7−3:蒼炎の砦


 最優先事項は技術開発部の援護だ。
 オルトの悪戯は冗談にしても、結局事態の解決を進めるために、内部の情報は必要になる。エネルギーフィールドが妖精の古代魔法によるものだ、と解っただけでも、進入のための対策は一つ前に進める事が出来た。
「しかし、そうか。ナイトレイブンカレッジで事が起こってるのだから、あの子も巻き込まれているんだ」
「あの子?」
「ほら、妻がカローンに推薦したいと言っていた、彼です」
 ああ、と所長が声を漏らす。
 先日の『S.T.Y.X.』本部での騒動の際に、大型ファントムと生身で戦闘した少年。ナイトレイブンカレッジに通っているのに、魔法が使えない異例の生徒。
 イデアは彼の解析結果を割と重要度の高いセキュリティエリアに突っ込んでいたが、全情報を閲覧できる立場の所長には勿論見る事が出来た。
 属性のついた魔力塊を体内に宿した人間。
 強制的に作られた魔力回路によって、魔力の持つ属性が削ぎ落とされる事で、魔力を補助動力として使う装備を扱う事が出来る。平時はその回路が塞がれている事により、魔法どころか装備も自分の意思で使う事が出来ない。
 そもそも彼の育った地域では『魔法』という技術が存在しないらしい。強制的に魔力回路が作られたのも、その魔力回路を強制的に塞がれたのも、ナイトレイブンカレッジに来る前の事だ。『魔力回路』と定義したものも、本来は違った呼称と用途である可能性もある。それはさておき。
 侵略者によって都合の良い戦闘員へと改造され、別の侵略者によってその役割を奪われた。魔力を持っていたために、翻弄され続けた被害者。
 あの音声の中の、マレウス・ドラコニアの哀れみの言葉にも共感せざるを得ない。高度知能体の都合の良いように身体を『改良』され、彼らの身勝手な都合と感情のために役目を奪われる。まるで家畜だ。
 本人の詳細な検査を行えていないために体質に関するデータはあまり集まっていない。解っているのは彼に宿る魔力塊が持つ属性と、生命体と共生するその特性だけ、それも後者はあくまで息子の推察だ。
「マレウス・ドラコニアが魔法を発動させた場所には、ナイトレイブンカレッジのほとんどの生徒と教職員、関係者が集まっていたようだ」
「彼がそこに留まっているのなら、魔法領域が解除された際には取り残された者たちとの戦闘になる、と考えるべきでしょうか」
「……そうなるかな。まだ強制解除は夢のまた夢、という感じだが……しかし、魔法の発動前でもまるで歯が立たない様子だった。カローンでもどこまで対抗できるか……」
「……彼の助力を得るのは?」
「……あまり現実的ではないかもしれない。マレウス・ドラコニアが彼に何かしたのは音声だけでも明白だ。先日の大立ち回りは、彼の魔力回路を塞ぐものが取れかかっていたから出来た事らしいからね」
「……そうですか」
 分析官は天を仰ぐ。
「ダメですね。相手はまだ子どもなのに、つい頼る事ばかり考えてしまう」
「私だって、イデアがここにいてくれればと思っているよ。子どもだろうと、優れた能力を持つ者には期待してしまうものさ」
「彼は、息子と同じクラスなんですよ。息子は私に似て引っ込み思案なもので友達もあまりいませんが、彼とは話す機会も多いみたいで」
 魔法は使えないけど、優しくて気さくなクラスメイト。
 ホリデーの帰省の時にはそんな話をしていたのだと、分析官は語る。
「息子も、言ってしまえば異質な存在でしたから。自分と同じ異質な彼に、親しみを覚えていたのでしょうね」
「……君たちの息子も、必ず救助する。他の島民と共にね」
「勿論。そして、他の島民と同じように犠牲となる可能性がある事も、覚悟はしています」
 分析官は真剣に応え、しかし不敵に笑う。
「でも私も妻も、被害者面でおとなしくしているつもりはありませんよ。規定を破ってでも、出来る全ての事はします」
「全く頼もしい。……これを機に技術開発部に戻るべきでは?」
「妻が心配しますので、そこまでは。またベッドに投げ技で叩き込まれて身体を痛める生活はゴメンですから」
「私も妻をベッドに投げ込む力があれば良いのだろうか」
「主任は無理ですよ。泳いだら死ぬ魚を止めるようなものです。私みたいに無理をしないと群れについていけない魚とは出来が違う」
「ご謙遜を。あなたの辛辣なフィードバックに妻は毎回怯えてますよ」
「それこそ大げさな。私の平凡な指摘を自由に解釈して、想定した結論の右斜め上を必ずカッ飛んでいくのに」
 苦労人の夫たちは和やかに笑う。ひとしきり笑って、深く呼吸をする。
「ひとまず、私たちは資料管理室と連携して古代魔法の魔法領域について汎用の解析を進めます」
 古代魔法の解析には膨大な時間を要する。表層を少し解析するだけでも何日かかるか知れない。それでも何がヒントとなるか分からない現状、進める事は無駄ではない。どうせいずれは向き合う課題なのだ。
「情報は技術開発部と共有しますので、茨の谷と連絡が取れたらご一報頂けますか。解析の範囲を絞りたい」
「勿論。解析班からの良い報せを待っているよ」
「ご期待に添うよう努力します。子どもたちが頑張ってくれたのだから、大人も根性を出しませんとね」

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