6−2:宙を睨む奈落の王
紅茶と牛乳とツナ缶、それから細々した調味料や夜食を買ってオンボロ寮へと戻った。
お菓子もジュースも十分あるけど、イチゴタルトがあるなら紅茶は必要だよね。食器は無事だし問題ない。
談話室はすっかりパーティーモードだ。イチゴタルトは綺麗に切り分けられ、人数分の食器も用意されている。スナック菓子も貰ったお土産も食べやすいように開かれて、飲み物とコップも準備完了。
『おかえりなさい!』
「ただいまー」
オルトが笑顔で出迎え、残っていた面々も口々におかえりと声をかけてくれた。シュラウド先輩も逃げていない。
『ゲーム機のセットアップが完了したよ!』
「やったー!ありがとう!」
「喜びすぎでは?」
「詳しい人には何でもないんでしょうけど、こういうのの初期設定って面倒なんですもん」
『ゲーム機に紐づけたアカウントのセキュリティパスワードは、後でメッセージで送っておくから、ちゃんと変更しておいてね』
「アッ、ハイ……」
『僕たちを信用して面倒くさがっちゃダメだよ』
「ハイ……ちゃんとやります……」
さすが詳しい人は厳しい。
「アンタたちが管理できた方が便利がいいんじゃない?この子たちのデータに悪戯したりしないでしょ?」
『そうなんだけど、兄さんが勝手に課金してポイント追加しかねないから』
「ヒェッ」
『ほら、こうなるから。だからダメ』
「べ、別に不正利用とかじゃなくて!推しへの課金は心の投資なんで!!」
「いきなりポイントだけ増えて請求来ないの、それはそれで怖いのでやめてください」
「じ、じゃあギフトカード贈るから……」
「僕に課金しないでください」
「ダメ?」
「ダメ」
しょんぼりと火が弱まる。ここまで言っておけば貢がれはしないだろう。
っていうか、ゲーム機だけでも結構な金額なのにまだ何かする気だったんかこの人。これまでも沢山助けてはもらったけど、グリムをモフるっていう対価を求めてきた分まともに見えてたんだよな。内側に入ると特別甘くなるタイプなんだろう。
『はい、ユウさん。何で遊ぶか選んで?』
オルトにコントローラーを手渡され、すでにダウンロードされているゲームの一覧を表示する。
ドット絵からポリゴンまで、年代も違いそうなバラエティ豊かなゲームのアイコンが表示されていた。……凄い数あるんだけど。ナイトレイブンカレッジ卒業するまでに遊び尽くせなさそうなぐらいあるんだけど。かかった金額を考えそうになるのを必死で堪えた。
「あら。『嘆きの島』で遊んだレトロゲームが全部入ってるじゃない」
『えへへ。またみんながこれで遊んでくれたら嬉しいなって思って』
「え、どれですか?」
「最初の方に入ってた『冥界伝説』と『ヒドラの逆襲』と『スター・ローグ』よ」
言われてみれば、確かにその三タイトルが先頭に並んでいる。シュラウド先輩もオルトもオススメって事かな
「……そういえば、『嘆きの島』でもアタシたちにやらせるばっかりで、アンタたちはプレイしてなかったわよね」
「拙者たちは隠しステージや裏ボスまでハードモードで全クリしてますからな」
シュラウド先輩がしれっと答える。強い。
たまにゲームの攻略とか探すと、『どうやったらそんなん出来るの?』ってやりこみの人とか出てくるけど、多分みんなシュラウド先輩みたいな人なんだろうな。
自信ありすぎて平然としているシュラウド先輩に、シェーンハイト先輩は笑顔を向けた。
「なら、今日はお手本プレイを見せてくれない?」
「えっ」
「それいいっすね。チュートリアルやるより、見て覚えた方が早いし」
エースが気軽に同調する。みんなも興味があるみたいで反対意見無し。
「オレ様、この一番派手そうな『スター・ローグ』ってヤツがいいんだゾ」
グリムの一声でゲームも決まる。
『じゃあ兄さんには、ハードモードより難しいメテオモードでノーミスプレイにチャレンジしてもらおうか』
「えぇ~……それじゃ参考にならないんじゃないの……」
……出来ない、じゃないんだよなぁ。
渋る兄に、弟は首を横に振る。
『普通にプレイしてるのを見たって、それこそ面白くないよ。兄さんならではのお手本プレイを見せてもらわなきゃ』
起動するゲームを選択してコントローラーを渡す。程なく壮大なオープニングが流れて、タイトル画面になった。
「レトロな雰囲気だけど面白そうじゃん」
「……ッス……」
シュラウド先輩は居心地悪そうにしている。なんかいつもよりぷるぷるしてるんだけど。
『兄さん。一分間の心拍数が九十回を越えてるけど大丈夫?』
「こ、こんな大勢に見られながらやる機会なんて無かったし!」
めっちゃ緊張してるじゃん。
「無理しない方が良いのでは?」
「や、いや、出来ますから!目を瞑ってても余裕ですし!?」
答えながら、何やら複雑にボタンを押してるけど画面は動いてない。
「にゃはは、緊張しすぎてボタン間違えてるじゃねーか!」
「あ、メテオモードって隠しコマンド要るやつなんですね」
「隠し……コマンド?」
『その通り!タイトル画面で隠しコマンドを入力すると出来る特別な激ムズモードなんだ!レトロゲームの醍醐味だよね』
「ハシバ氏、相変わらず話が早い……」
「ユウってこういうゲームもやんの?」
「昔、父さんが似たような感じのゲームでよく遊んでたから、教えてもらったり一緒に遊んでもらったりしたよ。上手じゃないけど」
なんて話していたらゲームが始まる。
宇宙を舞台にしたシューティングゲーム。敵の攻撃を避けつつ倒して、アイテムを拾って操作キャラを強化しつつボス戦に向かう。元の世界でもありそうな雰囲気の、割と定番のゲームだ。
昔のゲームでも、だいたい最初のステージは操作に慣れるために簡単な作りになってて、初心者でもボスまで辿りつけたりする。のだが、どう見ても目の前の画面は尋常じゃない量の攻撃で画面が埋まっていた。
「うわ、敵が凄い撃ってきてる!?」
「こんなもん親の顔より見てきましたわ!」
シュラウド先輩の操作するキャラクターは、針の穴を通すような細かい操作でその攻撃をくぐり抜けていく。ドットで分かりづらい間合いを無駄なく使い切り、敵も一切撃ち漏らさない。完全に内容を全部把握している人の動きだ。
初心者には何が起きているのか分からないけど、凄い事はイヤでも解る。
「すごいすごい!!」
「ふなぁ~……見てるだけで目が回るんだゾ~……」
「イデアサン、すげえ指さばき」
「本当ね。まるで指が二倍に増えたみたい」
「流石にこれは真似できねーわ……」
難なく一面をクリア。二面、三面と、傍目にはどうやってるのか全く解らない動きでサクサク終わらせていく。全くダメージを受けないから進行が止まる事が無くて、そこまで長いゲームじゃない事もあり、程なくラスボス戦に辿りついた。これも鮮やかにクリアしてスタッフロールが流れれば、歓声と讃える拍手が自然とまきおこる。
『ふふふ、まだ終わりじゃないよ』
オルトがにやりと笑う。シュラウド先輩もすっかり緊張は抜けたようで、穏やかに微笑んでいた。
僕たちが首を傾げていると、スタッフロール後のクリアを祝う画面が不自然に暗転する。
『メテオモードでノーコンティニュークリアしないと出てこない……最高難度の隠しボスのおでましだ!』
「これを越えないとノーミスクリアとは言えませんなぁ!」
兄弟揃ってめちゃくちゃ活き活きしている。
テンションが上がるだけの事はあり、めちゃくちゃ難しそうな敵だった。敵の弾の数も凄いがそれを攻略するシュラウド先輩の手腕も尋常じゃない。
隠しボスが派手に沈めば、再び歓声があがった。さっきよりも派手なお祝い画面が出てきて、達成感を味わわせてくれる。
「あの隠しボスって、映画にも出てきたわよね?」
「そうなんすわ。ゲームのコレを知ってると、キャラの印象が全然違ってくるんだよね~。映画でその辺を無駄にアピールしてないのも逆に良いっていうか」
「え、このゲーム映画になってるんですか?」
「ええ。結構な名作よ」
「今度見ます!」
「あんなに大量にビームが飛んできてたのに、どうやって避けてたんですか!?」
「び、ビームの色によって飛んでくるタイミングとか数が決まってるから、パターン覚えれば攻略は簡単なんで……」
「見てると絶対無理!って思うのにイデア先輩、全部避けちゃうんだもんな」
「ま、まぁ、『スター・ローグ』は理不尽なムズゲーと違って、ちゃんと極めれば全部避けられるように出来てるんで……」
後輩たちが目を輝かせて話しかけると、シュラウド先輩は引きつつも答えてくれた。今のスーパープレイ見せられたら、男子は懐くよね。
「とはいえ、今のを見せられた後に挑戦する勇気は無いなぁ……」
「拙者のお手本の意味は!!??」
「あら。凄く良いもの見せてもらったと思ってるわよ?」
「ええ。非常に勉強になりました」
『「スター・ローグ」は基本プレイヤーが二人までだから、人が多い時は向かないもんね。「ヒドラの逆襲」に入ってるレースゲームなら、最大六人まで一緒に遊べるよ』
「あ、切り替える前に名前入れちゃってください」
画面はエンディングから、高得点記録のネームエントリーに移っている。もちろん堂々の一位。……覆る事なさそうだな、これ。
「え、別に残さなくても……」
「残してくださいよ。せっかくですから」
「……わかった」
シュラウド先輩は自分の名前を入れて画面を終わらせた。ゲームデータがセーブされ、次に表示されたランキング一覧の画面には、しっかりとシュラウド先輩の名前が表示されている。
その時ぼんやりと、シュラウド先輩が遠くを見ている事に気づいた。幼い頃の事を思い返しているのかもしれない。
「……もしよかったら、いつかオルトのやってる所もここで見せてくれない?」
『僕も?何で?』
「んー……ランキング画面にいろんな人の名前が並んでたら賑やかだろうなと思って」
オルトはしばらくきょとんとしていたけど、意味は察してくれたらしい。
『いいよ!じゃあまた兄さんと一緒に遊びに来るね!』
「拙者も!?」
「うん、是非よろしく!」
先輩の操作でゲーム画面はすでに『ヒドラの逆襲』に切り替わっていた。
こちらはパーティーゲームらしい。ミニゲームがたくさんあって、複数のゲームで合計点を競ったり、ひとつのゲームを集中して遊んだり、いろいろな遊び方が出来る。
「あれ?このレースゲーム、見た事あるかも」
追加のコントローラーをオルトと用意していると、エペルが声を上げた。
「ほら、ユウ。『嘆きの島』でやったヤツに似てない?」
言われてみればなんとなくキャラクターやゲーム全体の雰囲気が似てる気がする。こっちの方が画面の解像度は荒いけど。
『このレースゲームは単体でも人気が高くて、後にレースゲームだけの続編も何作か出てるんだよ』
「やっぱり!僕らが遊んだのはシリーズの最新作だったけど、こんなに昔からあるんだ!」
「新作が出る度にシステムはどんどん進化してるけど、初代は初代で趣深いんだよなぁ……」
『パーティーゲームの一部の割に出来がいいんだよね』
兄弟がしみじみと言う。本当に仲が良いよなぁ。
「誰からやる?」
「オレ様やりたい!」
「オレも!」
「僕も!」
「僕もやるー!」
「じゃあ、シュラウド先輩とオルトでちょうど六人ですね」
「拙者たち強制なの!?」
「王者枠なんで。挑戦者をガンガンなぎ倒していただかないと」
そうでもしないと見てない間に逃げそうなんだもん。
やりとりを見ていたオルトが楽しそうに笑った。
『いいね!でも兄さんにはコントローラー逆持ち縛りとかさせた方がいいよ。凄く強いから』
「オルト、さりげなく自分だけハンデ回避しようとするのやめてくださらんか?オルトこそアイテム使用禁止縛りくらいはしてくれないと」
ハンデ付けてもどっちも強そうなんだよなぁ。果たして僕たちで太刀打ちできるかどうか。
「じゃ、残った人たちは激戦を見ながらお茶会といきましょうか」
「そうしましょうか。紅茶淹れましょう」
「手伝おう」
「オレも手伝うぜ!」
キッチンへ向かうと、アジーム先輩とバイパー先輩がついてきてくれた。断る理由も無いので一緒にキッチンに入る。
「一年生たち楽しそうだったな。うちの寮にもゲームを取り入れたら喜ばれるかな?」
「人数が多いと台数がな……『ワンダー・リンク』は今のところ稀少だし、談話室のテレビ一つじゃ足りないだろう」
「う~ん、ダメか?」
「確かに、普通の寮だと人数が多いから揉めちゃいそうですね」
「ああ。何でも取り入れれば良いというものでもないからな」
「宴の時に盛り上がるかと思ったんだけどなぁ~……」
アジーム先輩らしい考え方だ。
苦笑しつつ、ふとゴーストカメラの事を思い出す。あれも机に置いてたんだけど、ケースに特殊な防御魔法が使われてたとかで、全くの無傷だったらしい。
「そうだ。今度スカラビアで宴をする時は教えていただけますか?」
「うん?もちろん!いつでも歓迎するぜ!」
「君からそう言われるのは珍しいな。何かあるのか?」
「学園長からゴーストカメラで皆さんの記録を撮るように言われてるんです。スカラビアで撮影するなら宴の時かなって思って」
「そういう事か」
「じゃあ、とびっきり豪華な宴にしてやらないとな!」
「……いやあの、バイパー先輩や皆さんの負担にならない程度で大丈夫ですから……」
主役は生徒であって、宴の様子じゃないしなぁ。
割れない食器類や紙皿をアジーム先輩に預け、残りはバイパー先輩と分けて持った。
ゲームをしている面々はすでに大はしゃぎだ。
「ふ、ふなー!ぐるぐるしてるんだゾ!」
「グリムは論外だからともかく、イデア先輩もオルトも速すぎ!!」
「コントローラー逆持ちアイテム禁止でこれ!?」
「くそ、追いつけねえ!」
「次は一周ハンデつける?」
『それでやっと良い勝負かもね!』
やいやいうるさい一団を、シェーンハイト先輩とハント先輩が楽しそうに見守っている。
「一年生が集まると騒がしいな」
「うーん、やっぱり楽しそうだよなぁ……」
「おかえりなさい、ご苦労様」
シェーンハイト先輩に微笑まれる。
ゴーストカメラの話をついでにしようかと思ったけど、……ポムフィオーレならではのイベントって何かあるのかな?
「なぁに、人の顔をじっと見つめて」
「あの、学園長からの依頼で生徒の記録をゴーストカメラで撮影してるんですけど、ポムフィオーレらしい写真が撮れるシチュエーションって何かあります?」
「シチュエーション?」
「ハーツラビュルならお茶会、サバナクローならマジフト、オクタヴィネルなら『モストロ・ラウンジ』、スカラビアなら宴、って感じで思いつくんですけど」
「確かに我々は日夜、美の研究に勤しんでいるけれど、その成果を発表するような場は特に設けていないね」
「逆を言えば、いつ来てもらっても大丈夫よ。撮影というなら、コンディションは万全にしておいてあげるわ」
「ありがとうございます!」
これでポムフィオーレの撮影も出来そう。
別に進捗を訊かれたりするわけじゃないけど、頼まれた仕事をちゃんと前に進められているのは喜ばしい。
そんな話をしていたら、初戦の勝負はついたらしい。みんながコントローラーを置いてこっちにやってくる。
「イデアサンもオルトも強すぎるよ……」
『ふふっ、僕たちは隠し通路も曲がるタイミングも完璧に覚えてるからね』
「今日初めての人に負けるわけにはいきませんなぁ」
楽しそうに笑ってくれてるので、ちょっと安心した。
「じゃ、アタシたちも遊ばせてもらいましょうか」
「いいね!では今遊んでなかったメンバーで戦うとしようか」
「そうなると一人枠が空くが……」
「あっ、僕やります!『嘆きの島』でやってる時、ユウと決着つかなかったんで!」
「うはぁ……ここでリベンジマッチするとかいう?」
「当然!」
エペルがにやりと笑う。負けたくないなぁ。
「あ、ハシバ氏」
「はい?」
シュラウド先輩が個包装を開けたザクロパイを口元に差し出してきた。特に躊躇わず口を開けて受け取る。
「頑張っておいで」
食べてる時に口を開くわけにはいかないので、両手でガッツポーズしておいた。
……イグニハイドの撮影もさせてもらえるかなぁ。
後で時間あったら訊こうっと。