7−1:微睡む黒茨の塔



 鏡面が水面のように揺れる。
 何も映さなかった闇色に、景色が映る。


 時代を感じる石造りの立派な城。奥まった綺麗な部屋。
 赤ん坊の泣き声が響いている。その音の出所であろうゆりかごを、三人の妖精が覗き込んでいた。

『私たち三人からひとつずつ贈りものを差し上げます、小さな王女様』

 誰もが彼女の生誕を祝っていた。
 王女の両親であろう国王と王妃、彼らに招かれたであろう他国の王と王子。
 他にも国の中枢に関わる者たちが一同に介し、その場を護衛するだけの者たちでさえ、小さな姫君の誕生を祝っていた。

 その空気が一瞬で変わる。
 捻れた角を持つ黒衣の女が、長い杖を手に黒いカラスを従えて、国王の前に立っていた。

『マレフィセントだわ』

 誰かが囁くと、途端に会場のざわめきが強くなる。
 招かれざる客に恐れを含んだ視線を向けていた。

『招待状が来ないので心配で……』
『招かれてないのよ』

 あくまでも丁寧な、しかしどこか冷たい言葉を放つ魔女に、妖精は冷ややかに言い放つ。
 魔女の表情に怒りは無かった。それが一層不気味に映ったであろう事は想像に難くない。

『私からも贈りものを捧げましょう』

 魔女は杖を掲げた。その声は朗々と、広間に響きわたる。
 低く美しく豊かに張りがあり、それなのに聞く者に恐怖を叩きつける声。

『皆の者、よく聞くがいい。王女はしとやかに美しく育ち、全ての人に愛されよう。しかし十六歳の誕生日の日没までに、王女は糸車の針で指を突き、そして……』

 どこかで音を立てて古い糸車が回る。
 ただ必要で存在するだけの針が、恐怖の象徴へと姿を変えていく。

『死ぬ』

 魔女の呪いが明確な言葉になった瞬間に、世界は真っ暗に暗転する。
 愛する者に最悪の贈り物を授けられた、彼らの絶望を示すように。


 招かれざる客。祝福を許されなかった魔女。
 だから誰かを呪っていいものではない。それは解っている。
 ……本当にこれしかなかったの?


 …………もしかして、あなたもそうだったの?


 鏡面が揺れる。
 映っていたものが溶けて消えていく。


1/24ページ