4:沙海に夢む星見の賢者
鏡面が水面のように揺れる。
何も移さなかった闇色に、景色が映る。
まるでお城のような、きらびやかな室内。
いかにも偉そうに座っている小柄で丸っこい壮年の男性の前に、細長いシルエットのこれまた偉そうな男が立っていた。男の方も壮年に近そうだが、丸っこい男性よりは若そうに見える。
小柄な男性は白い服装やどこかとぼけた表情のせいか頼りなさげで、対する偉そうな男は鋭い目つきで黒っぽいローブを身に纏っていた。立っている男の手には蛇を象った杖が握られている。
難色を示す男性に、男は近づき囁きながらさりげなく杖を掲げる。すると蛇の目は妖しく輝いた。
『姫は私と結婚するのです』
男の言葉を受けて男性の目が虚ろに揺れかけた時、外がにわかに騒がしくなった。
景色が切り替わる。
豪奢な宮殿。賑やかな城下町。
その大通りを華やかなパレードが宮殿に向かって進んでいる。
声高に、賑やかに。
王子の来訪を告げ、歓迎の声を集める。
踊り子が舞い、男が歌い、輿を乗せた象が乾いた地を踏みしめる。
こんなにも美しい光景なのに、どこか薄ら寒くて遠い景色。
どこにも真実がない、虚像のような。
だからと言って真実の価値など、外野に知れるものではないのに。
鏡面が揺れる。
映っていたものが溶けて消えていく。