6−1:影闇に揺蕩う悲嘆の暗渠



 鏡面が水面のように揺れる。
 何も映さなかった闇色に、景色が映る。


 誰かの嘆く声がする。

『ゲームオーバーのようね』

 美しい女性の声だ。とても寂しそうで、悲しそう。

『どんな変化球も通用しないんだから』

 でもその無念は、諦めた言葉は、誰かを讃えたもののようにも聞こえた。その相手を憎んだりもしていない。

 女性の後ろに大柄な男が近づいていく。不気味な笑みを浮かべて、彼女の言葉をまるで聞いていないような言葉を返していた。

『きっとあいつにも弱みがある。誰にだって一つや二つはあるだろ?……ワンダーボーイにもな』

 二人のいる場所は暗い。静かで淀んでいて不気味で、モンスターの姿もある。
 そんな世界の中で、大柄な男だけが妙に機嫌良さそうに笑っていた。

『ワンダーボーイの弱みを探ってきてくれよ』

 女性の耳元で囁く。無骨な指先に彼女の美しい髪を絡めて、笑みを深めた。
 明らかにろくでもない悪巧みをしている笑顔だ。
 一方、女性はそちらを振り返りはしない。

『ご褒美はすごいぞ……お前が喉から手が出るぐらいに欲しがってるものだ』

 しかしその言葉に目を見開く。諦めた色の瞳が揺れる。
 その表情を見て、大柄な男は追い打ちをかけた。

『そうさ自由だ』

 女性の唇が震える。苦悩する姿に同情を覚える。

 女性はあの男に従いたくないんだ。でも言う事を聞かなければ縛られたままの今は変わらない。
 でも、あの大柄な男がさせようとしているのはきっと悪い事だ。悪い事をしたら、それはきっと彼女を責め苛む。しかも悪事を働いた事が、新たな脅しの材料になる。また悪事を働かされるかもしれない。
 逃げられなくなる。

 …………だけど。
 今以上に悪くなると解っていても藁に縋る気持ちを、そんな簡単に否定は出来ない。

 今を変えるのは難しい。
 都合の良い奇跡を願うのは、そんなに悪い事だろうか?


 鏡面が揺れる。
 映っていたものが溶けて消えていく。

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