5−1:冷然女王の白亜城




 鏡面が水面のように揺れる。
 何も映さなかった闇色に、景色が映る。


 暗闇の中、遠くから誰かの歌声が聞こえる。
 女性の声みたい。とても綺麗。

 そこに見慣れた鏡が浮かぶ。
 遠い場所へと人を運び、魂の資質を見定める鏡。
 闇の鏡に、美しい女性が映った。

『鏡の中に閉じこめられた男』

 女性は語りかける。

『この世で最高に美しい女は?』

 鏡の奥にあの顔が浮かんだ。淀みなく問いに答える。

『若い娘の姿が見えます。唇は赤いバラ、髪は黒々と輝き、肌は雪の白さです』
『白雪姫……』

 景色が変わる。歌声が近づいてくる。
 井戸を覗きこんでいる女の子がいた。輝く黒髪、真っ赤な唇、雪のように白い肌。

『これはね、望みのかなう井戸。お願い、誰か素敵な人が現れますように……』

 可憐な少女の声が歌う。井戸の中に、男の人の姿が映る。
 男は少女に愛を歌う。二人の雰囲気は穏やかで、運命でも見つけたかのような調子だ。

『ついに会えた。どうか聞いて僕の想いを。真心を告げるこの歌を、永遠に口ずさもう』

 恋に夢中の二人の様子を、さっきの美しい女性が窓から睨んでいた。
 憎しみ、羨望……ひどく黒い感情が込められた目で。


 …………あの、綺麗な女性。どこかで見たような気がする。


 鏡面が揺れる。
 映っていたものが溶けて消えていく。


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