4:沙海に夢む星見の賢者
絵本のような夢を見た。
黒髪の男の子は、白い髪の男の子といつも一緒にいた。
白い髪の男の子はとても無邪気で、大雑把で、優しかった。
黒髪の男の子はとても頭が良くて、大人の話もよく理解できた。
白い髪の男の子は大金持ちの子どもで、黒髪の男の子はその従者の子どもだった。
切り離す事の出来ないその事実は、毎日毎日つきまとった。
『従者はいつも従者でなくてはいけない』
『勝負には二回勝って三回負けなさい』
『失礼がないように』
『お前は分かってくれるね』
父と母の言葉は、黒髪の男の子を苦しめた。
たくさんの出来る事があるのに、従者だから出来てはいけない。
一番になりたいと思うのに、従者だから一番になってはいけない。
生まれたくて従者の家に生まれたんじゃないのに、従者だから従わなくてはいけない。
白い髪の男の子は、黒髪の男の子の苦悩に気づかない。
出来ない事はたくさんあるけど、主人だからやってもらえる。
一番になれるほど凄くないけど、主人だから一番にしてもらえる。
望んで主人の家に生まれたわけじゃないけど、主人だから従者がいて当たり前。
黒髪の男の子は、自分自身を閉じこめなくてはいけない事に苦しみ続けた。目立とうとすれば、茨のトゲが自分を刺す。
『家族を守らなければいけない』
『自分一人の問題ではない』
茨は体中に巻き付いて、身動きが取れないほどだった。
何をしていても痛い。
従っても刃向かおうとしても、トゲが刺さって痛い。
やっと手に入れたほんの少しの自由さえ、大人たちは許さなかった。
それは大人から見れば、すぐに握りつぶせてしまう小さな反抗だった。
それなのに全てを失ってしまう可能性もある危険な賭けだった。
黒髪の男の子は痛くて限界で、泣きながら必死で外へと手を伸ばした。
その手を泣きながら掴んだのは、白い髪の男の子だった。
トゲも恐れずに茨を掴んで広げて、大切な友達を助けだした。
主人と従者。その関係は変わる事がない。
けれどそのあり方は、変えていく事が出来る。
お互いの凄さを認められる二人なら、『従者は主人よりも劣っていなくてはならない』なんて忖度は必要ない。
今は子どもだから、まだ不完全だけど。
未来は変えていく事ができる。
黒髪の男の子は、白い髪の男の子に本当の気持ちを話すようになった。
白い髪の男の子は、笑ったり困ったりしながら、それを受け止めるようになった。
生まれた時から一緒の二人は、二人にしかない信頼を築いて、その人生を華やかなものにしていくだろう。
友情などという陳腐なものではない。
忠誠心などという上辺のウソでもない。
互いをよく知っている、という、簡単に見えてとても難しい事を成し遂げて、二人は主人と従者のまま歩いていく。
主人と従者という足枷ある立場でも、自由の範囲を二人は広げていくだろう。
黒髪の男の子がいつか足枷を忘れられるくらいになってほしい、と心から願った。