4:沙海に夢む星見の賢者
「ほぁ~……やっと寮に戻ってこれたんだゾ」
宴も終わった翌朝。
僕たちはオンボロ寮を前に深々と溜め息を吐いた。この冬の空気すら懐かしくて清々しい。
「なんだかホッとするなぁ……」
『おぉ~い、二人とも!』
門を開けて庭に入ると、寮の方からゴーストたちが飛んできた。懐かしい顔にほっとする。
「ゴーストのおっちゃんの顔も、あの牢獄生活を思えばなんだか可愛く見えてくるんだゾ」
『ずっと帰ってこないから、お前さんたちがあの世に行っちまったんじゃないか~ってみんなで心配してたんだ~』
『無事だったんじゃな。良かった、良かった』
内容はともかく、心配をかけてしまった事は申し訳ない。
素直に謝ると、気にするなと笑ってくれた。
『そうそう、大食堂の火の妖精たちの番はやっておいたよ』
「ふなっ!?そういえば……すっかり忘れてたんだゾ!」
「それどころじゃなかったもんね……」
『凍えるほど寒いホリデーはゴメンだからね~』
『そうそう。学園長からご馳走のプレゼントも届いとるぞい』
ぱあ、とグリムの顔が輝く。
「にゃっはー!ごちそう!!ユウ、早く見に行くんだゾ!」
言うが早いか、グリムは寮に走っていってしまった。ゴーストたちが後を追いかけていく。僕も行こう、と思った瞬間、いきなり目の前に逆さまの人の顔が出てきた。
「おお、戻ったか」
「うわぁぁぁぁぁっっ!?」
驚いて飛び退くと、目の前の顔が楽しそうに笑う。
「驚かすのがクセになりそうな良き反応じゃ」
くるりと回って着地し、自分と同じ向きになる。小柄な体格に、少女のように愛らしい顔立ち。果実のような赤い目と、ピンクのメッシュが入った特徴的な髪型。ベストは黄緑色だ。
「わしはディアソムニアの副寮長、リリア・ヴァンルージュ。今日はお主にさるお方からのホリデーカードを届けに参った」
確か、マジフト大会の時に協力してくれた人だ。咄嗟に声が出なくて、とりあえず会釈する。
「えっと……ホリデーカード……ですか?」
ヴァンルージュ先輩は頷くと、懐から取り出した封筒を僕に手渡した。少しくすんだ色をした、古めかしいデザイン。古い木のような独特の香りが手にしただけで漂ってくる。
「今年のホリデーは誰からもパーティーに招かれず拗ねておったようだが……いずれお主が仲間とパーティーを開く事があれば、あやつも招待してやってくれ」
「は、はぁ……」
「では、わしはこれで。良きホリデーを」
「はい。ありがとうございます……」
こちらの礼を聞いたかどうか、ぐらいのタイミングで姿が消えた。首を傾げつつ、封筒を開く。出てきたのは封筒と似たような雰囲気のカードだ。城のような絵が描かれている。
「差出人の名前は……M.D?」
おそらくイニシャルだろう。それ以上の情報が出てこない。
ディアソムニアの人……と考えると、ツノ太郎の顔が思い浮かんだ。こういうの送ってきそうではある。
これって年賀状みたいなものなんだろうか。返事とかするべき?……でも、イニシャルしかわかんないのに返して届くものなんだろうか。
「ユウ~~!!早くしないとご馳走全部食っちまうんだゾ~~!」
グリムが寮の入り口から叫ぶ。カードを封筒に戻して懐に入れて、建物へ走った。グリムの傍から顔を出したゴーストたちが上機嫌に笑う。
『ほっほっほ!ハッピーホリデー!』