6−1:影闇に揺蕩う悲嘆の暗渠


 グリムの部屋は、寝床と机、本棚にクローゼットと、一人前の家具が揃えてある。子供部屋のようにどれも小さいけれど、ゴーストたちが揃えてくれた頑丈で使いやすい品々だ。
 グリムは夜に寝る時こそ僕の部屋に来ていたけど、昼寝をする時や勉強を言い訳に逃げる時にはちゃんと使っていた。だからそれなりに生活感がある。
 あの日のまま、何も動いた気配はない。クローゼットの引き出しを開ければ、いろんな人から貰ったリボンが綺麗に畳んで並べてある。グリムはいつも着けてるストライプのリボンを特別大事にしていたけど、新しいものを貰ったらそれはそれでいつも喜んでいた。オシャレ好きなモンスター、っていうとヘンテコな気がするけど、言葉が喋れるのに今更だ。
 元通りに戻してグリムの部屋を出る。向かいの自分の部屋に入り、静かな室内を無言で見渡した。
 クローゼットを開けると、底に置いてあった箱を手に取る。自分の机に向かい、飾られている皿に視線を向けた。
 シェーンハイト先輩がくれた、大切なもの。
 箱を開けば、緩衝材が律儀に残してあった。記憶を頼りに貰った時と同じ姿に戻す。ペンダントも一応拭いてから、丁寧に箱にしまった。
 今までもらった手紙も一緒に、一つの箱に収める。そしてクローゼットの底の同じ場所に戻した。
 そのまま顔を上げれば、先輩のくれた洋服が目に入る。エーデュースとお揃いにした服や必要に迫られて買ったものも一緒に並んでいた。どれにも大事な思い出があるけど、ここを出ていく時に全部を持っていくのは難しいだろう。
 もし出ていく事になったら、全部ここに置いていってしまうべきだろうな。未練がましく持ち歩いてもろくな事にならなそうだし。
 クローゼットを閉じる。暖炉の上の鏡に目を向けた。
 あの日からミッキーは現れない。
 他の世界に渡る手がかりになると思ったものの、その根拠は今も無い。こんな不確実な手段に期待をしても意味が無いのかもしれない。
 寝るためにベッドに向かうと、枕元に置いていたスマホにメッセージの着信通知が映っていた。シェーンハイト先輩からだ。
『明日の放課後、「VDC」の反省会を行いたいのだけど、談話室は使える?』
 ちゃんと打診してくれるのだから先輩は律儀だよなぁ。今は僕しかいないんだから気にする事ないのに。
『特に予定はないので大丈夫です』
『ありがとう』
 短いやり取りを終えて画面を閉じる。
 大会を終えて、『NRCトライブ』は活動を凍結する、なんて先輩は言っていた。まぁ表現の違いで、事実上解散だと思うけど。
 反省会をするとは大会終了直後から言っていた。その会場がオンボロ寮になるのはちょっと意外だったけど、まぁ仲間外れにされないのだから良い事、なのだろう。
 これでシェーンハイト先輩と関わる行事は終わり。元は大会が終わればそこで終わる関係だった。予想外の結果だったから、形がちょっと残っただけ。
 どさくさに紛れた感じだったけど、今までの支援のお礼は言えた。もう悔いは無い。明日が過ぎれば、いつ退学と言われても割り切れる。
 別にそうと決まったワケじゃないけど、覚悟だけはいつでもしておいた方が良いはずだから。
 自分から出て行く事を選ぶほどの度胸はない。アーシェングロット先輩との約束もあるし、皆と一緒にいられるならその方が良い。少し現実から目を背ける事にはなるけど。
 明かりを消して布団に潜り込み、ハリネズミくんを抱きしめる。目を閉じればすぐに眠りへと落ちていった。

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