5−1:冷然女王の白亜城
さっぱりした気分で浴室を出れば、冷えた空気が顔を撫でていく。もう慣れたものだけど、やはり冬の風呂上がりは寒くてしんどい。
流れで談話室に向かおうかという所に、来客を示すブザーが響いた。
「ん?こんな時間に誰だ?」
「シェーンハイト先輩が戻ったのかな」
急いで玄関に向かい扉を開く。顔を見せたのは宅配仕事のゴーストだった。後ろにはここまで運んできたらしい大きな台車がある。
『お届け物でーす。ポムフィオーレのエペル・フェルミエさんはこちらに?』
「あ、はい。エペルは僕……です」
呼び出し音で駆けつけたであろうエペルが僕と入れ替わりに対応する。ハント先輩もいつの間にかやってきていた。
『サインお願いしまーす。段ボールが十箱ですねー。玄関に置いてしまっても?』
「十箱も!?」
『はい。差出人は……あ、こちらもフェルミエさんです。ご実家からですかね?』
「……ど、どうしよう。あんなに寮の部屋に入らないのに……」
エペルがちらりとこちらを振り返る。
一年生は四人部屋。ポムフィオーレもそれは変わらないのだろう。そりゃ入るわけがない。
「後で運ぶのに不都合がなければ、とりあえずここで受け取ってもらっても大丈夫だよ」
「ご、ごめんなさい」
「じゃあ、玄関の所に積んでもらえますか?」
『はーい。どれも重たいので、持ち運びには気をつけてくださいねー』
ゴーストは明るく応じてダンボールを玄関に積み上げていく。本当に相当な重量があるらしく、たまに床板が嫌な音を立てていた。……さすがに抜けないと思うけど、不安だな……。
「あっという間に段ボールで玄関が埋まったな……」
「うわあ、絶対ばっちゃ……あ、おばあさまからだ。……もう、電話で何度も送らなくていいって言ったのに!」
「なんだぁ?実家から絹の反物でも送ってきたのか?」
「いえ、そんなすごいものじゃない……かな?」
戸惑いつつもエペルは箱を開け、小さく溜息を吐く。
「えと、僕の故郷は林檎が特産品で……多分これ全部、林檎ジュース……です」
「全部!?ジューススタンドでも開けそうな量じゃん」
エースの表現に頷く。孫一人に差し入れとして送る量にしては尋常じゃない。
僕らが見守る中、エペルは箱の中から手紙を取り出して目を走らせる。
「……も~!売れ残りば押すつげるなよ」
怒ったように呟いたかと思えば、すぐにその表情は曇った。
「でも、こんなに売れ残ってるなんて……」
どうやら嬉しい差し入れではないみたい。まぁジュースだけらしいからなぁ。
「飲み物だけをたくさん送ってくれるって、エペルも凄いお坊ちゃまなんだな」
「えっ!?」
「あ、なるほど。エペルは林檎ジュースのブランドにこだわりがあって、これしか飲みたくないとか?」
「ぜ、全然そういうわけじゃない……かな!?」
そうか、飲み物だけの差し入れって、そういう事なんだ。確かに贅沢だよな。
エペルは戸惑った雰囲気ながら林檎ジュースの瓶を取り出して笑顔を見せた。
「よかったらみんなも飲んで。林檎果汁百パーセント、保存料ナシ。ビタミンもたっぷりだから、ジュースだけどヴィルサンも怒らない……かも。味は保証するよ!!」
「なんだ、やっぱジュースにこだわりあるんじゃん」
「あっ、あはは……」
「メルシー!ムシュー・姫林檎。ありがたくごちそうになるよ。ご実家の皆様に感謝を伝えておくれ」
みんなが口々に感謝を伝えると、それはさておき、とバイパー先輩が口を挟む。
「玄関をダンボールで塞がれていては出入りもできない。とりあえずこの箱たちを別の部屋に移動させよう」
「中身が飲み物なら、床が抜けてたり雨漏りする部屋に置くワケにもいかないですし、談話室しかないですね。キッチンも近いから丁度いいかも」
「ご……ごめんなさい……」
「気にしないで。後でシェーンハイト先輩にポムフィオーレ寮の倉庫に移動できないか訊いてみましょう」
「う、うん。でも……あまり日持ちするものじゃないから……」
箱を運びながら、エペルは困った顔をしている。確かに林檎ジュースなんて一度にそんなにいっぱい飲むものでもないもんなぁ。
中身がガラス瓶で液体だから重さは半端ないけど、男手が七人もいればすぐに運び終わった。とはいえ十箱の迫力と圧迫感は強い。
「みんな、荷物の移動を手伝ってくれてありがとう……ございます。早速だけど、よかったら林檎ジュース飲んでいって」
一人で飲むのに丁度いい小瓶と、大容量の大瓶の二種類があったようで、大瓶の方を一つ開けて全員で分けた。金属の栓がつけられたなんの変哲もない瓶。栓が外れると林檎の甘酸っぱい匂いが漂ってきた。
「林檎に含まれるクエン酸やポリフェノールは疲労によく効くんだ。歌やダンスのレッスンで疲れた身体にぴったりのはず……かな?」
林檎の栄養についてすらすらと語る姿は、さすがポムフィオーレ寮生という感じだ。
それぞれが一斉にグラスに口をつける。その味わいに誰もが目を輝かせた。
「これは……セ・ボン!実に美味だよ、エペルくん!」
「おぉ~、本当にうまい!林檎そのものって感じの味がするぜ!」
「林檎百パーセントなんだから、それはそうだろう。うん、でも……確かに美味いな」
「さっぱりしてて、いくらでも飲めちまいそうなんだゾ~」
「こら、グリム!瓶に口をつけるな!」
「まあラッパ飲みしたくなるのもわかるかも。ごくごくいけんね」
お風呂上がりで喉が乾いていたのもあるかもしれないけど、本当に絶妙な味わいだ。僕が今までに飲んでたのって本当に林檎ジュースだったのかって思っちゃいそう。もしかしてめちゃくちゃ高いものじゃなかろうか。
「酸っぱすぎず、甘すぎず。のどごしの爽やかさはまるで林檎畑を吹き抜ける涼やかな風のようさ。愛情を込めて真摯に作られているのがわかる逸品だ」
「そうでしょう!このジュースは何種類かの林檎をブレンドして作ってる、故郷の自信作なんです!」
エペルは満面の笑みをハント先輩に返した。
「はちみつを混ぜれば喉にも良いし、歌の練習の後にはピッタリかも!あ、ジュースだけじゃなくて、とれたての林檎もたげんめぇ……美味しいんですよ!」
「はっはっは!熱の入ったトークだ。良いね。ムシュー・姫林檎が故郷をとても愛しているのが伝わってくるよ」
ハント先輩は珍しく饒舌なエペルの様子を褒めたたえたけど、すぐにエペルの表情は曇ってしまった。愛らしい少年の落ち込んだ顔は見ている人間の心も悲しい気分にさせる。
「でも…………輝石の国の片田舎で作っているせいか、どうも知名度が低くて……」
「へぇ。こんなに美味いのに。なんかもったいないなあ」
「年々観光客も減ってて、このままじゃ……」
「あら、揃ってるのね。丁度良かった……って、このダンボールの山はなに?」
シェーンハイト先輩が談話室に入って早々、積み上げられたダンボールを見て顔をしかめる。どう見ても入浴用品だけと思えない大きな鞄を持ってるけど、言及するのも怖いので黙っておいた。
「エペルくんのご実家から林檎ジュースが届いてね。みんなで頂いていたところさ」
「お、お砂糖は入ってません!保存料も!だから、長期間保管がきかないので……ヴィルサンもよければ、飲んでください」
「ふぅん、そう。気が向いたらいただくわ」
凄く興味なさそう。エペルはまたちょっと落ち込んだ顔になる。
「あと一週間でこの箱全部飲みきるのは無理だと思うんで、配った方が良いと思うんです。置き場所もあんまり無いし」
「そうね。何より床が抜けそうで怖い」
シェーンハイト先輩は口元に手を当てて少し考え込む。
「林檎ジュースなら、朝で無ければ少し飲むぐらいは問題ないし……一箱残して、残りは全部ハーツラビュルにでも押し付けましょうか」
「クローバー先輩をそんなに目の敵にしなくても」
「あら。手土産のお礼になるじゃない」
意地の悪い笑みを浮かべるシェーンハイト先輩を横目に、アジーム先輩がエペルに笑顔を向けた。
「なあなあ、みんなに配るっていうなら、オレたちも貰っていいか?」
「はい、もちろん」
「ありがとな!寮のみんなにも飲ませてやりたくてさ。きっと喜ぶぞ~!」
「こちらこそありがとうございます」
「じゃあ、スカラビアで二箱は引き取ります」
「あら残念」
やっぱり嫌がらせする気だったんじゃん。
「スカラビアに二箱、ハーツラビュルも二箱、ポムフィオーレにも二箱引き取ってもらって、うちに一箱残して残り三箱」
「もう先生に配るか食堂に置いてもらうしかないんじゃないか……?」
「あ、ユウからって言えばサバナクローとオクタヴィネルも引き受けてくれるんじゃね?」
エースが明るく笑って提案してくる。言わんとする事は解らなくない。ちょっと考える。
「あー………………やめた方が良いんじゃない?」
「何で?」
「エペルに迷惑かかりそう」
「ぼ、僕に?」
「あそこら辺には何ていうか……『無料』に飛びついてきそうなヤバい人がいるので…………」
エーデュースが察した顔になる。バイパー先輩も納得している様子だった。アジーム先輩はエペルと一緒に首を傾げている。
「でも引き取り手が他に無いのは事実でしょう。不定期な仕送りを宛に商売するほどあの子たちもバカじゃないし、一箱ずつなら大丈夫よ」
「そ、そうですかね……」
「まぁ、ラギーに直接渡すのは止めた方が良いと思うわ。誰か他の人にしなさい」
「じゃあ、ジャックにでも頼もうかな……」
「……ジャッククン、梨派なんだよなぁ……」
「なんて?」
「う、ううん。何でもないよ」
これで残り一箱。全員で頑張ればまぁ、もう一箱飲みきれなくはないだろうけど。先生方に配った方がいいかな。
「最後の一箱、宛が思い浮かばないならアタシが預かっていいかしら?」
「え、はい。エペル大丈夫?」
「も、もちろんです」
「ありがとう。これで話はまとまったわね。やっと本題に入れるわ」
シェーンハイト先輩が溜息混じりに言う。そういえば入ってきた時、全員揃ってるのを見て『丁度よかった』って言ってた気がする。
「アンタたち、ヘアケアとスキンケアはどこのメーカーを使ってるの?」
シェーンハイト先輩からの質問に、ポムフィオーレ以外の面々がきょとんとしている。
「え?ケアって……なんですか?」
「洗いざらしにしておくと髪が絡まるので、ヘアオイルはつけてますが……肌は特になにも」
「実家にいた頃はいろいろつけられてたけど、寮生活になってからは何もしてねーや」
「油分を洗い流した肌をそのまま放置しているなんて、正気!?」
全員が答える前にシェーンハイト先輩が悲鳴みたいな声を上げた。エースは涼しい顔してるけど、あの様子だと何もしてないワケではなさそう。なんかそんな感じがする。
「今からアタシのお手製スキンケアグッズを配るわ。それで朝晩の洗顔の後は必ずケアして」
シェーンハイト先輩は持っていた大きな鞄から同じ形の透明なバッグを幾つも取り出した。中身は全部化粧品のボトルっぽい。見た目はラベルも貼ってあって売り物のように見えるけど、今の言葉を信じるなら先輩のお手製……手作り化粧品って事だよな。
魔法薬学のノートといい、自分と同世代とは思えない仕事ぶりだ。
「おお、ヴィルは化粧品を自分で作ってんのか?すげーな!」
「さすがはポムフィオーレ寮長。薬草学の知識が豊富なだけありますね」
素直に賞賛を口にするスカラビアの二人に対し、ハント先輩は上機嫌な笑顔になり、エペルは複雑な表情になる。
「私とエペルくんはこのヴィルお手製スキンケアを使い始めてから肌荒れ知らずさ」
「はい。これ以外にも日焼け止めとか、ルースパウダーとか、リップクリームとかハンドクリームとか……いっぱい押し付……いただきました」
エペルに目をかけているのは間違いないのだけど、当のエペルは嬉しくなさそうだ。
まぁ男らしくなりたいのに、化粧品のプレゼントなんて嬉しくないよな。肌荒れの痛みを避けるという実利があるとはいえ、顔立ちのせいで女性的な仕草として結びつけられがちだし。
「ところで……瓶がいくつもあるけど、どうやって使うんだ?」
「そこから?」
シェーンハイト先輩が肩を落とす。仕方ないわね、と呟きながら僕を振り返る。
「小ジャガ」
「はい」
「洗面器にお湯張って持ってきて頂戴。あと空のも一緒に用意して」
「ぬるま湯でいいですか?」
「こっちで調節出来るから少し熱めでもいいわよ。運んでるうちに冷めたら意味ないし」
「はーい」
浴室に向かい、言われた通りの準備をする。給湯が不安定なので、先輩の指示は逆に有り難い。温度指定されたらどうしようかと思った。
急いで戻ると、ソファに座ったアジーム先輩を中心に輪が出来ていた。傍のテーブルにはさっき見せられた化粧品の瓶と、他にも細々とした道具類が並んでいる。
シェーンハイト先輩がテーブルを指さしたので、指示通りにテーブルにお湯の入った洗面器を置いた。空の洗面器は床を指さされたのでそっちに設置。
先輩は指先で温度を確かめながら洗面器に水を魔法で足して、それを終えると輪になってる面々を一瞥した。
「カリムをモデルに実践するから、アンタたちよく見て覚えなさい」
「は、はい」
「カリム。アンタ普段、洗顔するとき何を使ってるの?」
「水!」
「論外!」
即レスの応酬はすぐに終わり、呆れつつもシェーンハイト先輩は魔法で洗面器の中のお湯を操った。ぬるま湯がアジーム先輩の顔を撫でて、空の洗面器に落ちていく。次に洗顔ネットと洗顔料を手に取ってこちらに見せた。
「まず、ネットでよく泡立てた洗顔料の泡で顔を包み込むように洗って。ゴシゴシ擦るのは厳禁」
濡らした洗顔ネットに洗顔料を出して揉むと、あっという間に先輩の手の中で真っ白い泡が山盛り出来上がっていく。その泡をアジーム先輩の顔に乗せていった。力は入れずに、柔らかく手を動かしている。
「あはは、なんかくすぐったいな」
アジーム先輩は楽しそうだ。それでいてシェーンハイト先輩から文句が出ない。何というか、お世話される事に慣れてる雰囲気がある。
またぬるま湯が魔法で動き出し、泡だらけの顔を洗い流して床の洗面器に落ちていった。いつの間にかシェーンハイト先輩の手も綺麗になってる。
先輩は小箱からコットンを取り出して、洗顔料とは違うボトルから液体をしっかりと染み込ませた。
「洗顔が終わったら拭き取り化粧水よ。コットンに取って優しく肌を滑らせる」
「泡で洗ったのに、また拭くのか?」
「これは洗顔とは別に毛穴の汚れにアプローチしてるの」
こちらも非常に滑らかで優しい動きだ。そんな様子とは裏腹に摩擦は厳禁、と厳しい声で注意をするのも忘れない。
「次に保湿化粧水。肌にしっかり浸透するように、手のひらに馴染ませた化粧水を押し込むように」
「おお。なんか花みたいないい匂いがする。気持ちがいいぜ」
見た目には本当にマッサージをしているような、何の違和感もない鮮やかな手の動きだ。アジーム先輩のリラックスしきった顔がその技術の高さの証拠と言って良いだろう。ちょっと楽しそう。
「次に乳液よ。アタシたち男子高校生は皮脂の分泌量が多めだから、つけすぎは逆効果」
「あっはっは!ヴィルが男子高校生って言うとなんか面白いなー」
「それ、どういう意味?」
「ヴィルって、他の三年生に比べても大人っぽいからさ」
「老けてるって言ったらはっ倒してたところよ」
……まあ『男子』っぽくはないよね。
十六歳になる年に入学なら、三年生なら十八歳。……そっか、同世代どころか同い年なんだ。今更気づくのもアレなんだけど。
ここに来た時に九月って言われて、その時に違和感があって年齢の事をうやむやにしたから、向こうでは九月じゃなかったはずなんだけど、じゃあ何月だったんだっけ?
「いま教えた手順で、朝晩毎日ケアするのよ。こっちのクリームケースは三日に一度のスペシャルケア用パック。寝る前につける事。こっちのヘアオイルはドライヤーの前に毛先に馴染ませて使って頂戴。こっちのボディーミルクはシャワーの後。肘、膝、踵は入念に」
いつの間にかお手本授業は終わっていて、シェーンハイト先輩は渡したケア用品の説明に入っていた。こういう事に馴染みの無いデュースは目を白黒させている。
そんな様子を呆然と見ていると、モデル役を終えたアジーム先輩が上機嫌でこちらに歩いてきた。
「ほら、ユウ。オレのほっぺ、触ってみろよ。肌がいつもよりツルツルになったぞ!」
差し出された顔をおそるおそる触る。ぷにぷにでもちもち。思わず声が漏れた。
「そこ!素手でべたべた顔に触らない!手は雑菌の温床なのよ」
「ごめんなさい!!」
「お、おう?こっちこそごめん!」
「洗面器片づけてきます!」
「あぁ、よろしくね。ありがとう」
床とテーブルから洗面器を回収し、洗面所に駆け足で向かう。水を捨てて軽く洗ってから浴室に戻した。思わず溜息を吐く。何やってんだ。
ちょっと落ち込みつつ戻れば、シェーンハイト先輩が片づけをしながらみんなの質問に答えていた。
「あのー、ヴィル先輩って魔法が得意だから寮長になったんすよね?肌とか髪とか、魔法でパパッと綺麗にする方法ってないんすか?」
「アンタたちも魔法士なら理解してると思うけど、ほとんどの魔法や魔法薬に永続的な効果はないわ」
エースらしい質問を、シェーンハイト先輩はバッサリ切り捨てる。
「魔法で取り繕った美は、一瞬夢を見せてくれるでしょうけど……アタシは、午前零時の鐘で解ける魔法に興味はないの」
偽りのない純粋な美しさを手に入れたい。魔法の鏡が認めた『美しき女王』のように。
そう語る横顔と、夢で見た『美しき女王』が重なって見えた気がした。
でも、あの女王はシェーンハイト先輩とは違う。
先輩は殺意や憎悪に囚われたりはしないはずだ。こんなにも勤勉な努力家で、何でも出来る気高い人が、安っぽい悪意に負けるとは思えない。
「もし伝説の鏡が現存していたら、きっとヴィルの美しさを認めていたに違いないさ」
「……そうね」
ハント先輩に褒められても、シェーンハイト先輩の表情は複雑だった。そう楽天的には捉えられない、という雰囲気。この人はどこまで高みを目指すんだろう。
「少し話しすぎたわ。全員、寝る前にスキンケアをするのを忘れないように」
おざなりな返事がそこかしこから聞こえる。
「就寝時間は二十二時厳守よ。それまでにスキンケアを終えてベッドに入っておきなさいね」
「二十二時!?小学生かよ!!」
「寝る時間が早いイコール子どもだなんて考えこそお子ちゃまマインドね」
やっぱり突っかかるエースを容赦なく切り捨てた。エースの持つ普通の感覚が、世界的インフルエンサーであるシェーンハイト先輩と全く違う事を理解させられる。それが良い事なのかは解らないけど。
「美しい肌と髪を保つためには、七時間以上の睡眠が推奨されてるの。勉強の集中力も上がるわよ」
これ以上は誰からも反論は無かった。逆らった所で怒られるばかりだし。