7−1:微睡む黒茨の塔


 待ち合わせは午前七時。
 ……というか、シェーンハイト先輩がオンボロ寮まで来てくれるらしい。顔だけ洗って着替えないで待ってろ、なんて言われたんだけど。
 もしかしてこれ、朝から着せ替え人形にされるやつ?
 そわそわしながら談話室で待っていると、時間ぴったりに来客を知らせるブザーが鳴った。玄関に向かい扉を開ければ、大荷物を抱えたハント先輩を後ろに従えたシェーンハイト先輩がいる。シェーンハイト先輩もハント先輩も私服姿だ。
「おはようございます、シェーンハイト先輩……と、ハント先輩?」
「おはよう」
「おはよう、ユウくん。安心しておくれ、私はここまでの荷物持ちだから」
 言いながら談話室に入り、荷物を広げていく。
 持ち込まれた簡易のハンガーラックが洋服でいっぱいになり、足下には靴の箱が重なって、テーブルにはコスメとアクセサリーがずらりと並べられた。
「アタシの隣を歩くのに半端な格好をさせるわけにはいかない。解ってるわね?」
「……ひゃい……」
「そんなに怯えないでよ。アンタだって予想はついてたでしょ?」
「まぁそうですけど……なんか……迫力が凄くて……」
「これでもだいぶ減らしたのよ。行く予定だったショップから厳選して商品を取り寄せたんだから」
 不満そうに唇を尖らせて言う。
「服のサイズは着こなしによって上下するし、色味だって実際に合わせてみないとしっくりこないかもしれない。通販じゃ限界があるのよ」
 先輩らしいこだわり方だ。まぁ僕は詳しくないから従うしかないんだけど。
「これ全部アンタにあげるから」
「はいっ!?」
「サイズも色もアンタに合わせてるんだから、アタシが持っててもしょうがないでしょう?」
「そ、そりゃそうですけど……お、おいくらぐらい……」
「このアタシが、プレゼントの代金を請求するようなケチくさい真似をするとでも?」
「け、ケチくさいとかではなく!なんていうかそういう問題じゃなくて!」
「これに限らず、今日アンタにかかる全てのお金はアタシが払う。それはアンタがアタシに付き合って出かける対価」
 いつになく真剣な表情で僕を見る。
「随分マシにはなったけど、アタシと出かけるならファンやパパラッチから逃げなきゃいけない場面も出てくるかもしれない。あらぬ噂を立てられるかも知れない。そういう迷惑料も含んでるの」
「迷惑なんてそんな……」
「あくまで学校の後輩とのお出かけとするために道中でマジカメ用の撮影もするし、基本的にこちらの要望には従ってもらうわ」
「そ、それは別に文句ないですけど……」
「アタシが最高の休日を過ごすための対価なの。アタシが支払って当然でしょう?」
「……先輩と出かけるなら僕にとっても最高の休日なのに……なんか、してもらうばっかりで申し訳なくて……」
 先輩が目を見開いて一瞬固まる。おもむろに後ろを向いて、天を仰いで深呼吸した。振り返った時にはいつもの先輩になっている。
「その気持ちだけで十分よ。受け取ってもらえるだけで、アタシも嬉しいから」
「……先輩」
「お願い。ね?」
 まぁそりゃあ、請求された所で払う宛なんか無いし、受け入れる以外の選択肢は結局存在しない。
「……解りました。ありがとうございます、先輩」
 僕が微笑むと、先輩も笑ってくれた。
「さ、じゃあ早速始めましょう」
「お、お手柔らかにお願いします……」
「任せてちょうだい」
 シェーンハイト先輩はとびっきり綺麗な笑みを浮かべた。呼吸を忘れるほど美しい。そしてめっちゃ怖い。
「世界一可愛いアタシのお姫様を、相応しく飾らせてもらうわ」

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