6−1:影闇に揺蕩う悲嘆の暗渠
夢を見ていた。
黒い茨の檻の中にいる夢。
赤黒い空に包まれていて、檻はまるで吊るされた鳥かごのようだった。
これは夢だと解っている。いつか目覚めるはずだと信じられる。
でも何だかよく意味が分からない。
どうして自分がここに閉じこめられているのか。
黒い茨の棘が肌に触れても傷は付かない。確かに硬く鋭いのに、滑らかに表面を滑っていく。
『お前はどうして』
聞き覚えのある女の声がする。誰の声か思い出せない。
『一人は辛いだろう?苦しいだろう?もう楽になってしまえばいいのに』
静かに振り返る。
空中に女が立っていた。黒い服、黒い髪、顔には黒いベールがかかっていて顔はわからないけど、美しい人であろう事は何となく解る。
『運命からは逃げられない』
声に抑揚はない。でもどこか、哀れまれている気がした。
『お前は一人きりで死ぬ』
女が檻の方に手を伸ばしてくる。……そこでやっと、女が檻の外にいる事に気づいた。
手袋に包まれた女の手が、炸裂音と共に弾け飛ぶ。檻は少しも傷ついた様子が無い。
『何故』
女の声に感情が生まれた。歯ぎしりするような音が続く。
『お前は私と同じはずなのに、何故そんなに平然と生きていられる?』
もう片方の腕も檻に触れる前に弾け飛んだ。
『誰を救おうとお前は一人だ。双子の姉さえお前とは造りが違う』
いつの間にか檻と同じ茨が空に伸びていた。断末魔の悲鳴を背景に女を引き裂き、何事も無かったかのように消えていく。
赤い空に静寂が戻る。何もない。
『そう、お前は私と同じ』
今度は後ろから、女の声がした。もっと近い場所。檻の中だと思ったけど、振り返っても誰もいない。
『だから、戦う事など忘れてしまいなさい』
茨の檻が、徐々に狭まっていく。手足に茨が絡みついて、身動きが取れない。痛みも苦しみも無い。窮屈ですらない。だけどどうしても動く事だけは出来ない。
『誰かのために戦えば戦うほど、その胸は空虚に支配される』
そう言われた瞬間に、胸が強く痛んだ。自分の身体を見下ろせば、胸の真ん中辺りに赤黒い薔薇が咲いていた。
痛みが強くなると同時に、意識が遠のいていく。
『忘れてしまいなさい。自分が異物である事など』
女の声だけ、妙に鮮明に聞こえていた。
『そうすればお前は「幸せ」になれる。きっとね』