1:癇癪女王の迷路庭園
鏡面が水面のように揺れる。
何も映さなかった闇色に、景色が映る。
金髪の少女が庭園を歩いていた。
高い生け垣の迷路を、何人かの兵士が赤いペンキを片手に忙しなく行き来している。
少女の無邪気な質問に、兵士たちは焦った様子で、でも当然の事と疑わず答えた。
間違えて植えた白い薔薇を赤く塗らなければ、女王様に首をはねられてしまう。
女王様が好きなのは赤い薔薇だから。
少女は首を傾げる。なんでそんな事で、と言いたげだ。
不思議と自分にもその感情は浮かんでいる。白い薔薇も綺麗なのに、と。
鏡面が揺れる。
映っていたものが溶けて消えていく。