「アアーーーー!!!!」
聞こえないように声を上げたのに、普通に貫通して頭に入ってくる。いやだ、聞きたくない。もうやめて拙者のヒットポイントはとっくにゼロよ。
『心の中で違う人……オルトを想っていたとしても、言い出せないまま、そんな素振りすら誰にも見せずに、兄ちゃんの隣で「幸せな花嫁」を演じ続けるんだろうね。可哀想に』
「イヤアアアアーーーー!!!!」
『そしてオルトはユウを一途に想いながら、でも大好きな兄ちゃんと一緒になれば彼が幸せだと信じて身を引いて、二人の前では平気な顔を装ってるんだ』
「ナアアアアーーーー!!!!何も知らないまま幸せなつもりの自分も含めて不幸で不毛な三角関係イヤアアアアァァァァーーーー!!!!」
地面に突っ伏す。そこで自分が透明な板状の力場にいて、実質的に宙に浮いてる事を知ったが、正直それどころじゃない。
「なんでそんな酷い事するの……もうやめてよぉ……ハッピーエンドの世界線はどこ……?」
『そんなもの無いよ。現実見て』
「ぐわああああ……!!」
ファントムの声は一段と冷たくなっていた。だから心に刺さる。だってオルトの声でこんな冷たい事を言われて耐えられるわけがないじゃないか。
ダメージを食らっている自分に容赦なく、ファントムはさらに畳みかけてくる。
『あの子の力を、都合の良い舞台装置に使わないで』
「……そんな、つもりじゃ」
『っていうか、ユウはソロ仕様の殴りヒーラーだよ。RPGの王道ヒロインタイプじゃないよ。体力も攻撃力も防御力も物理ステータスは兄ちゃんより上じゃん。どう考えてもあの時だけじゃなく、常日頃から兄ちゃんが守られる側だよ』
「ぐはっ!!!!」
なんか凄いダメージ食らった。よくわかんないけど、なけなしのプライドの一部が砕けた気がする。
『だから、……あの子がいればオルトが助かったかもしれない、なんて、考えちゃダメだよ。あの子には、あの子の背負ってきた本当の過去があるんだから』
本当の、過去。
その言葉に胸がざわつく。『本当は何も知らない』という負い目が顔を出す。そんなはずないのに、否定しきれない。
『……兄ちゃん。僕が「冥府」にいるのは、あなたのせいじゃない』
ファントムが静かに、諭すように語る。その声はさっきまでと打って変わって、優しく聞こえた。
『自分を責め続けるのは、そろそろやめるべきだ』
許されたのだと解る。その許しに何の意味があるのか理解できずにいる。
だって起きてしまった事、失った事を無かった事には出来ない。無かった事に出来なければ、事実はずっと胸を刺し続ける。……事実って?
『約束しただろ?僕たちの夢を叶えるために、諦めずに前に進むって。こんなところでうずくまってていいの?』
「僕たちの、夢……」
呟いた瞬間に頭痛が襲う。頭を抱えてのたうち回る。
塞ごうとしても塞ぎきれない、脳から追い出す事の出来ない事実。焼き付いてこびりついて離れない現実。
痛みというノイズの中で、頭の中に映像が流れる。
遙か昔、災厄を封じた亡霊の墓場。
神話時代の遺物。
固く閉ざされているべき封印の扉が、僅かに開いていたという『奇跡』。
それでやっと弟の存在に気づいた間抜けな兄の自分。
弟を自由にするために、全ての力を尽くした自分。
ブロットを焼く『呪い』を最も効率的に利用するために、本来起こりえないオーバーブロットを実現させてまで、弟と共に外を……天を目指した、自分。
それを無神経に打ち砕いた学校の連中。
夢やぶれて『冥府』へ墜ちていく弟。
夢の中で、僕に笑って語りかけてくれた弟。
残された彼の欠片と、そこから復元された弟が出した答え。
気づけば、与えられる衝撃が痛みを凌駕していた。自分がどんな状態か解らない。声の限り叫んで、暴れて、そのうちに頭の中で何かが壊れた。
頭の中に痛みの余韻だけが残っている。必死に呼吸してどうにか息を整えながら、自由になった思考が、状況を少しずつ理解し始めていた。
「…………僕は、どうして忘れてたんだろう。なんでこんなに大切な事を、忘れていられたんだろう」
今となっては理解できない現象だった。そう思えるほどにずっと、自分の心を焼き続けていた事なのに。
「思い出した。全部……!」
痛みで溢れた涙を拭い、鼻水をすする。でもどうしてかどちらもなかなか止まらない。まだ感情が落ち着いていない。
「……何が『兄ちゃんに任せとけ』だ。いつも僕は、弟たちに助けられてばっかりじゃないか。情けない……本当に……」
呟きながら、頭の中でさっきまで起こっていた事を思い返していく。
自分勝手な妄想の世界に浸っていた。そこまでは理解できた。だけどそうなった原因が何なのか、このままでは情報が足りない。
鍵になるのはヒューマノイドのオルトだ。行動を思い返してみると、この妄想の世界の中で、オルトだけは想定外の動きをしていた。おそらく、外から自分に接触を試みていたのだろう。
『世界を救うために、あなたの力を貸してほしいんだ』
そんな言葉が蘇る。安い妄想の一部にされてしまったのが惜しいほどの名演技だ。ウチの子天才。いやそうじゃなくて。
「……何が起こってるのか全然わからないけど、オルトが僕に助けを求めてる。帰らなきゃ……あの子のところへ」
『おっ、ようやく目が覚めた?』
よかったよかった、とファントムのオルトは明るく話す。
『でも、ざぁんねん。ほんと、実につまんない事なんだけど……なーんか忘れてるんじゃないかなぁ?』
「え?」
『知ってるでしょ?「冥府」の門は不可逆。「冥府」の王として、一度ここに入り込んだ魂を、そうやすやすと元の世界に帰すわけにはいかないよ』
他のみんなに示しがつかないからね、と冷たく続ければ、そこかしこでブロットが揺れ、『冥府』の奥底から陰気な声が妙に楽しそうに沸いている。楽しそうでも陽気には聞こえないのが彼ららしい。
空気は完全にアウェーだけど、こっちもニヤリと笑う。
「フヒヒッ……『冥府の王』とは大きく出ましたな。でもオルトこそ、なーんか忘れてるんじゃないかなぁ?」
自分さえ取り戻してしまえば、何も怖くない。
「お前が持ってるブロットを燃やす呪い……いや、『祝福』は僕も受けている。『冥府』にいるとどんどん力が湧いてくるんだよ。全知全能の力を手に入れた気分だ!」
暗くてジメジメして寒いこの場所が、一番力をくれる場所なのは自分も同じ。つまり条件も同じ。負ける理由は無い。
深く呼吸する。
イメージするのは最強の自分。そうして思い浮かぶのは、オーバーブロットした自分の姿。暴虐な力の化身たる己の姿を頭の中に浮かべる。
周囲に漂う大量のブロットが、求めに応えるように集まって身体を覆った。漆黒の装甲が全身を包み、青い炎の髪が燃えさかるように逆立つ。
尚もブロットは集まり続けている。全身に力が湧いて、今ならなんでも出来る気がした。目の前の巨大な弟だって、自分なら勝てる。
『へぇ、僕とやろうっての?』
「クソ生意気な弟に、兄の威厳……見せてやりますわ!」
兄弟喧嘩なんて何年ぶりだろう、なんて思いながら、巨大な拳をひらりとかわす。
馬鹿でかい円筒状の空洞、上はともかく下はほとんど底なしみたいな状態。ファントムのオルトが動き回るにはやや狭く、自分には広い。その分オルトの一撃は当たれば大ダメージを避けられない。もっとも、当たればの話。
自在に『冥府』を飛び回り、反撃の炎をお見舞いする。この程度のヒットアンドアウェイ、初見でも楽勝だ。現実でいつもの自分がやろうとしたら絶対に無理だけど、アクションゲームの主人公ばりに自在に動ける今なら何も問題ない。
逆にオルトの方は焦っている様子だ。
『どういう事だ!?ブロットが……全て兄ちゃんに従って……!』
攻撃が当たらない事は勿論、『冥府』に漂うブロットが全て僕に、より強い感情に吸い寄せられているのだ。エネルギーの奪い合いで勝っているのだから、負けるワケがない。
「ブンバダブンブンブン!ハーッ!!」
余裕のアピールで調子の良さを示す。対戦相手にこれやられるとムカつくよなぁ。ムカついてくれないとやる意味ないんだけど。
「ハッハッハァ!もう降参?泣きが入るのが早いんじゃないの?」
煽れば怒りのままにかかってくるだろうというのは承知の事。
魔法で勝てないなら物理で押しつぶす、という感じで殴りかかってくるけど、自在に動き回れる僕には当たらない。身体を繋ぐブロットの余剰分が足りなくて、思うように動けないのだから余計に当たるはずがない。
炎の嵐が吹き荒れ、巨体を岩壁に叩きつける。
『がはっ……!』
もはやオルトは自分の身体を支えているだけで精一杯のようだ。恨めしそうに僕を見る。
『僕が、この「冥府」の中で負けるなんて……!』
「その程度で『冥府の王』を名乗ろうなんて、イキリも大概にしてほしいっすわァ!」
こんな口上を述べている間に一撃も食らわしてきそうなものだが、それが無いという事は、本当にもう動けないと見た。完全に勝ったな。
「せいぜい『冥府の王(代理)』がいいとこ。称号は返上していただきましょうか。今この時から『冥府の王』の称号は僕のものだ!」
高笑いする。対戦相手の悔しそうな呻き声に、さらに調子に乗って笑ったが、慣れてないのでえづいた。そんな自分の間抜けさで我に返り、溜め息を吐く。
「……そうだよ。お前をいつまでも『こんなところ』の王になんかしておけるか」
ぽつりと呟く。オルトは感情の見えない頭部を静かにこちらに向けていた。
『……じゃあ、我らが「冥府の王」に捧げものといこうか』
ん?と思っていると、オルトが右の手のひらを上に向ける。そこに見る間にブロットが集まり、人の形を作った。思わず息を呑む。
「ユウ……!」
植物の蔓に巻き付かれ身動きが取れない様子で、オルトの手のひらの上に立っていた。程なく瞼が震えて、ぼんやりした様子で顔を上げる。
「……イデア様……?ここは、いったい……」
「オルト!?ちょっと、どういう……」
『あー。大丈夫。これ本物のユウじゃないよ』
「え?」
呆けている僕を無視して、オルトは左手の指先でユウの顎を持ち上げる。
『いやー、ホントよくできたお人形だよねー。とんでもなく悪趣味』
「お、オルト様……その姿は……!?」
「どういう事?」
『兄ちゃんの妄想に合わせて作られたNPC。……と思いきや、とんでもないウイルスが仕込まれてるんだ』
恐怖に震えるユウを、オルトは冷ややかに見下ろしている。
『本物の「ユウ」を殺して成り代わるためのウイルスがね』
思わず息を止めていた。息苦しさで気づいて、ゆっくりと意識的に呼吸をする。
「……一体何があったっていうんだ?」
『僕には詳しい事は解らないけど、ユウの魔力を封印したっていうオバサンがやったんだろうね。正確には遺志、だっけ?』
確かに、ユウの魔力は封印されている。それは元の世界で、敵対し倒した相手に受けたものだと聞かされた。
『多分あのオバサン、ユウの肉体と魔力を狙ってるんだよ。精神を殺して身体を乗っ取るつもりなんだ』
「それが何で、僕の近くに?」
『さあ?そこまでは。でも多分、この大人しい顔は本物のユウがいない間だけ。「標的」が視界に入れば、陥れ壊すために動き出す。……そういう風に出来てる』
「そんな……そんな、つもりじゃ」
『うん、今は君もそうだろうね。でも自覚が出来てからじゃ遅いんだよね』
オルトはどこまでも冷ややかに言った。本物のユウの前なら、こんな風にはきっとならないだろう。
目の前にいるのが大事な『花嫁』に危害を加える存在だから、こんなにも冷酷になれているんだ。
『お前の好きにはさせないよ。絶対にね』
オルトの両手がユウの偽物を包み込む。押しつぶす勢いでは無かったけど、思わず目を逸らしてしまった。沈黙が流れる。
『……はい、兄ちゃん。これ持ってって』
そう言って差し出された巨大な手のひらの上には、よくよく見ると小さな乳白色の石が転がっている。オルトの手のひらで見るとサイズ感がバグってるけど、手に取ればボードゲームで使うちょっと大きめのサイコロぐらいの大きさだった。乳白色の石はうっすら透けていて、中に赤黒い花のようなものが浮かんでいる。
「……何コレ?」
『今のお人形が持ってたウイルスを、僕が貰ったユウの魔力でコーティングしたもの。危ないから割ったりしないでよ』
「ファッ!?」
『「S.T.Y.X.」で解析かければもっと詳しい事がわかるんじゃない?ひとまずそれでどうにかしといて。僕が出来るのはここまで』
「あまりにも投げっぱなしでは!?魔力貰ったっていつの話!!??」
『もう忘れてんの?あんなに激しく殴り合ったんだから、そりゃ魔力ぐらい入ってくるよ。もうめちゃくちゃ痛かったんだから』
「これで全部?隠さずに洗いざらい吐け!今すぐ!」
『いーやーだーねー!!残りは僕とユウが愛を交わした証なんだから!!絶対、ずぇーったい渡さないから!!!!』
「ぐぬぬ……!おなか痛くなっても兄ちゃん知らないからな!」
『ふーんだ。いいもーんだ。魔力抱えてるだけならもう痛くないし』
子どもっぽい言い合いをして、バカバカしくなって二人して笑う。落ち着いたところで、オルトを見た。
「……それじゃ、僕はもう行くよ」
『……うん。ユウの事、頼んだよ』
「兄ちゃんに任せとけ」
笑顔で応え、『冥府』の門を見上げる。いつも見下ろしていたものを見上げるのは、不思議な感覚だ。そんな感傷にいつまでも浸ってはいられない。
「ゲーム・セット・マッチ……『開かれた冥界の扉』!!」
シュラウド家の人間に代々受け継がれる『冥府』の門を開くユニーク魔法。
詠唱に応え、扉がゆっくりと開いていく。隙間から注ぐ光が全身を包み込み、やがて意識までも飲み込んでいった。
『……行ってらっしゃい、兄ちゃん。全宇宙が、あなたを待ってるよ』