7−2:疾紅の戦鬼
坑道から出れば、外はすっかり日が落ちていた。いかに換気がされていると言えど、やはり坑道と外じゃ空気が全然違う。
事の顛末を報告すると、町の長と見られる人は憤りつつも脅威が去った事に安堵していた。内部に詳しい坑夫たちと外で警戒していた兵士たちが組になって採掘場の安全を確認したけど、もう魔獣の姿は影も形もない。ただ残された残骸や血の後始末に、崩れた坑道や壊れた照明設備の修復も行う必要があるので、しばらく操業再開は難しいだろうとの事だ。
むしろこの場所を捨てて、もっと黒鱗城に近い山の中に採掘場を探す事も考えているとか。現在までにかなり採掘が進んでいるので、産出量は減りつつあったようだ。場所が『銀の梟』に知られている事を考えると、それは割とアリな気がする。
先の事はともかく、魔獣討伐の成功を住人たちは喜んでくれた。王宮近衛隊、それも右大将が来てくれたとあって、町の人たちの歓迎ムードは最高潮。たくさんの食事と心地よい寝床でもてなしてくれた。
お肉も野菜もいっぱいの煮込み料理にチーズを乗せた堅焼きのパン。ジャムがいっぱい使われたクッキーやパイ、ハーブの匂いが心地良いお茶と、何を食べても幸せな気分になった。
人間と妖精、種族が違っても美味しいものは同じ。最高。
「昨日のローストもうめえけど、こっちも最高!肉も野菜もうんまいんだゾ!」
「本当に。僕たちも一緒に食べさせてもらってなんか悪いなぁ」
「なぁに言ってんだ。オレ様たちだって大活躍したんだからな!遠慮なんかする必要ねぇ!」
グリムはご満悦だ。微笑ましく思う一方で、こういう時に真っ先にツッコミを入れてくるセベクが妙に静かなのが気になる。食が進んでない、という訳ではないと思うけど、こちらを気にしないようにしてる感じがした。
「……結局、あの魔獣は何だったのだろう」
シルバー先輩がぽつりと呟く。グリムが首を傾げた。
「うん?あのオッサンが連れてきたって話だろ?」
「そうなんだが。……あの見た目、『闇』に似ていたと思って」
言われてみれば、アレが滴らせていた黒い液体は『闇』が出てくる液体に似ていた気がする。
「分身みたいなものを展開して時間を稼いだり、妙に知性もありましたしね」
「思うのだが。……現実の親父殿は、南の方を回ったのではないだろうか」
「……どういう事だ?」
「使節団の目的を考えれば、風鳴き渓谷に向かうまでに南の集落とここの両方を回るのは効率が悪すぎる」
「……まぁそうでしょうね」
「親父殿はこの場所で起こった事は伝聞でしか知らない。だからそこにいたであろう魔獣をイメージで補完している」
「その補完が不十分で『闇』が滲んでいた、みたいな?」
「確証は無いが……もしそうだとしたら」
「……現実のこの場所は『銀の梟』か魔獣に滅ぼされた、という事になる」
現代では『野ばら城』を含めた南の湿地は茨の谷の領土に含まれない。
ここも茨の谷の領土ではないとしたら、そういう事かもしれない。現実に戻らないと確かめようがないが。
空気が重い。何とも言えない気持ちになる。
ここは夢の中。何をしたとしても現実に影響は及ぼせない。
だから何をしても許されるのかもしれないけど、そんな割り切れるような状況でもない。
「でも、魔獣は倒せたじゃねーか」
グリムがけろっとした顔で言い放つ。
「ここに行くって決めたのもリリアだし、現実でもこっちに来たのかもしれねえだろ」
「……それは確かに、そうだが」
「それに偽物だろうと関係ねえ。頑張ったからこうして美味いメシが食える!それでいいだろ!」
快活に笑って、グリムはパンにかじり付く。
「固くて噛みごたえ抜群なのがクセになる!煮込みのとろとろソースと絡めると甘みが際だって幾らでも食べれちまう~」
「食べ過ぎておなか痛くならないようにね」
「オレ様はそんなヤワな胃袋してねーんだゾ」
グリムは元気だなぁ。そんな姿に今はとても励まされる。
「確かに、推測で落ち込んでても仕方ありませんね。今のところ真相は確かめようがない」
「……そうだな」
シルバー先輩の表情が柔らかくなる。声のする方に目を向ければ、王宮近衛隊の人たちに住人たちが群がっていた。和気藹々と楽しげに交流している。
敵の数が多く苦労も多そうだけど、妖精たちの信頼は篤いようだ。微笑ましい。
悲しい気持ちに安らぎを与えるような、穏やかで賑やかな夜だった。