4:沙海に夢む星見の賢者




 鏡面が水面のように揺れる。
 何も映さなかった闇色に、景色が映る。


 淀んだ薄暗い空気が辺りに満ちていた。
 緊迫した状況が映る。誰かが揉めている声がした。

 場面は目まぐるしく変わっていく。

 最強の魔神は、意地の悪い顔をした魔法使いの手に渡った。
 オウムが誇らしげに声を張り上げる。

『世界最強の魔法使いジャファーに拍手を』

 国王と姫君は魔法使いにひれ伏し、魔法使いは王子の嘘を暴く。

 嘘をついたのは王子の方。
 正しいのは魔法使いの方。

 それなのに、姫君は悲しい目で王子を見つめていた。
 恋する少女の瞳に、老いた魔法使いなど映らない。

『王子など大嘘』
 嘘は間違い?
『それが真実』
 真実は正しい?
『仮面ははがれ』
 仮面は嘘?
『その罰は』
 罰は必要?

 魔法使いの杖が唸りを上げる。
 大きな砂埃が空へ舞った。

『永遠の追放。あの世へ行ってしまえ』

 やっと邪魔者がいなくなる。
 そんな感情を含んだ声だった。

『さらば!アリ王子様!』

 そして、魔法使いは支配者となるのだろう。
 間違いを正し、正当な評価を受け取り、あるべき場所へと収まる。

 言葉の上では正しい事なのに、腑に落ちない、受け入れられないのはどうしてだろう。


 鏡面が揺れる。
 映っていたものが溶けて消えていく。



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