6−1:影闇に揺蕩う悲嘆の暗渠

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 オンボロ寮から鏡舎へ向かう道すがら、ハーツラビュルの五人はどことなく沈んだ雰囲気で歩いていた。
「ユウ、大丈夫かな」
 デュースが不安げに呟く。誰もが答えに詰まる中で、ケイトが明るく笑った。
「だいじょーぶだいじょーぶ!ユウちゃんがいつも一番に頼ってるのはエーデュースでしょ?もし何かあったら言ってくれるって」
「やっぱ無理にでも泊まっておいた方が良かったんじゃ」
「いやー、やめときな。アレはダメだよ」
「ダメ……って、何が?」
「ユウちゃん、一人になりたがってるように見えた」
 人がいると疲れるってタイプもいるからねぇ、とケイトは他人事のように言う。エースとデュースは顔を見合わせた。
「でもなんか、アイツ思い詰めそうで放っておきづらいじゃないすか」
「うーん。でも二人がいたら問題が解決するってワケでもないし?」
「そ、それは……そうですけど」
「たまには引くのも大事だよ」
 ケイトは意味ありげな微笑みを後輩たちに向ける。うっすらとその意図を察して、二人は押し黙る。
「……ユウは、もっとボクたちを頼ってくれていいのに」
 リドルがぽつりと呟く。
「オンボロ寮には寮長もいない。ゴーストも出来る事は限られている。魔法が使えないのに魔法士のための授業は解らない事も多いだろうし、家に帰れない事への不安だってあるだろう」
「その上、グリムの世話に学園長からの頼みごとまでおっかぶせられてたら、まぁしんどいよな」
 トレイの補足にリドルは頷く。
「確か、ユウの実家って親が滅多に帰らないって話だったろ?」
「はい。そう言ってました」
「恐らくだが、困った時に無条件に頼れる人が近くにいない状況に慣れすぎてるんだよ。基本的に一人でどうにかする癖がついてる」
 それ自体は悪い事じゃないんだけどな、とトレイは苦笑する。
「だからこそ少し強引にでも、助けに入ってやる必要があるのかもしれない」
「タイミングは今じゃないけどね」
 ケイトがいつになく厳しい目でトレイを見る。
「優しさを向けられるのがつらいって事もあるんだから」
「なんだか今日のケイトは手強いな」
「……優しさを向けられるのがつらい、か」
 エースがぽつりと呟く。自然と四人の視線がエースに向いた。
「アイツが自分に優しくしねえのに、じゃあどうしろっつんだよ」
 誰に向けるでもなく呟かれた言葉。リドルはトレイと顔を見合わせ、デュースは俯いている。
「もー、エースちゃんは心配性だなぁ」
 ケイトは明るく笑ってエースの肩を抱いた。その勢いにエースが呻くのも構わない。抗議の視線を送る後輩の頭を乱暴に撫でる。
「信じて待つのも愛だぞー、少年」
「愛、って」
 ケイトの笑顔は崩れない。後輩の頬をつつきながら耳打ちする。
「手強いライバルが多いからって焦ると逆効果って事」
 エースが固まる。見る間に顔が赤くなっていくのを、ケイトは笑顔で見守っていた。
 慌てふためいて、エースがケイトを振り払う。振り回される手を避けながらも、ケイトは上機嫌のままだった。
「べべべべべべっ、別にそんなんじゃないですけど!!??」
「それにユウちゃんも言ってたでしょ。『いつもありがとう』って」
 ぐっと押し黙る後輩に、ケイトは微笑みかけた。
「心配してる気持ちはちゃんと伝わってるよ、きっと」
「……それは、まぁ、別にいいんすけど」
 照れたように顔を背けるエースを、ケイトは満足げな笑みで見守る。リドルとデュースは途中の声が聞こえていないので首を傾げていた。トレイは神妙な顔つきで咳払いをし、微妙になった空気を変える。
「とにかく、だ」
 鏡舎を前にトレイに注目が集まった。トレイの方は寮の仲間に信頼の目を向ける。
「こう言っちゃなんだが、この学校の生徒でユウと一番付き合いが長いのは俺たちだ。ユウが困った時に頼りやすいように、気を配ってやろうぜ」
「……そうですね。気をつけて見ていようと思います」
 僕に何が出来るかは分からないけど、とデュースは自信なさげに添える。
「そういうのを考えるのはいざという時でいいんだよ」
「そうそう。先輩たちを頼ってくれてもいいからね~」
「うん。ボクに出来る事なら協力するよ。遠慮なく頼っておいで」
 先輩たちの頼もしい言葉に、デュースは安堵したような笑顔を浮かべた。一方、エースは来た道を振り返る。もう見えない建物に視線を向けた。
 何か言いたげに口を動かしていたが、声にならずに消える。そのまま振り返り、寮に帰る一行に合流した。


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