5−2:泥濘へ堕ちる美貌の毒華
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全国魔法士養成学校総合文化祭初日の一大イベント『ボーカル&ダンスチャンピオンシップ』は、開演前から異例の賑わいを見せていた。
元々、今年の大会は波乱を帯びていた。今もっとも好感度の高い芸能人と名高いネージュ・リュバンシェと、芸能の各分野で活躍し世界的なインフルエンサーとして知られるヴィル・シェーンハイトが、それぞれの学校の代表として出場すると発表されていたからだ。
両者は子役時代から幾度も競演しており、ファンの間ではライバルとも親友とも噂されている。ヴィル・シェーンハイトが学業を理由にドラマ等時間のかかる仕事をセーブしている事情もあり、二人が揃う場面は現在、珍しいものとなっていた。
それだけに、チケット発売時には『高校生の音楽発表会』のレベルを遙かに越えた倍率を叩き出している。通年も一般販売のチケットは発売日に売り切れる勢いだが、今年はチケット販売サイトのサーバーダウンの懸念から、全種類のチケットで抽選販売を実施したほどだ。ステージが直接は見られない位置のチケットまで即時売り切れ。当日もキャンセル分の抽選販売に長蛇の列を作り、それでもチケットを得られなかった観客は未練がましく会場周辺に居座っている。
開場前には入場待機列の観客をネージュ・リュバンシェが労うサプライズまで行われ、SNSも大変な盛り上がりを見せていた。テレビ局が掲載したリハーサルの動画も広く拡散され、会場には縁遠いファンたちも反応している。開始時間が近づくほど、現地のファンと中継開始を心待ちにするファンの言葉が入り乱れ賑わった。
通常はマジカルシフトの試合などで使われるコロシアムは、今や完全に音楽発表会のステージへと作り変えられている。満員の観客席から無人のステージへ、期待の視線が注がれ続けた。
開演の時間を迎えた瞬間、司会がステージへとやってくる。それだけで観客は大盛り上がりだ。大歓声をものともせず、司会は慣れた様子でマイクに声を張り上げる。
「大変ながらくお待たせいたしました。全国魔法士養成学校総合文化祭イン・ナイトレイブンカレッジ!音楽発表会『ボーカル&ダンスチャンピオンシップ』!ただいまより開催いたします!」
割れんばかりの歓声と拍手。それに応えるように光と紙吹雪が舞う。
司会は入場者向けに投票方法の説明を行った。入場時に配られたコードからスマートフォンで投票する形式だ。不正が出来ないように、実物を読み込まないと投票ページに飛べない仕掛けがされている。投票開始は全校のパフォーマンスの完了後からと説明された。協賛する企業によるネット上でのアンケートも実施されており、参加すると記念品が当たるという告知も挟まる。
つまらない事務連絡は終わった。いよいよ各校のパフォーマンスが始まる。
「最初にパフォーマンスを披露するのは、開催校であるナイトレイブンカレッジの代表選手の皆さんです!」
特大の歓声を背景に司会がステージから降りていき、代わりにナイトレイブンカレッジの面々が現れる。ヴィル・シェーンハイトを先頭に、メンバーが並んだ。
立ち位置につくと、ヴィルは微動だにしない。メンバー全員の動きが止まると同時に、客席も静まりかえる。
始まりの音と同時に、ヴィルの目が開く。まっすぐに前を見て、楽曲を導く最初のフレーズを完璧に歌い上げた。
一気に音の勢いが増し、激しいダンスが始まる。安定したコーラスが楽曲の雰囲気を支えた。
ヴィル・シェーンハイトを中心とした三人のメインボーカルと、四人のコーラス。メインボーカルはそれぞれが異なった雰囲気の声を持つが、互いを支え合うように調和し引き立てあっていた。コーラスも決して脇役ではなく、時にメインを引き上げ鼓舞するような働きも見せる。
ダンスは最初から最後まで全員が同じ振り付けではない。揃うところは揃え、時々はそれぞれの個性が見える。制服の着こなしも誰一人同じではなく、それを裏付けるようなダンスの個性が見る者の目を引きつけてやまない。
語りかけるようなメロディライン、対照的に鋭い印象のラップパート、それらを統括し最高潮へ押し上げていくサビと、歌もダンスも一切の隙を見せない完璧なプロデュースがなされている。
最初から最後まで、ナイトレイブンカレッジの面々はステージの上で表現者として生き抜いてみせた。
楽曲が終わり、沈黙が数秒、世界を支配する。
次に起こったのは、始まる前のものよりも更に勢いづいた歓声の爆発だ。
「な、なんと!一曲目から観客総立ちのスタンディングオベーションだ~~~!!!!」
司会の声に応えるように、観客が声を上げる。拍手も鳴り止まない。肩で息をしているNRCトライブの面々の表情も明るくなる。
「ヴィル・シェーンハイト率いるナイトレイブンカレッジ代表選手、素晴らしいパフォーマンスでした!」
「みんな、ありがとう。また会いましょう!」
ヴィルがそう声をかければ、黄色い声の割合が増えた歓声が上がり、拍手の勢いが戻る。
メンバーは歓声に応えるように手を振りながら舞台を降りていった。余韻も熱狂も冷めやらぬまま、次の演目が始まっていく。
「次は、ロイヤルソードアカデミーの皆さん、お願いします!」
全国魔法士養成学校総合文化祭初日の一大イベント『ボーカル&ダンスチャンピオンシップ』は、開演前から異例の賑わいを見せていた。
元々、今年の大会は波乱を帯びていた。今もっとも好感度の高い芸能人と名高いネージュ・リュバンシェと、芸能の各分野で活躍し世界的なインフルエンサーとして知られるヴィル・シェーンハイトが、それぞれの学校の代表として出場すると発表されていたからだ。
両者は子役時代から幾度も競演しており、ファンの間ではライバルとも親友とも噂されている。ヴィル・シェーンハイトが学業を理由にドラマ等時間のかかる仕事をセーブしている事情もあり、二人が揃う場面は現在、珍しいものとなっていた。
それだけに、チケット発売時には『高校生の音楽発表会』のレベルを遙かに越えた倍率を叩き出している。通年も一般販売のチケットは発売日に売り切れる勢いだが、今年はチケット販売サイトのサーバーダウンの懸念から、全種類のチケットで抽選販売を実施したほどだ。ステージが直接は見られない位置のチケットまで即時売り切れ。当日もキャンセル分の抽選販売に長蛇の列を作り、それでもチケットを得られなかった観客は未練がましく会場周辺に居座っている。
開場前には入場待機列の観客をネージュ・リュバンシェが労うサプライズまで行われ、SNSも大変な盛り上がりを見せていた。テレビ局が掲載したリハーサルの動画も広く拡散され、会場には縁遠いファンたちも反応している。開始時間が近づくほど、現地のファンと中継開始を心待ちにするファンの言葉が入り乱れ賑わった。
通常はマジカルシフトの試合などで使われるコロシアムは、今や完全に音楽発表会のステージへと作り変えられている。満員の観客席から無人のステージへ、期待の視線が注がれ続けた。
開演の時間を迎えた瞬間、司会がステージへとやってくる。それだけで観客は大盛り上がりだ。大歓声をものともせず、司会は慣れた様子でマイクに声を張り上げる。
「大変ながらくお待たせいたしました。全国魔法士養成学校総合文化祭イン・ナイトレイブンカレッジ!音楽発表会『ボーカル&ダンスチャンピオンシップ』!ただいまより開催いたします!」
割れんばかりの歓声と拍手。それに応えるように光と紙吹雪が舞う。
司会は入場者向けに投票方法の説明を行った。入場時に配られたコードからスマートフォンで投票する形式だ。不正が出来ないように、実物を読み込まないと投票ページに飛べない仕掛けがされている。投票開始は全校のパフォーマンスの完了後からと説明された。協賛する企業によるネット上でのアンケートも実施されており、参加すると記念品が当たるという告知も挟まる。
つまらない事務連絡は終わった。いよいよ各校のパフォーマンスが始まる。
「最初にパフォーマンスを披露するのは、開催校であるナイトレイブンカレッジの代表選手の皆さんです!」
特大の歓声を背景に司会がステージから降りていき、代わりにナイトレイブンカレッジの面々が現れる。ヴィル・シェーンハイトを先頭に、メンバーが並んだ。
立ち位置につくと、ヴィルは微動だにしない。メンバー全員の動きが止まると同時に、客席も静まりかえる。
始まりの音と同時に、ヴィルの目が開く。まっすぐに前を見て、楽曲を導く最初のフレーズを完璧に歌い上げた。
一気に音の勢いが増し、激しいダンスが始まる。安定したコーラスが楽曲の雰囲気を支えた。
ヴィル・シェーンハイトを中心とした三人のメインボーカルと、四人のコーラス。メインボーカルはそれぞれが異なった雰囲気の声を持つが、互いを支え合うように調和し引き立てあっていた。コーラスも決して脇役ではなく、時にメインを引き上げ鼓舞するような働きも見せる。
ダンスは最初から最後まで全員が同じ振り付けではない。揃うところは揃え、時々はそれぞれの個性が見える。制服の着こなしも誰一人同じではなく、それを裏付けるようなダンスの個性が見る者の目を引きつけてやまない。
語りかけるようなメロディライン、対照的に鋭い印象のラップパート、それらを統括し最高潮へ押し上げていくサビと、歌もダンスも一切の隙を見せない完璧なプロデュースがなされている。
最初から最後まで、ナイトレイブンカレッジの面々はステージの上で表現者として生き抜いてみせた。
楽曲が終わり、沈黙が数秒、世界を支配する。
次に起こったのは、始まる前のものよりも更に勢いづいた歓声の爆発だ。
「な、なんと!一曲目から観客総立ちのスタンディングオベーションだ~~~!!!!」
司会の声に応えるように、観客が声を上げる。拍手も鳴り止まない。肩で息をしているNRCトライブの面々の表情も明るくなる。
「ヴィル・シェーンハイト率いるナイトレイブンカレッジ代表選手、素晴らしいパフォーマンスでした!」
「みんな、ありがとう。また会いましょう!」
ヴィルがそう声をかければ、黄色い声の割合が増えた歓声が上がり、拍手の勢いが戻る。
メンバーは歓声に応えるように手を振りながら舞台を降りていった。余韻も熱狂も冷めやらぬまま、次の演目が始まっていく。
「次は、ロイヤルソードアカデミーの皆さん、お願いします!」