4:沙海に夢む星見の賢者
昼食はハンバーガーショップ。チェーン店ではないけど人気のお店らしい。
ふかふかのバンズに分厚いパテ、しゃきしゃきレタスと玉ねぎにジューシーなトマト、独自のソースが決め手らしい。ポテトは皮付きでオニオンフライもついている。
先輩はバンズをレタスに変えたメニューを注文していた。サイドも野菜サラダ。徹底してるな。
「やはりこの手のメニューは見た目にインパクトがありますね」
撮影しながらアーシェングロット先輩が呟く。
モストロ・ラウンジのメニューも見た目はお洒落で綺麗。損をした気分にさせない値段相応のボリュームもある。男子校の中のお店という事を意識した作りになっているのだと思う。
「ワクワクしますよね、こういうの」
「ええ。気持ちはわかります」
カロリーばっかり神経質に気にしているようで、アーシェングロット先輩の好みそのものは普通の、同世代の男子に近いんだと思う。そう思うと、誘惑に負けずに徹底したカロリー管理ができるのは本当に凄い事だよなぁ。僕、絶対無理だもん。
味も見た目に負けないおいしさだ。口の中が幸せでいっぱいになる。カリカリほくほくのポテトもオニオンフライもおいしい。
本当に、僕の月並みな食レポで役に立ってるのかな。若干不安ではある。
「次はアパレルショップの多いエリアに向かおうかと思っています」
「はい。……そっちもあんまり行った事ないかもです」
「じゃあ是非、新規開拓してください。好みを教えて頂ければと」
「よう、おふたりさん。奇遇だな」
頭上から声がして、ふたりして身を竦める。見上げれば輩……違う、キングスカラー先輩がいた。この人、私服派手だな。
「おや、レオナさんもランチですか?」
「こんにちは、キングスカラー先輩」
あくまでもにこやかに対応する。この瞬間だけ、アーシェングロット先輩と気持ちが一つになった気がした。
「ああ。寮生どもの引率でな。そちらは仲良くお出かけってところか」
「ええ。一般学生の忌憚なき意見を聞きたくてお願いしたんです」
「お手伝いさせていただいてます」
「そんなに色んな意見が欲しいなら、俺たちも手伝ってやろうか?ちょうど頭数は揃ってるぜ」
「それは素晴らしい。良いメニューなどありましたら、是非僕にお知らせください」
「混んできましたし、そろそろ行きましょうかアーシェングロット先輩!」
「そうですね、席を空けませんとご迷惑です」
ほぼ同時に立ち上がる。食器を片づけて店を出ようとすると、キングスカラー先輩とすれ違った。
「いつもの芋臭いのも悪くないが、今日のは一段と似合ってる」
通り過ぎかけて振り返ると、悪戯っぽく笑っていた。
「特別に選んで頂いたんで、当然です!」
それだけ言い返して、アーシェングロット先輩を促して外に出る。通りを歩いて少しした所で、二人同時に店の方を振り返った。知り合いの人影はない。顔を見合わせる。
「念のため、予定を変更しましょう」
「賛成です」
別の方向に歩き出した。本屋や文房具屋といった、昔ながらの店が多い区画を目指す。
「……その、今日の、ユウさんの服なんですが」
「はい」
「エースさんに、選んでいただいたとか」
「そうなんですよ。僕、ファッションとかからっきしなんで。貰った服も全然着こなせなくて」
「好んで着ているワケではないと?」
「…………どうなんでしょうね」
考えてもよく分からない。洋服選びは、面倒事を避ける要素を一番に考えていた。
「顔の事がどうにも好きになれなくて。何を着てても女の子に間違われるし、街で人に声をかけられるのがストレスで。目立たない事ばっかり考えてたら、何が好きとかわかんなくなっちゃった」
アーシェングロット先輩の気遣わしげな視線を感じた。どうにか笑う。
「今日の服だって本当は僕が選ぶべきだと思ったんですけど、やっぱりよくわかんなくなっちゃって。僕の身近で頼めるお洒落さんっていうとエースしか思いつかなかったから、頼ってしまいました」
「……そう、だったんですか」
「せっかくデートだし。先輩に助けてもらったお礼だから、気分良く過ごしてほしいし、人に頼んででもちゃんとしている方がいいかなって」
表情が複雑で、何を考えているかはよく分からない。
と思ったら、アーシェングロット先輩は両手で自分の頬を叩いた。痛そう。
「だ、大丈夫ですか!?凄い音しましたよ!?」
「ちょっと気合いを入れ直しただけです。ご心配なく」
先輩は何事も無かったような顔で笑ってくれた。
「予定は変わってしまいますが、その分もっと楽しみましょう」
「はい、是非!」