7−2:疾紅の戦鬼
ヴァンルージュ先輩の説明通り、鉱山跡地は完全な廃墟となっていた。屋根に穴の空いている建物ばかり。いくつか天井を布で塞いで使われている。これは多分『銀の梟』がやったんだろうな。
寝床になりそうな場所を確保したら、みんなで物資の確認をする。
行商人の荷車の中にはいろいろな物が積まれていた。本人が言っていた通り香辛料や香油、色とりどりの小物や布、僅かながら宝飾品や魔法石もある。
食糧は干し肉とか乾物とか日持ちしそうなものが多い。多分、行商人自身の食糧でもあったのだろう。最低限の調理道具や寝袋、簡易の天幕も積んであった。
一方、ここで野営していた『銀の梟』の残した物資は実用的なものが多い。町が比較的近いからか、食糧は新鮮なものが沢山あるし、調理道具も食器もしっかりしている。ここに何か拠点でも作るつもりだったのか、セベク曰く測量に使うという道具や、廃屋の様子を細かく書き記したメモなども見つかった。天幕や寝床も割としっかりしている。今日はゆっくり休めそう。
まずはいつものように食事の準備。
お肉や野菜を香辛料とお酒で煮込んで、ちょっと濃いめの味付けに仕上げた。オートミールはふやかして炊いてお米っぽくする。チーズは今回は一口大にカットしてナッツ類やドライフルーツと一緒に並べて好きに食べてもらう感じにした。明日の朝はスープとパンのあっさりした朝食になるだろうし、せめて夜ぐらい見栄えを豪華にしたいよね。
「カレーライス……シチュー?ウメェけど、なんか微妙な味なんだゾ」
「あるものだけだと、さすがにカレーにはなりきらなかったね。バイパー先輩がいればうまくやってくれただろうけど」
「ジャミル先輩はそんなに凄いのか?」
「スパイスを使ったジャミルの料理は絶品なんだゾ!腹がはちきれるくらい食えちまう!」
「熱砂の国の出身で、料理も慣れてるみたいで上手なんだよね。スパイス使った料理だけじゃなくて、病人用の雑炊とかもおいしかったよ」
前に倒れた時に作ってもらった雑炊、おいしかったなぁ。冷凍しておいたご飯も全部おいしかったし、一緒に食べたみんなも絶賛していた。
ちょっと前の話なのに、なんだか遠い昔の思い出みたいだ。
グリムは微妙って言ってたけど、昨日の食事よりは量もあるし、皆さんの反応も言うほど悪くはなさそう。
それとは別に、やっぱり旅の目的であり、敵の本拠地が近づいているからか、緊張した空気が流れているように思う。兵士さんたちも支度を手伝ってくれるのは変わらないけど、何となく口数も少ない。
空になった鍋や食器を片づけて、食後の雑談タイム。行商人の荷物にあったそれなりにおいしそうなお茶を選んで淹れて、ドライフルーツの残りなんかを摘まむ。行商人のおかげでなかなか豪華なお茶の時間になったけど、とはいえ空気は重いまま。
「……砦の近くで暴れたら『夜明けの騎士』が出てくるかと思ったんだが、どうも来そうにねぇな」
お茶を口にして、ヴァンルージュ先輩がぽつりと呟く。僕たちがぎょっとした顔をしてても気にしていない。
「夜襲を狙う可能性もあるのでは?」
「俺たち相手に、か?連中もそこまで馬鹿じゃねえよ」
軽口の調子で言いながら、表情は全く笑っていない。明らかに『銀の梟』の対応に不信感を抱いている。
「書状を届けて、早く野ばら城に戻らねえと」
物憂げな表情で呟く。何となく誰も何も言えずに、沈黙が流れた。
不意にヴァンルージュ先輩が顔を上げる。視線の先にはシルバー先輩がいた。
「……なぁ、もういいだろ」
「……どういう意味ですか?」
「いつまで俺たちについてくるつもりだ。いい加減に諦めろ」
言い方はぶっきらぼうだけど、今までみたいな『邪魔者を排除する』ための言葉じゃない。冷たい言葉の向こうに心配してるような雰囲気が感じられた。
「砦の向こうに人間の作った港町がある。そこに保護を求めれば、お前らなら助けてもらえるんじゃねえか」
「ですが俺たちは……ッ!」
「いくら学園長とやらが人でなしでも、こんな状況で勧誘してこいなんて無茶言わねえだろ」
「……言わない、と、思いたいのですが」
セベクの目がこっちを見る。無言で首を横に振った。そのやりとりを見たバウルさんがなんだか気遣わしげな表情になった気がする。
対照的にヴァンルージュ先輩は訝しげな表情になった。
「アンタぐらいの食わせ物でもやりこめられないって?冗談だろ」
「僕は所詮、庇護されている立場ですから。逆らえば居所を失います。選択の余地はありません」
「どうだか。アンタ、荒野のど真ん中に放り出されても生き残りそうじゃねえか」
「さすがにそれは買いかぶりすぎです。僕はただの人間ですから」
サバイバルの技術は無いからマジで買いかぶりなんだよなぁ。
「ただの人間、ねぇ」
「ええ。ただの人間です」
「育ちが良さそうな顔して山歩きに平然とついてきて、魔獣も武装した人間も恐れない。自ら囮になる度胸もある。愛想振りまいて人間嫌いの妖精どもまで骨抜きにして、ただの人間?」
「はい」
にっこり笑う。
だってバイパー先輩とかシェーンハイト先輩ならもっとうまくやりそうだし。単に運よく噛み合っただけだもの。
「それに誰も骨抜きになんてされていらっしゃらないでしょう?」
「どうだかなぁ」
ヴァンルージュ先輩がちらりと周囲に視線を向ける。何人かの兵士さんが気まずそうに目を背けた。苦笑するしかない。
「……私も右大将殿の意見に賛成します」
「バウル様!」
セベクがこの世の終わりみたいな声を出した。その声にちょっと申し訳なさそうな顔をしつつも、バウルさんは僕を見る。
「貴方がたが妖精の敵ではないというのは理解している。……だからこそ、人間から敵対される危険もある」
バウルさんも出会った頃に比べれば僕たちへの態度が柔らかくなった。打ち解けられたと考えれば、とても嬉しい。だからこそ僕たちを心配してくれている、という事も理解は出来る。
「ここで別れれば、捕虜であったと言い訳も立ちます。ですが砦に攻め入れば、我々の味方に……妖精側についたと思われる事は避けられない」
「……ご心配には及びません。ナイトレイブンカレッジでは、種族の違いや国籍……所属の違いで迫害されるような事はありませんから」
魔法が使えないと馬鹿にされるけどね。魔法士養成学校なんだから当たり前だけど。
「ですが、その……御国での立場は、大丈夫なのですか?」
「それも大丈夫です。僕の出身はとても遠い国ですから。……この土地に生きている人間たちに影響を及ぼす事も出来ませんけど」
バウルさん、すっかり信じてくれてるんだな。ヴァンルージュ先輩はちょっと疑う気持ちもありそうなのに。
強面だけど、彼も優しい妖精さんだ。
「本来は関係の無い人間だからこそ、見届けるべき事だと僕は考えています」
妖精の考えや事情は言葉の壁もあって人間には伝わりにくい。そして人間から伝えられる情報は、どうしても人間の立場に偏ってしまう。現場を見なくては解らない事はあるのだ。関係ない人間にだって正当性はある、はず。
もっとも、中立なんて聞こえは良いけど、当事者たちからすればどっちつかずの卑怯者だ。この場は特に、あまり胸を張って言える事ではない。
慎重に『賢く優しい姫君』を演じる。本音の中から、嘘にならない言葉を必死に探していた。
「……こうして同行を許していただいているのに、皆さんの利益になると断言できないのが心苦しいです。不利益にもなりたくない」
瞳を潤ませて目を伏せる。溢れるほどはいらない。ただ少し、堪えるような表情をするだけでいい。
少しの間だけ目を閉じて、涙を引っ込める。次に開いた時には冷静さを取り戻したように振る舞い、ヴァンルージュ先輩を真っ直ぐに見た。
「これまでと同じように、足手まといと思えば見捨てて頂いて構いません。どうかこれからも、我々の同行をお許しください」
深く頭を下げる。ヴァンルージュ先輩は溜息を吐いていた。
「……シルバー」
「はい」
「お前は何か言う事は無いのか」
顔を上げてシルバー先輩の顔を見る。シルバー先輩も真っ直ぐにヴァンルージュ先輩を見つめ返していた。
「俺もユウと同じ気持ちです。足手まといには決してなりません。同行させてください」
「……本当にいいのか?」
「覚悟は出来ています」
互いを見る目は睨み合いのように鋭い。けれどそこにあるのは敵対心じゃない。覚悟を示す者と、それを見定める者。信頼の置き場を探すやりとりだ。
一瞬のようで長い沈黙の後、ヴァンルージュ先輩は深々と息を吐いた。
「わかった。もう言わねえよ」
「う、右大将殿!」
「いざって時には囮でも何でもしてもらうからな。ここまで言ったんだから、その時になってごねるなよ」
「ありがとうございます!」
シルバー先輩とセベク、僕の声が自然に揃う。その勢いにヴァンルージュ先輩はちょっと引いた様子だった。
そしてふと、悪戯を思いついたような顔になる。
「しっかしお姫様がこんなに困ってるってのに、『王子様』は助けてくれないんだな?」
「王子様?」
「ヴィル、って男だったか」
噎せた。
咳き込んでいる間に、ヴァンルージュ先輩はグリムに目を向けた。
「なぁ、グリム」
「ふな?」
「教えてくれよ。そのヴィルってのはどんな奴だ?お前にも優しいのか?」
「全っっっ然優しくねえんだゾ!」
きっぱりばっさり即答されて、ヴァンルージュ先輩はますます楽しそうだ。
「態度が悪いとか姿勢が悪いとかいっつもギャーギャー言ってるし、こないだなんか無理矢理洗われて大変な目に遭ったんだゾ」
「それはグリムがポムフィオーレのお風呂嫌がったからでしょ?」
「だってなんかそこら中キラキラしてて落ち着かねえんだゾ。どこでもやたらと花とか石鹸の匂いがするし」
「お前らも知ってるのか?」
「ええ。彼もナイトレイブンカレッジの生徒なので。俺たちから見れば先輩にあたります」
ヴァンルージュ先輩が目を細める。
「お前たちから見てどんな男だ?」
「どんな……とても、綺麗な人だと思います。立ち姿が堂々としていて無駄がない。魔法士としても優秀な人です」
「ポムフィオーレ寮の寮長で、毒薬作りの名手だと聞き及んでおります」
「へえ、なるほど」
そこまで聞いて、再びヴァンルージュ先輩が僕を見る。凄く楽しそう。
「是非、ユウの口からも聞きてえな」
「な、なにをです?」
「ヴィルって男はどんな奴なんだ?」
「どんな……優しい人ですよ。少なくとも僕には」
「他には?」
「他には、って」
「あるだろ?惚れ込んだ決定打みたいなの。聞かせてくれよ、後学のために」
「何の参考にもならないと思いますけど!?」
「いいからいいから」
そんな事言われて思いつくかよ。気づいたら好きだったんだもん。
決定打とか無いでしょ。心当たりがありすぎる。
心なしかなんか周りのみんなそわそわしてるし。やめろこっち見んな。
「………………………………困った時に、何度も助けてくれて」
「ほう、例えば?」
「……………………諸事情で身一つで放り出された時に沢山服をくれたり、怪我をしたら魔法薬をくれたり、人への返礼品にアドバイスをくれたり、質の悪い人に口説かれてる時に助けてくれたり」
「他には?」
「…………命を救われた事も、あります。夜通し看病してくれた事もある。返しきれないくらいの恩があるんです」
話していたら、顔が浮かんでしまう。
恩返しをしたい人はたくさんいる。その中でも一番大きな気持ちはシェーンハイト先輩にあると思う。ずっと自分を助けてくれた人だから。
だからこそこれ以上、恩を仇で返すような事にしたくない。
「でも、あの人の夢が叶うのを邪魔したのも僕だから」
あの人を悲しませたくない。
つらい思いをしてほしくない。
僕がその理由になりたくない。
「何が起ころうと、助けを求める資格なんて、僕にはありません」
思わず言ってしまったけど、恋バナの範疇出ちゃってるなこれ。空気がドン引きしてる。
ぱっと明るい笑顔を浮かべた。
「まぁそういう事ですので!僕には都合良く助けてくれる王子様なんていません!学園長に言われるがまま、雑用係をするしか生き残る道は無いんです!」
これ以上この話をさせたくないし、敢えて空元気を隠さない。この話題にまた触れたら空気をお葬式にしてやるからな。
「……難儀な奴だな」
「そうでしょうかね?僕は事実を語ったまで。受け取り方は結局その人の勝手ですし」
「こりゃ他にも泣かされてる男がいそうだ。なぁ?」
ヴァンルージュ先輩がシルバー先輩とセベクを見る。何とも言えない顔の二人は僕の方を見ないようにしている。
「いえ、俺たちも詳しい事はよく知らないので……」
「他寮の寮長やその側近から信頼を受けている、とは聞いた事もありますが……」
「子分と一緒にいると、いろいろうまいもんが食えるんだゾ。リドルはしょっちゅうお茶会に誘ってくるし」
「勉強会ね」
「そう。勉強させられるのがヤだけど、紅茶もお菓子もウメエ!」
グリムの中では『お茶会に勉強がついている』という認識らしい。……まぁ確かに、勉強会と呼ぶには割と緩い集まりではあるけど。
「レオナはうまい肉を食わせてくれるし、アズールはモストロ・ラウンジの新メニューを試食させてくれるし、ジャミルはうまいものが食える宴に誘ってくれる。学校のメシもウメエし、シルバーたちの作ったメシもうまかったし、子分の作るメシもオレ様は好きだゾ!」
「それはどうも」
ふふんと胸を張るグリムの頭を撫でる。グリムの『おいしい』判定の是非はともかく、褒められれば悪い気はしないものだ。
「食事、食事ねぇ……」
そんな僕たちを見て、ヴァンルージュ先輩は何やら物憂げに呟く。
「……マレノア様にも、食事に関していろいろ言われるんだよな」
ぼそっと呟いた内容に、全員の視線が自然と集まった。興味津々な視線に気づかずに、ヴァンルージュ先輩は不満を口にする。
「あの時も、せっかく俺が用意したメシにケチつけてきて……」
「それはもしや……ヴァンルージュ殿が料理を振る舞われたのですか?」
「は?俺が料理なんかするわきゃねえだろ」
「えっ!?」
シルバー先輩とセベクが驚きに仰け反ると、ヴァンルージュ先輩は不愉快そうに顔をしかめる。
「なんだ、その驚きようは。そのままでも食えるもんに手間暇かけても意味ねぇだろうが」
確かに、出会った当初からこの感じだ。軍人として別に違和感は無いのだけど、二人はなんであんなに驚くんだろう……。今度訊くべきかなぁ。
「だがマレノア様ときたら、干した肉は硬いだのしょっぱいだの、文句ばかり言いやがる」
確かに、お姫様が食べるにはおいしくないかもなぁ。保存食って味より日持ちする事が大事なわけだし。
「結局あの時は、レヴァーンの奴が鍋やら何やらを召喚してスープを仕上げてくれたんだっけな。『やっぱりお前だけが頼りだよ』なんて、当てつけみたいにレヴァーンを褒めちぎって……」
ヴァンルージュ先輩はその時の事を思い出しているようで、大変なしかめっ面だ。
奇しくもシルバー先輩たちの作った今日の料理も干し肉がスープに入ってるし、それで思い出したのかも。
「……ああいうトコで差をつけられたのかもな。食糧を持参してたのは俺だってのに」
苦い思い出らしい。
一方、バウルさんはめちゃくちゃに動揺していた。
「マレノア様が干し肉を口にされた……?それはいったい、どういう状況で……」
「お転婆姫の気まぐれに巻き込まれて、森で迷子になった挙句に野宿する羽目になった事がある」
しれっと言ってるけど、結構な大事なのでは?バウルさんめっちゃ驚いてるし。
「マレノア様と、レヴァーンと、俺がまだ飛行術もおぼつかなかったガキの頃だ」
子どもの頃の冒険、という事だろうか。
彼らは真っ白い霧の立ちこめた森の中を彷徨った。霧のせいでどの方向に行けば城に着くかも分からない。一度空に出て方向を確認する事も出来ない。
「あの時のレヴァーンの情けないツラときたら……忘れたくても忘れられねぇ」
機嫌良く笑う彼の脳裏には、如才ない友人の間抜けな姿が今も焼き付いているらしい。意地悪い言葉なのに、不思議とどこか温もりを感じる。
「マレノア様はピンピンしてた。物珍しさもあってか、むしろ楽しんでる様子でな」
まぁお姫様って、城からそう簡単には出られなさそうだもんな。森の中を歩く経験なんてなかなかしないだろう。一人じゃないから、っていうのもきっとあるんだろうな。
飛行術はおぼつかなくても、食べ物を持ってきていた用心深いヴァンルージュ先輩と、怯えながらもはぐれずついてきて、機転を利かせられるレヴァーンさん。
マレノア姫にとっては、ふたりとも充分に頼れる騎士だったんだろう。夜の森なんか怖くなくなるくらいに。
「こっちは歩き回ってくたくたなのに、眠れないからって明け方までおしゃべりに付き合わされて……」
……ああ、そうか。
バウルさんの反応からして、茨の国のお姫様が城を抜け出して夜の森を冒険するなんて、あり得ない事なんだ。
きっと彼女は、夜が明けるのが惜しくてたまらなかったのだろう。眠っている時間すら惜しくて、眠いヴァンルージュ先輩を叩き起こしていたに違いない。
「……これからもずっと、俺はあのお姫様に振り回されて生きていくしかねぇんだろうな」
言葉は諦めているような調子だけど、やっぱりどこか暖かい。文句は言いつつも、マレノア姫から離れる選択肢なんて存在すらしていないだろう。
この後の悲劇など知るはずもない。いや僕も知らないけど。
「その後はどうやって城に戻られたのですか?」
「日が昇ってすぐに、当時の近衛兵長が迎えに来た」
森への探険はマレノア姫が言い出した事なのに、ヴァンルージュ先輩が大目玉を食らったらしい。
……まぁ話の通りのお姫様なら、怒られた所で懲りる事なんかなさそうだけど。ふてくされて開き直って、説教してきた相手にあっかんべーとかしてそう。
「あの方に付き合ってるとロクな事がねぇ。やれやれだ」
……そうは言いつつ、きっと彼女の危機には我先にと駆けつけるんだろうな。そんな気がする。
ふとヴァンルージュ先輩の表情が暗く沈む。
「……レヴァーンの痕跡ぐらいは、見つけてやりたかったんだがな」
そういえば、行方不明になった彼らの痕跡は見つけられなかったな。ここにも無かったし、おそらく有力な情報源になったであろう支援者の村もあの状態だ。調査隊の生き残りの兵士も村の住民の女性も何も知らなかったようだし。
こうなると生存しているかも疑わしい。いや、元から望み薄だったのかもしれない。瞬間移動の魔法が使える彼らがすぐに戻ってこないという時点で。
あるいは。
……使節団が意図的に、痕跡を残さなかったという可能性もあるけど。
その理由は不明だ。そんな事をする意味は無さそうだし、想像もつかない。
それにここは夢の中だから、当時の『ヴァンルージュ先輩がレヴァーンさんの痕跡を発見できなかった』という事実が、場所にかかわらず反映されているだけかもしれない。つまり、どこを探しても夢の中では見つけられない可能性がある。
……なんだか心苦しいな。ヴァンルージュ先輩はどこまでも真っ直ぐに、大切な姫を守り友人を捜す事に尽力している。なのに周囲の状況は彼を誠実に援護するものではない。
まぁ僕に出来る事なんて何もないんだけど。
「梟の砦に何か情報があれば良いのですが」
「どうだろうな。……探りたい所ではあるが、今は書状を届けて野ばら城に戻るのが優先だ」
お前らも変な気を回すんじゃねえぞ、と釘を刺された。素直に頷く。
夢の中の世界である事を忘れそうなぐらいの旅路だったけど、やっと折り返し地点かな。届けた後、野ばら城に戻らないといけないワケだし。
ツノ太郎の使った魔法の解除、あるいは目覚めるためのヒントを得るためにヴァンルージュ先輩に張り付いてるけど、今の所ろくな手がかりがない。
ここはただの夢の中。現実にはなり得ない景色。得られる情報もどこまで宛にして良いかわからない。
……やっぱりヴァンルージュ先輩に目覚めてもらわないと、ヒントは無さそうだな。タイミングが難しいけど。
どうしよう。ここまで頑張ったのに『無敵です。生きてる人間には対処不可能です』とか言われたら。泣くぞ。地面にひっくり返ってみっともないぐらい泣き喚くからな。