6−2:宙を睨む奈落の王
………
「どぅおりゃああああああああああああああっっっ!!!!!!!!」
雄叫びを上げて全力で踏み切った。口を開いたファントムが僅かにこっちを見た、気がする。次の瞬間には両足がその横っ面を捕らえ、空洞の対岸まで吹っ飛ばした。反動を殺しつつ倒れ込むように着地する。
目の前には、へたりこんで目を見開いた状態で固まっているシェーンハイト先輩がいた。慌てて駆け寄る。
「先輩、お怪我は無いですか!!??」
いつもの先輩と比べるとだいぶ疲れて汚れた様子だけど、それでも先輩を見間違う訳がない。
一方、先輩はずっと呆気にとられた顔をしている。何度か瞬きをして、僕の頬に触れた。
「……ユウ?」
「はい!」
「い、生きてる?」
「はい!戻ってくるのが遅くなっちゃってごめんなさい!」
なんか妙に静かになった。さっきまで続いていた振動も止まってるし。
あれ、と口にする前に、シェーンハイト先輩に抱きつかれた。
「うわあああああああああああああああん!!!!!!」
子どものような泣き声をあげて、先輩は僕を抱きしめている。ちょっと苦しい。
「え、ちょ、な、なんです?いったいなに」
「おめ、バカ野郎!!心配かけやがってええええぇぇぇぇぇ!!!!」
「ぐえっ」
更にエペルが後ろから勢いよく抱きついてくる。いよいよ苦しい。
「嗚呼……嗚呼!!マーヴェラス!我らが『白百合の君』!!希望を届けてくれてありがとう!!ブラヴォー!!!!」
そしてハント先輩も加わってきた。本格的に息が出来ない。生きてるけど死ぬ。
「……お前ら、嬉しいのは解るがその辺にしとけ。本当に死ぬぞ」
キングスカラー先輩の声がして、包囲が解けた。必死で呼吸する。ハント先輩が背中をさすってくれた。
「な、なんか僕がいない間に変な事になってません?」
「ええ。そこの大嘘吐きどものせいでとんだ目に遭ったわ」
目尻の涙を拭いながら、シェーンハイト先輩は空洞の方を指さす。
歩いて端に行って覗きこめば、特大のインク瓶がこちらを見上げていた。
トーチのような王冠のようなパーツを瓶の上部に飾り、首もとは蒼い炎が踊っている。薄汚れた襤褸布は古めかしいデザインだが、帯飾りがあったりどこか威厳も感じられた。布の隙間からは数多の小さなインク瓶が集まっている様が見え、それによって人らしき身体が形作られていると解る。
『やっほーペルセポネ!髪下ろしてるのも可愛いね!』
僕の顔を見ると、馴れ馴れしい言葉と共に朗らかに手らしきものを振ってきた。頭が理解を拒みそうになったが、どうにか事実を飲み込む。
「この声……オルト?」
『そう。僕の弟のオルトだよ』
聞き慣れた声が、溺れているような不明瞭な響きで語りかけてくる。
空洞から浮き上がってきたのは、見慣れない甲冑姿のシュラウド先輩だった。普段の姿からは想像も付かない重装備だが、所々に舞う蒼い炎は彼の髪の毛と同じものに見えた。身の回りの所々にブロットらしき液体が浮かんでいるから、この甲冑もブロットで出来ているのだろう。ブロットを焼くはずの炎と混ざる事はないが、ぴったりと合わさって見える所もあった。
今までのオーバーブロットした姿と違い人工的な印象を受ける。とはいえ他と同じく、背中の管で遙か下の方にいる巨大なファントムと繋がっているようだ。
『カードが無いからここには戻ってこれないと思ってたのに。優先してカローンを動かすべきだったか。焦るとろくな事がない』
「おかげさまで今日は運が良いみたいです。装備も非常口も見つけられたし」
『あのふざけた非常口を脳筋の君が突破できるとは思わなかったよ』
「絶対アレ非常口としておかしいですよ。全部終わったら改善要求した方が良いと思います」
ふは、とシュラウド先輩が楽しそうに笑う。
『全部終わったら?先の未来があると思ってるわけ?』
「思ってますよ。こんな所で終わる気は毛頭ありませんから」
『ちょっと調子乗りすぎじゃない?』
シュラウド先輩は冷ややかに僕を見下ろす。
『魔法は使えない、頭も悪い、腕っ節も中途半端!ただのラッキーで生き残っただけのくせに、ヒーロー気取りでこんな所まで出てきちゃうなんてさぁ!』
明らかな嘲笑を浮かべている。わかりやすい挑発だ。僕はまっすぐに見つめたまま反応しなかった。
『今なら見逃してあげるから、とっとと尻尾巻いて逃げなよ。弱い奴はヒーローになんかなれっこないんだから!!!!』
身体にも振動を感じるぐらいの勢いのある音声だった。この人こんな声出せるんだな。オーバーブロットしてるからかな。
数秒、とても静かになった。答えの言葉を待つような静寂を、空気の読めない笑い声が吹き飛ばす。
『……なに笑ってんの?頭おかしくなった?』
「あー、すいません。ヒーロー気取りは初めて言われたかなぁと思って」
似つかわしくないのは解ってる。相手が苛立つのも怖くない。
「確かに、僕は魔法は使えないし、頭は悪いし、戦う力だって大した事無い。顔は可愛い方だと思うけど絶対の美形って感じじゃないし、いつでも他人を助けるような善人でもない」
『いやそこまでは言ってないけど』
「でも、半端者の僕にだって譲れないものはある」
シュラウド先輩を睨みつける。
「ヒーロー気取り?上等ですよ。世界の危機?だから何?お生憎様、んなもんとっくに経験済みだっての!!」
拳を握りしめる。全身に感じる圧力を押し返すように、体中に力を込めた。指先まで神経を研ぎ澄ます。
『魔力を検知しました。ブーストを起動します』
「こちとら『元』はついても世界を守った魔法少女だ!!違う世界だろうが、戦う装備が違かろうが、大切な人たちの危機を前に怯えて逃げるなんてまっぴらごめんだ!!!!」
『……は?』
誰も彼もが置いてけぼりになってる空気を無視して、遙か下にいる巨大なファントムを睨みつけた。
「そういうわけだから、アンタも全力で叩き潰す!僕の大切なものを守るために!!」
『……ふ、ふふ、アハハハハハハハハハハハ!!!!』
濁ったオルトの笑い声が響く。背筋に寒いものを感じる、うっすらとした殺気さえ放つ不気味な声。
『ああ、一目見た時からずっと思ってたんだ!キミは全部をめちゃくちゃにしてくれるって!!』
そこかしこに伸びた黒い水晶の柱を支えに、階段状になってる階層の床を掴んで、巨体がまっすぐこちらに向かってくる。インク瓶に目なんか無いのに、僕を見ている事が嫌でも感じ取れた。
『愛してるよ、僕のペルセポネ!この世界で自由を手に入れたら、キミの世界も僕が壊してあげる!!』
「全力でお断りします!星が滅ぶまで地底で寝てろ!!」
床を蹴って空洞に飛び出す。落ちる重力も乗せて頭を狙って足を振り下ろした。受け止めてきた巨大な手を蹴って逃れれば、相手も少しバランスを崩す。着地を狙って振り下ろされた手をすぐに避け、柱を蹴って跳び回った。
ふと気配を感じて周囲を見れば、ファントムがそこかしこの足場から溢れ出し飛びかかってくる。スローモーションみたいに感じた。全部の動きが肌で解る、現実感の無い感覚を自然に受け入れる。
大きなファントムは足場に、または小さなファントムを叩き落とす武器にした。下から飛びかかってきたものを踏みつけ、その足で前に飛んできたものを蹴り飛ばし、身体をそのまま回して後ろにいたものを殴って、上から落ちてきたものを掴んで投げ落とす。
飛び散るブロットも気にならない。ただ無心に、目の前の『敵』を排除していた。
だんだんと襲いかかってくるファントムの勢いが落ちてきたので、適当な所で階段に着地する。突っ込んできた大きなファントムを正面から殴ると、後ろに続いていたファントムを巻き込んで対岸まで吹っ飛んでいった。
ちょっと余裕ができたので自分の身体を見下ろした。全然疲れていない。身体も軽いし感覚も鋭い。この装備凄い。魔法少女やってた時の装備より凄いかもしれない。
『あはは、すごいすごい!』
オルトの声でファントムが無邪気に笑う。ちょっとむっとしつつ、巨大なファントムを睨んだ。
「対処できる隙を作って飛びかからせたくせに、わざとらしく褒められても嬉しくないんだけど」
『やだなぁ、難易度設定は下げてないよ?一瞬でも判断をミスったらゲームオーバー!だから油断しないでよね?』
「まだ楽しませろとか言う気?」
『もちろん!だってまだまだ足りないよ!もっともっとキミの事が知りたいんだ!』
内心うんざりしつつ、気合いを入れて構え直す。
装備の力は凄いけど、圧倒的な体格差を覆すほどの威力は出せない。あの手に捕まったりすればかなり不利になる。
そう思って巨大ファントムをまじまじと見ていて、インク瓶の集合体の合間、左肩の辺りに見慣れた灰色の獣がいる事に気づいた。
「グリム!!!!」
『おっと、いけない』
近くに回り込もうと走り出し、すぐに巨大な手に阻まれる。ギリギリ防御が間に合ったものの奥の壁まで吹っ飛ばされた。背中の痛みは興奮のせいか感じられない。
「グリム、僕だよ!!ユウだよ!!」
声を張り上げるけど、グリムらしき獣に反応はない。足場に突っ込まれた手を避けて、何とか距離を取る。
あまり近づくと捕まる。かといって離れては助けられない。
『ふふ、どうしたのペルセポネ。次は追いかけっこでもする?』
「お断りします」
『つれないなぁ』
まずった。あそこにグリムがいるんじゃ、こいつを叩き落とすだけじゃダメだ。まずグリムを引っ剥がさないと。
次の手を考えながら、柱の隙間から突っ込まれる手を避け続けた。
「どぅおりゃああああああああああああああっっっ!!!!!!!!」
雄叫びを上げて全力で踏み切った。口を開いたファントムが僅かにこっちを見た、気がする。次の瞬間には両足がその横っ面を捕らえ、空洞の対岸まで吹っ飛ばした。反動を殺しつつ倒れ込むように着地する。
目の前には、へたりこんで目を見開いた状態で固まっているシェーンハイト先輩がいた。慌てて駆け寄る。
「先輩、お怪我は無いですか!!??」
いつもの先輩と比べるとだいぶ疲れて汚れた様子だけど、それでも先輩を見間違う訳がない。
一方、先輩はずっと呆気にとられた顔をしている。何度か瞬きをして、僕の頬に触れた。
「……ユウ?」
「はい!」
「い、生きてる?」
「はい!戻ってくるのが遅くなっちゃってごめんなさい!」
なんか妙に静かになった。さっきまで続いていた振動も止まってるし。
あれ、と口にする前に、シェーンハイト先輩に抱きつかれた。
「うわあああああああああああああああん!!!!!!」
子どものような泣き声をあげて、先輩は僕を抱きしめている。ちょっと苦しい。
「え、ちょ、な、なんです?いったいなに」
「おめ、バカ野郎!!心配かけやがってええええぇぇぇぇぇ!!!!」
「ぐえっ」
更にエペルが後ろから勢いよく抱きついてくる。いよいよ苦しい。
「嗚呼……嗚呼!!マーヴェラス!我らが『白百合の君』!!希望を届けてくれてありがとう!!ブラヴォー!!!!」
そしてハント先輩も加わってきた。本格的に息が出来ない。生きてるけど死ぬ。
「……お前ら、嬉しいのは解るがその辺にしとけ。本当に死ぬぞ」
キングスカラー先輩の声がして、包囲が解けた。必死で呼吸する。ハント先輩が背中をさすってくれた。
「な、なんか僕がいない間に変な事になってません?」
「ええ。そこの大嘘吐きどものせいでとんだ目に遭ったわ」
目尻の涙を拭いながら、シェーンハイト先輩は空洞の方を指さす。
歩いて端に行って覗きこめば、特大のインク瓶がこちらを見上げていた。
トーチのような王冠のようなパーツを瓶の上部に飾り、首もとは蒼い炎が踊っている。薄汚れた襤褸布は古めかしいデザインだが、帯飾りがあったりどこか威厳も感じられた。布の隙間からは数多の小さなインク瓶が集まっている様が見え、それによって人らしき身体が形作られていると解る。
『やっほーペルセポネ!髪下ろしてるのも可愛いね!』
僕の顔を見ると、馴れ馴れしい言葉と共に朗らかに手らしきものを振ってきた。頭が理解を拒みそうになったが、どうにか事実を飲み込む。
「この声……オルト?」
『そう。僕の弟のオルトだよ』
聞き慣れた声が、溺れているような不明瞭な響きで語りかけてくる。
空洞から浮き上がってきたのは、見慣れない甲冑姿のシュラウド先輩だった。普段の姿からは想像も付かない重装備だが、所々に舞う蒼い炎は彼の髪の毛と同じものに見えた。身の回りの所々にブロットらしき液体が浮かんでいるから、この甲冑もブロットで出来ているのだろう。ブロットを焼くはずの炎と混ざる事はないが、ぴったりと合わさって見える所もあった。
今までのオーバーブロットした姿と違い人工的な印象を受ける。とはいえ他と同じく、背中の管で遙か下の方にいる巨大なファントムと繋がっているようだ。
『カードが無いからここには戻ってこれないと思ってたのに。優先してカローンを動かすべきだったか。焦るとろくな事がない』
「おかげさまで今日は運が良いみたいです。装備も非常口も見つけられたし」
『あのふざけた非常口を脳筋の君が突破できるとは思わなかったよ』
「絶対アレ非常口としておかしいですよ。全部終わったら改善要求した方が良いと思います」
ふは、とシュラウド先輩が楽しそうに笑う。
『全部終わったら?先の未来があると思ってるわけ?』
「思ってますよ。こんな所で終わる気は毛頭ありませんから」
『ちょっと調子乗りすぎじゃない?』
シュラウド先輩は冷ややかに僕を見下ろす。
『魔法は使えない、頭も悪い、腕っ節も中途半端!ただのラッキーで生き残っただけのくせに、ヒーロー気取りでこんな所まで出てきちゃうなんてさぁ!』
明らかな嘲笑を浮かべている。わかりやすい挑発だ。僕はまっすぐに見つめたまま反応しなかった。
『今なら見逃してあげるから、とっとと尻尾巻いて逃げなよ。弱い奴はヒーローになんかなれっこないんだから!!!!』
身体にも振動を感じるぐらいの勢いのある音声だった。この人こんな声出せるんだな。オーバーブロットしてるからかな。
数秒、とても静かになった。答えの言葉を待つような静寂を、空気の読めない笑い声が吹き飛ばす。
『……なに笑ってんの?頭おかしくなった?』
「あー、すいません。ヒーロー気取りは初めて言われたかなぁと思って」
似つかわしくないのは解ってる。相手が苛立つのも怖くない。
「確かに、僕は魔法は使えないし、頭は悪いし、戦う力だって大した事無い。顔は可愛い方だと思うけど絶対の美形って感じじゃないし、いつでも他人を助けるような善人でもない」
『いやそこまでは言ってないけど』
「でも、半端者の僕にだって譲れないものはある」
シュラウド先輩を睨みつける。
「ヒーロー気取り?上等ですよ。世界の危機?だから何?お生憎様、んなもんとっくに経験済みだっての!!」
拳を握りしめる。全身に感じる圧力を押し返すように、体中に力を込めた。指先まで神経を研ぎ澄ます。
『魔力を検知しました。ブーストを起動します』
「こちとら『元』はついても世界を守った魔法少女だ!!違う世界だろうが、戦う装備が違かろうが、大切な人たちの危機を前に怯えて逃げるなんてまっぴらごめんだ!!!!」
『……は?』
誰も彼もが置いてけぼりになってる空気を無視して、遙か下にいる巨大なファントムを睨みつけた。
「そういうわけだから、アンタも全力で叩き潰す!僕の大切なものを守るために!!」
『……ふ、ふふ、アハハハハハハハハハハハ!!!!』
濁ったオルトの笑い声が響く。背筋に寒いものを感じる、うっすらとした殺気さえ放つ不気味な声。
『ああ、一目見た時からずっと思ってたんだ!キミは全部をめちゃくちゃにしてくれるって!!』
そこかしこに伸びた黒い水晶の柱を支えに、階段状になってる階層の床を掴んで、巨体がまっすぐこちらに向かってくる。インク瓶に目なんか無いのに、僕を見ている事が嫌でも感じ取れた。
『愛してるよ、僕のペルセポネ!この世界で自由を手に入れたら、キミの世界も僕が壊してあげる!!』
「全力でお断りします!星が滅ぶまで地底で寝てろ!!」
床を蹴って空洞に飛び出す。落ちる重力も乗せて頭を狙って足を振り下ろした。受け止めてきた巨大な手を蹴って逃れれば、相手も少しバランスを崩す。着地を狙って振り下ろされた手をすぐに避け、柱を蹴って跳び回った。
ふと気配を感じて周囲を見れば、ファントムがそこかしこの足場から溢れ出し飛びかかってくる。スローモーションみたいに感じた。全部の動きが肌で解る、現実感の無い感覚を自然に受け入れる。
大きなファントムは足場に、または小さなファントムを叩き落とす武器にした。下から飛びかかってきたものを踏みつけ、その足で前に飛んできたものを蹴り飛ばし、身体をそのまま回して後ろにいたものを殴って、上から落ちてきたものを掴んで投げ落とす。
飛び散るブロットも気にならない。ただ無心に、目の前の『敵』を排除していた。
だんだんと襲いかかってくるファントムの勢いが落ちてきたので、適当な所で階段に着地する。突っ込んできた大きなファントムを正面から殴ると、後ろに続いていたファントムを巻き込んで対岸まで吹っ飛んでいった。
ちょっと余裕ができたので自分の身体を見下ろした。全然疲れていない。身体も軽いし感覚も鋭い。この装備凄い。魔法少女やってた時の装備より凄いかもしれない。
『あはは、すごいすごい!』
オルトの声でファントムが無邪気に笑う。ちょっとむっとしつつ、巨大なファントムを睨んだ。
「対処できる隙を作って飛びかからせたくせに、わざとらしく褒められても嬉しくないんだけど」
『やだなぁ、難易度設定は下げてないよ?一瞬でも判断をミスったらゲームオーバー!だから油断しないでよね?』
「まだ楽しませろとか言う気?」
『もちろん!だってまだまだ足りないよ!もっともっとキミの事が知りたいんだ!』
内心うんざりしつつ、気合いを入れて構え直す。
装備の力は凄いけど、圧倒的な体格差を覆すほどの威力は出せない。あの手に捕まったりすればかなり不利になる。
そう思って巨大ファントムをまじまじと見ていて、インク瓶の集合体の合間、左肩の辺りに見慣れた灰色の獣がいる事に気づいた。
「グリム!!!!」
『おっと、いけない』
近くに回り込もうと走り出し、すぐに巨大な手に阻まれる。ギリギリ防御が間に合ったものの奥の壁まで吹っ飛ばされた。背中の痛みは興奮のせいか感じられない。
「グリム、僕だよ!!ユウだよ!!」
声を張り上げるけど、グリムらしき獣に反応はない。足場に突っ込まれた手を避けて、何とか距離を取る。
あまり近づくと捕まる。かといって離れては助けられない。
『ふふ、どうしたのペルセポネ。次は追いかけっこでもする?』
「お断りします」
『つれないなぁ』
まずった。あそこにグリムがいるんじゃ、こいつを叩き落とすだけじゃダメだ。まずグリムを引っ剥がさないと。
次の手を考えながら、柱の隙間から突っ込まれる手を避け続けた。