7−1:微睡む黒茨の塔
ヴァンルージュ先輩からお別れ会の招待状が届いたのは、ミッキーとの交信調査を始めて数日後の事だった。
あれからメンバーを変えていろいろ試したものの、ミッキーは現れない。ああでもないこうでもないと話すほどにチェック項目が増えて、温度計やらゴーストがいるかどうかやら、メモする内容がどんどん増えていった。……そりゃまぁ、何が影響するかわかんないってのはそうなんだけど、僕の平均睡眠時間とか食べたものの内容とかは必要なのかな、本当に。
その間、ローズハート先輩作の問題集を頑張って、イマイチな進捗に呆れた顔をされる事もあった。悲しい。
……元の世界に帰る事になったら、ここでの勉強なんてきっとする意味も無いのだろうけど、サボるという選択肢は無いのだから自分は真面目だなぁと思う。……いやサボったら怖い先輩が多すぎるのもあるんだろうけど。先生も怖いんだけど。
正直、僕がもう少し勉強が苦手な人間だったら、とっとと逃げ出していたかもしれない。ここが全く知らない世界なので常識から何から違いすぎて、逆に興味を引かれたというのも『勉強している』という意識を緩和しているような気がする。
閑話休題。
お別れ会は今週の土曜日。所用で交信調査は一時中断としていたので、まぁそこは問題なかったんだけど。
『最悪』
シェーンハイト先輩からはお別れ会の招待状の日時が記載された部分の画像と共に、一言そう送られてきた。
土曜日、というか土日は、先輩と買い物に行く予定を立てていたのだ。学校に外泊の申請まで出していた。
ヴァンルージュ先輩はディアソムニア寮の副寮長。今回のお別れ会は学校関係者のほとんどに招待状が送られているみたいだし、ほとんど学校行事のような規模だ。
そんな大規模なお別れ会に、僕はともかく、ポムフィオーレの寮長であるシェーンハイト先輩が出ない訳にはいかない。同学年で付き合いも長いし、魔力を渡して老化を治したのはツノ太郎とはいえ、そこまで誘導したのはヴァンルージュ先輩だし、その辺りのお礼とかも言いたいのだろう。
『こればっかりは仕方ないですよ。ヴァンルージュ先輩の話も急でしたから』
『解ってる。解ってるけど、タイミング悪すぎ』
嘆きながらのたうち回るカラスのスタンプが連打される。かわいそうだけどかわいい。
スタンプ爆撃が終わった頃合いを見計らって文字を打ち込む。
『また改めて予定立てましょうね』
送ってから、次の機会なんてあるのかな、なんて考えてしまう。
シェーンハイト先輩は時間がかかる芝居の仕事こそしてないけど、モデルとしての仕事は頻繁に入ってくる。休みの日は勿論、平日に学校が終わってから入る現場もあるみたいだし。映画研究会の活動も外ロケとか珍しくないし、寮長の仕事も勉強もあるし、本当に忙しそうで身体の事も心配。無理にスケジュールを変えてほしくない。
……元の世界に帰ってしまったら、先輩にももう会えない。デートどころか、こうやってメッセージのやりとりだって出来はしないんだろう。
薄暗い気持ちになっていると、メッセージの着信音がして我に返った。
『せめて昼間は麓の街でデートしましょう』
ダメ?とうるうるした目で首を傾げる猫のスタンプがくっついている。
確かにお別れ会は夜からだから、昼間は空いてるよな。元々朝から出かける予定だったわけだし。
『ダメじゃないです』
喜ぶウサギのスタンプをダメ押ししておく。ほぼ次の瞬間に、喜ぶ動物たちの派手なスタンプが連打されてきた。激しい。多分、日程被りが判った時、めちゃくちゃ落ち込んでたんだろうな。反動すごい。
『日曜日も予定入れないでおいてくれる?』
『勿論です。空けておきます』
了解のスタンプを押せば、さっき嘆いていたカラスが嬉しそうに踊っているスタンプが送られてきた。かわいい。お互いに就寝の挨拶をして画面を閉じる。
……デートかぁ。
なんだか顔がにやけてしまう。
本来の予定では丸二日着せかえ人形にされるのが確定してたので、まぁ喜ばしいばかりではなかったんだけど、麓の街なら服もコスメも店が限られる。普通の男子学生なら不自由しない程度には揃うんだけど、シェーンハイト先輩みたいなおしゃれな人だとちょっと物足りないはずだ。
時間制限もあるし、きっともう少し普通のデートっぽくなるだろう。いや普通のデートとかよくわかんないけど。
そう思うとアーシェングロット先輩のデートプラン凄かったな。途中変更が入っても肩の力を抜いて楽しめたし。やっぱイケメンだとそういう慣れあるのかなぁ。もちぷにだからモテないとも限らないし。
シェーンハイト先輩も結構そういう体験してそうだよなぁ。芸能人だし。共演者からアプローチとかいっぱいされただろうし。芸能界なら綺麗な人もいっぱいいるだろうし、意外とまんざらでもなかったりして。
……………………………。
考えるのやめよう。これ以上は良くない。
とにかく、デートを楽しむ事だけ考えよう。ヴァンルージュ先輩のお別れ会は餞別は不要って書いてたから手土産を買うとか考えなくてよさそうだし。
元の世界に帰る前に、良い思い出を作れたらいいな。僕にも、先輩にも。