7−3:蒼炎の砦


 賢者の島周辺までのORTHO及びサポートドロイドの輸送は『S.T.Y.X.』所有の護衛艦が行う。
 ケルベロス・ギアや作戦について、対策本部との打ち合わせを経て、『S.T.Y.X.』による情報収集作戦の実行が黎明の国政府に承認された。それに伴い、護衛艦の一つには『S.T.Y.X.』の所長、及び技術部主任が乗り込み、現場の指揮を行う事となっている。
 護衛艦は『S.T.Y.X.』にとって最大規模の武器である魔導砲を備えている。その用途については『超巨大ファントム発生時の制圧のため』とか『大規模建築物の一斉浄化事案に備えて』とか何かといろいろ建前があるものの、結局の所、後ろ盾の無い非政府組織にはこういう備えも必要だったという事だ。建前の用途が現実になってしまった希有な例である。
 手持ち武器での最強と言えば『雷霆の槍』だろうが、護衛艦に搭載された魔導砲は、その理論を現代の技術で疑似的に再現したものだ。ブロットを焼き、衝撃を与える雷電の砲。神代の技術で作られた『雷霆の槍』に比べれば効率では劣るものの、装置が巨大な分、出力も相応に大きい。もちろん消費電力も比にならないが、護衛艦には発電設備も搭載されているので、予め蓄えておく事で多少の融通が利く。
 物理及び魔法的に攻撃力を備えているが、今回の魔法領域に対しどの程度の効果を発揮できるかは全くの未知数だ。人間が使う程度の魔法では全く歯が立たなかった。計算ではただ取り込まれてしまう事にはならないと出たものの、結局はやってみなくては解らない。
『こちらORTHO。サポートドロイド二体と共に賢者の島空域に到着。突入作戦開始位置まで移動します』
 護衛艦から射出され、飛行機能で移動を始めたオルトが現在地を司令部へ伝える。既に計器が強力な魔力反応と尋常ではないブロット濃度を示している。『冥府』の門が開いた時のようだ、と感想を抱きつつ、オルトは己を励ますように機体と、一緒に飛行しているサポートドロイドたちに視線を向けた。彼の心情の動きを察したように、サポートドロイドたちは見た目に合わせた犬の鳴き声で応える。搭載されたAIが、オルトをリラックスさせようとしているのだ。自律型AI相手にまで心理ケアを備えておくのは、人の心によって生じるファントムを研究する『S.T.Y.X.』らしい仕様かもしれない、とオルトは小さく笑う。
 どこか穏やかな飛行は程なく終わりを迎える。正確なセンサーが飛行距離とカメラによる視認などから、作戦開始位置への到達を感知する。
『こちらORTHO。目標に到達。突入準備を開始します』
『了解。……健闘を祈る』
 所長のいつも以上に固い声を受け止め、オルトは頷く代わりに装備の展開を、内容を音声出力しながら開始した。
『魔法障壁突入モード・デプロイ。対霊素法則転写障壁を展開。サポートドロイド両機、スライサー・モジュールをリリース!エーテリアル・スライサーをアクティベート!』
 突入準備が問題なく行われている事が、通信が届いている今は伝えられる。
 魔法領域に対する防御壁を展開し、魔法領域の界面を切り裂くツールを起動する。サポートドロイドも同じ状態に整い、準備は完了。
『ケルベロス・ギア魔法領域突入作戦、開始!』
 オルトは宣言し、真っ直ぐに魔法領域の界面へと向かっていく。
 衛星から見た魔法領域の界面の中で、比較的茨の視認が少ない上層部を狙い接近する。しかし茨はすぐにオルトが界面を切り開こうとしている場所に集まってきた。
 魔法領域の界面を狙った攻撃が茨に阻まれ、オルトを取り込もうと更に伸びてくるのをサポートドロイドたちが防ぐ。少しでも反撃の手が緩めば茨に絡め取られるだろう。
『くっ……そう簡単には通らせてもらえないか。ケルベロス!攻撃の手を緩めないで!』
 サポートドロイドたちが鳴き声で応え、オルトを守り続ける。
 不意に、魔法領域の表面が派手に揺れる。『S.T.Y.X.』の護衛艦による魔導砲の一斉射撃で、魔法領域側面の茨が焼き払われていた。即時再生はするものの、僅かに魔導砲の焼き払う量が再生する数を上回っているようで、オルトに向かっていた茨の一部がより強い攻撃の防御へ回るべく動き出した。必然的に茨の守りが薄い場所が作られる。オルトの知能はそれを見逃さない。
『いくぞ、ケルベロス!エーテリアル・スライサー出力最大!界面を切り開け!!』
 口腔内のスピーカーから、まるで人間のような雄叫びを上げる。勢いに乗って、ケルベロス・ギアに搭載されたエーテリアル・スライサーが界面の一部を切り裂いた。張り詰めた皮が切れるように開いた隙間に、オルトとサポートドロイドたちは滑り込む。
 高濃度のブロットが満ちた魔法領域の内部を進み、細長い島のほぼ中央部にあるクレーンポートの桟橋に着地した。
『……やった!魔法領域内に侵入成功!』
 ケルベロス・ギアの防御機能の現実改変に対する抵抗力に喜びつつも、すぐにオルトは作業に取りかかる。
『解析アンカー、全機射出!解析プログラム展開!』
 搭載していた解析アンカーが島内の各所に飛び立っていく。着地後すぐに情報の収集が始まった。オルトとの間で取得した情報の同期がすぐに行われるが、その内容にオルトは嘆息する。
『なんて複雑な魔法なんだ……構築術式を解析してデータを保存するだけで、十七分以上かかる。活動限界ギリギリだ』
 ケルベロス・ギアの活動限界は二十分。
 それまでに魔法領域を再び切り開いて脱出しなくては、魔法領域の現実改変はケルベロス・ギアにも作用し、オルトは再びスリープ状態になるだろう。そうなればこの作戦は失敗だ。
 これだけ時間がかかるのであれば、イグニハイド寮に兄の様子を見に行く事など出来はしない。ディアソムニア寮の様子を見に行く事も。
 それどころか、茨が解析アンカーを異物として排除しにかかる可能性もある。仮に脱出できてもそれでは意味がない。
『とにかく、作業が完了するまでこのアンカーを保守しないと……』
 センサーの感度を上げた瞬間、攻撃を感知しオルトは横に跳ぶ。さっきまでいた場所に、鋭く雷が落ちた。アスファルトの焦げがじわじわと薄れて元に戻る。強大な魔力反応にセンサーが悲鳴のような警告を出すが、オルトは無言でその出所を睨みつける。
「おやおや……領域内に何やら紛れ込んだかと思えば……」
 何もない場所に緑の炎が立ち、黒い煙を吐き出したかと思えば、そこから人の形をしたものが姿を現す。
 緑に輝く角、周囲を漂うブロット。視認したのは初めてだが、他のセンサーは彼がこの状況の元凶である事を示している。
 一方、現れた人物は興味深そうにオルトを見ていた。
「お前……姿は違うが、小さいシュラウドか?」
『マレウス・ドラコニアさん……!その姿……やっぱり、オーバーブロットをしていたんだね』
 サポートドロイドが威嚇する声を出す。マレウスは特にそれを気にした様子もなく、自分の興味にしか言及しない。
「ふむ?お前はディアソムニアの談話室でよく眠っていると思ったが」
『残念でした。あっちの身体はとっくに空っぽ。公衆無線LANを使って脱出させてもらったよ。僕はプログラムデータで構築された自律型AI……って言っても、あなたには理解できないよね』
 オルトは少し挑発するような口調を意識した。
 無邪気で生意気な子どもを演じながら、内心はマレウスの注意がどこに向いているのかを察するのに必死だった。幸運にして、マレウスは特に周囲を気にした様子はない。
「つまりお前の意識はゴーストのように身体を抜け出し、別の器に入った……という事か?」
『へぇ~!妖精的にはデータの転送をそんな風に解釈するんだ!』
 誇り高い妖精に対し、こんな口の利き方をすればどうなるか、オルトは知らない訳ではない。性格や経歴などを加味した知的生命体の標準的なリアクションパターンのデータは普段から搭載されている。
 相手に『してほしい』反応を引き出す、最適解を持っているのだ。
『そうさ。僕は電波さえ届く場所なら、どこにでも移動できる。それが例え……宇宙の果てであっても!』
 わざわざ情報を開示するメリットは無い。与えた情報が今後こちらの不利益になる可能性はゼロではないからだ。
 もちろん、マレウス・ドラコニアが『人間の機械文明にとてつもなく疎い』という前提から、生じる不利益が軽微である可能性は高いと計算済みではある。
『海底のケーブルは魔法で遮断してたみたいだけど……無線の通信衛星なんて方法、思いつきもしなかったでしょう』
 マレウスが興味をオルトに向けている必要がある。他のものに目を向けさせてはいけない。
『魔法はイマジネーションの力。だから知らないものは具現化できないし、防げない。量子でも霊素でもない。それが「電子情報」だ』
 自信満々に言い切って、人間顔負けの意地の悪い笑顔をマレウスに向ける。
『セキュリティ意識低すぎない?魔法領域にUTMの導入をおすすめするよ』
「ゆーてぃーえむ……なんの術式の略称だ、それは?」
『え~、そんな事も知らないの?だから僕みたいな後輩にあっさり出し抜かれるんだよ』
 生意気に嘲笑う。
 高ぶった感情は注意力を下げる。喜怒哀楽のどれも、一般的には高まりすぎれば集中力を損ない、ケアレスミスを生じやすくさせる。
 この場で最も高ぶらせやすい感情は、怒りだ。
『世界で五本指に入る魔法士だか、古代領域魔法だか知らないけど……大した事ないね。僕はあなたの魔法では眠らない!』
 オルトは堂々と言い切った。
 注意を想定通りに引きつけられている事は自覚しているが、この後の事を計算すればするほど警告が出てくる。
 しかし目的を叶える最短ルートはこれしかないのだから、警告は無視するしかない。
「ふ……そうか。ならば……眠りを妨げる騒々しい機械人形など、粉々にしてしまえば問題ないな」
 マレウスの魔力が更に高まる。オルトのAIは分かりきった危険への警告を繰り返すが、オルトはそれを無視して構えた。サポートドロイドも彼に並びマレウスに敵意を向ける。
『やれるものなら。「S.T.Y.X.」の……人類最高峰のテクノロジーの力、見せてあげる!』
 解析アンカーがデータを保存し終えるまで、残り十三分。
 オルトの挑発の甲斐もあってか、マレウスは解析アンカーの存在を気にした様子はない。このまま気づかせずに時間を稼ぎ、解析アンカーを回収して脱出しなくてはならない。
「招かれざる客には、ご退場いただこう」
 縦横無尽に走る雷をギリギリで避ける。センサーの予測警告は正しく働いているが、少しでもズレれば損傷は免れない。
 脱出を考えれば、特別に厳重に保護してあるコアだけでなく、飛行のための機構も、魔法領域の界面を切り開くためのエーテリアル・スライサーも失えない。否、オルトとしては両親が自分のために用意してくれたこの装備もサポートドロイドも、部品一つだって失いたくはない。
 もっと対話で気を引きつけられなかったか?と知能の一部が疑問を呈する。今からでも実行できないものかと案を提示してくるが、オルトは全て却下した。
 僕たちの『花嫁』を苦しめた奴と対話で解決?冗談じゃない。
 合理性を重視するはずのAIでありながら、過去に生じたバグは合理性を否定する。
 兄は、彼の封印を保持さえできれば、これ以上活性化させなければ、彼は人間として生きていけると言っていた。恐らくその分析は正しい。
 そのために、オルトにも協力してほしいと言っていた。だから協力して、彼が元の世界に帰るまで、守り抜くつもりだった。それが兄の願いであり、自分が再計算してみても最良の案だと思えたから。
 それなのに、勝手な判断で封印を上書きして、彼に外から見ても変調が危ぶまれるほどの苦痛を与えた。彼を恨む魔女の遺志を野に放つという不安要素まで増やした。
 人の話を聞かない奴と対話での解決は望めない。
 マレウス・ドラコニアはオーバーブロットの影響で人の話を聞いていない。都合のいい情報しか耳に入らない。こちらの手持ちの情報では気を引きつける事が難しい。だから戦闘は必然だった。
 そんな理由を並べ立て叩きつけ、提案を強制的に却下する。
 沸き立つ怒りをシステムが律した。第一目標は解析アンカーの情報保存までの時間稼ぎ、及び回収と脱出。優先順位は変わらない。
 逆を言えば、それさえ堅守すれば、目の前の相手を殴っても、なんなら倒してもいいのだ。可能ならば。
 あと十一分。
 魔導回路がエネルギーを集約し、標的に向かって放つ。
 積載動力の関係でビームの回数は限られる。出し惜しみをしている余裕はないが、無駄撃ちは絶対に出来ない。
 エネルギー弾がマレウスにぶつかった瞬間に霧散した。センサーがカメラの視認内容を否定する。マレウスにぶつかる一瞬前に無力化されていた。
 ならばと属性を付けたエネルギーに切り替えるが、結果は同じ。
 あと九分。
 マレウスの雷が降り注ぐ。避け損ねた右肩の装甲の一部が焦げた。機能停止には至らないが、全身に多少の衝撃が走る。まだ動作に支障はない。地面を焼く炎をホバリングで回避。炎に触れるどころか、高温によっても装甲に損傷が出るとシステムが警告。
 あと七分。
 物理的な奇襲を狙いスラスターで急接近するも避けられる。先ほどのエネルギー弾と同じく、接触する一瞬前にマレウスの身体が瞬間移動しているとシステムが解析。
 軽く払われただけで港の端まで吹っ飛ばされる。物理損傷は軽微。アスファルトが砕けた側から元に戻っていく様子を確認。
 あと五分。
 サポートドロイドによる援護を受けて波状攻撃を実施。どれも当たらないが、マレウスが自覚的に攻撃を判断して避けているようには見えない。システムも当たっていないという事実だけを告げる。
 あと三分。
 雷で左肘関節部及び右大腿部のパーツを損傷。左前腕部は保持しているものの動作不可能。魔導スラスターへの出力に軽微な影響が出る予想。
 マレウスの放った魔力弾がシールドを貫通、腰部エネルギー回路を損傷。右足部魔導スラスターへの出力経路を一部変更。損傷箇所からのエネルギー漏出停止。
 あと一分。
「短時間とはいえ、この領域内で正気を保っていられる事は賞賛に値する」
 マレウスが余裕の笑顔で言い放つ。
「だが……人類最高峰のテクノロジーとやらはこの程度か?大した事がないなァ!」
 普段は表情のほとんど浮かばない美しい顔に、珍しく意地の悪い笑みを浮かべた。
 自分の挑発が正しく効いていた事を確信しつつ、オルトは警戒を緩めない。
「僕はまだかすり傷ひとつ負っていないぞ?」
 勝ち誇った様子で哄笑する魔法士を前に、オルトは努めて冷静に状況を分析していた。
 この魔法領域内では、オルトの攻撃が全くマレウスに届かない。攻撃が効いていないのではなく、そもそも当たっていないのだ。
 それはつまり、魔法領域の現実改変は、マレウスの意のままになるという事だ。相手の攻撃を分析する必要さえない。当たらない、と思えば当たらない。
 マレウス・ドラコニアはこの魔法領域の中では、絶対的な支配者となり、決して脅かされる事は無いという事だ。
「さて……そろそろお遊びも終わりにするか」
 指先一つで雷が落ち、サポートドロイドの片割れが粉々に砕け散る。
「ゼロワン!」
 オルトは思わず叫んでいた。寄り添うもう一体のサポートドロイドは、まだマレウスを強く睨みつけている。
 解析が終わるまであと三十秒。
 あと少し、ほんの少し時間が稼げれば、とAIの頭脳が必死で手段を探す。
「顔色が悪いな。機械でも恐怖は感じるのか?」
 その様子をどう思ったのか、マレウスは温情のような口振りで冷たい言葉を吐く。
「大丈夫、苦痛を与える間もなく粉々にしてやろう」
 あと二十秒。
 普通なら僅かなその時間が、今はとてつもなく長い。
「おやすみ、小さいシュラウド」
 目の前で集約される魔力を視認しながら、オルトは終わりを覚悟する。シールドを張っても防ぎきれない。コアも何もかも粉々に砕けて、自分は壊れるだろう。最新のギアも作戦も台無し、全ては振り出しだ。内心で両親への謝罪の言葉を呟く。
 そして魔力が放たれようとしたその瞬間、マレウスは目を見開いて固まった。オルトはその様子を驚きで見つめ、すぐに我に返ってその場を離れた。
 次の瞬間、オルトが先まで立っていた場所に魔力弾が叩きつけられ、地面が大きく抉れる。
「外したか」
 舌打ちしながらマレウスが呟く。視線の先では、抉れた地面が時間を巻き戻すように平らに戻っていった。
 オルトはマレウスの反応に違和感を覚えていた。
 今の一瞬、動きが停止した事について、見たところマレウスは自覚が無い。動きが止まる事自体も不可解だ。彼の思うままになる魔法領域で、そんな事が起こり得るのだろうか、とオルトは疑問を抱く。
『解析完了。全データをクリプト・メモリコアに収束しました』
 システム音声で我に返る。途方もなく長く感じた一瞬はもう過ぎていた。
『ゼロツー!全アンカーを回収!退却だ!』
 サポートロイドが唸り声で応えた。
 音声指示を受けて、解析アンカーが自動運転でオルトたちの元へ戻ってくる。
「鬱陶しい。まるで顔の前を飛び回る羽虫のようだ。……失せろ」
 それを見たマレウスは忌々しげに呟くと、手を掲げた。そこにサポートドロイドが飛びかかる。集中を削がれた様子で、しかし淡々とマレウスはサポートドロイドを叩き落とし、トドメとばかりに雷を降らせて粉々に砕く。
『ゼロツー!』
 オルトはぐっと感情を堪える。サポートドロイドが気を逸らしてくれたおかげで、アンカーは無事に回収できた。あとはこれを魔法領域の外に持ち出せば任務は完了する。
 問題はオルトの出立を、マレウスが見逃してくれるかどうかだ。
 タイミングを見計らう暇さえ無い。もう活動限界が目前に迫っている。
 スラスターを起動しようとした瞬間、賢者の島が大きく揺れた。正確には、賢者の島を覆う魔法領域が衝撃を受けて揺れている。
 それは『S.T.Y.X.』の援護によるものだとオルトにはすぐに察しがついた。
 護衛艦による魔導砲の一斉掃射。
 最大出力で小さな島一つくらいは消し飛ばせるような代物を、綿密で堅牢な術式によって作られた古代魔法のエネルギーフィールドに力任せにぶちかましているのだろう。
 恐らくは、オルトの脱出を援護するために。
「……今度は何だ?どいつもこいつも、忌々しい!」
 マレウスが忌々しげにオルトから視線を外す。その瞬間をオルトは見逃さない。
『今だっ!魔導スラスター、フルバースト!』
 宣言すると同時に、足の部分から一気にエネルギーを噴射する。
 茨の薄い場所を視認して、そこを一直線に目指した。
『うおおおおおおおおおおおーーーーーーっっっっっ!!!!!!!!』
 エーテリアル・スライサーを起動し、それ以外の全てのエネルギーを前進に注ぎ込む。一直線に飛んだオルトは、迷い無く界面に体当たりするようにぶつかった。



「砲撃やめ!マレウスからの反撃に備えて、全艦インビジブル・シールドを展開!」
 所長の声が艦内に響く。指示通りに砲撃が止まり、インビジブル・シールドが展開された。反撃を警戒しつつ、オペレーターの報告を待つ。
「……ORTHO、領域内での活動限界を迎えました。システムダウン。信号捕捉できません!」
「……そんな!」
「オルくん……!」
「カローン全班、もう少し捜索範囲を広げてくれないか」
 分析官がオペレーターのマイクに向かって声をかける。
「ケルベロス・ギアの最大速度ならエーテリアル・スライサー使用時の抵抗があっても、かなりの勢いがあったはずだ。予想範囲を飛び出してしまっている可能性もある」
 カローンたちから、迷いなく了解が返ってくる。引き続き緊張した空気が流れた。
 時間が経つほどに絶望が艦内を染めていく。所長が捜索打ち切りを指示しようとした、その瞬間。
「カローン・テトラ班より入電!」
 オペレーターが声を張り上げた。通信音声が艦内に響く。
『こちらテトラ班。領域外の海上にて、ORTHOの機体を発見』
 艦内が静かになる。見つかったのが機体の欠片なのか大半なのか、その内容が問題だからだ。
『機体に損傷あり、コアに損傷なし。全解析アンカー、同海上にて回収。速やかに帰投します』
 艦内のスタッフ全員が歓声を上げた。きっと他の護衛艦でも似たようなお祭り騒ぎになっている事だろう。分析官は胸を撫でおろし、天を仰いだ。
 所長と主任は、どちらともなく寄り添うと、揃って長い溜息を吐きながらずるずると地面にへたり込んだ。
「ほんとにもう……ママ、心臓がいくつあっても足りない……」
「奇遇だな、母さん。私もだよ……」

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