4:沙海に夢む星見の賢者
「ほぁ~……この寮、どこ見ても金ぴかで豪華で……オンボロ寮とは大違いなんだゾ」
グリムの感嘆の通り、スカラビア寮はどこを見てもお城のように豪華だ。他にもお城みたいな寮はあるにはあるけど、それとは性質の違う豪華さだと思う。良く言えば贅を尽くしてる、悪く言えば成金趣味一歩手前。
「そんなに驚くほどか?確かにオレが入学した時、とーちゃんが学園に少し寄付して寮を綺麗に改装させたって言ってたけど……」
「少し、で改装したレベルの建物には見えませんけど……」
「どんだけ大金持ちなんだゾ!オメー、もしかして、レオナと同じ王子様か!?」
「アジーム家は王族じゃないから、オレは王子じゃないぜ。親戚筋には王族もいるけどな」
しれっと返すけど、豪奢な建物がアジーム家とやらの『少しの寄付』の結果なら、一国の王子にも相当する権力者と言って間違いじゃないと思う。下手したら国どころか世界でも有数の大富豪、なのではなかろうか。凄い人と話している気がする。
「あじーむ……?オマエの名前って、アルアジームじゃなかったか?」
グリムの疑問に、アジーム先輩は丁寧に説明してくれた。
先輩の出身である熱砂の国の古い言葉で『アル』は『息子』を意味する。熱砂の国では家を興した祖先の名前を家名にして、以降生まれた男児は全員『その息子』を名乗る事があるという。
「オレの場合、『アジーム』がご先祖様の名前で『アル』が息子って意味だから……カリム・アルアジームは『アジームさん家の息子のカリムくん』って意味になるな」
「ほへぇ……名前の由来なんて考えた事もなかったんだゾ」
「馴染みがないからちょっと難しかったか?ま、カリムでいいって!」
「ユウの名前にも由来ってあるのか?」
当然のように投げてくるなぁ。
「苗字の意味は知らないけど、名前は親がつけたからある、のかな」
「どんな意味だ?」
「優れて良い、って意味の『優良』って言葉から『ユウ』」
「ふむふむ…………ん?待てよ?ユウの双子の姉ちゃんの名前って確か、『リョウ』だったか?」
「そう。だから最初は姉が『ユウ』で僕が『リョウ』になるはずだったんだけど、そのまんまだとつまんないから逆にしたんだって」
「ユウの故郷の名付けも面白いな!」
漢字の話はしない方が良いよね。多分ややこしくなる。当て字だから由来とか無いらしいし。
「いつか熱砂の国のオレんちにも遊びに来いよ!めいっぱいもてなすぜ」
「お城みたいな大豪邸に住んでそうなんだゾ」
「そうでもないぜ。召使いも百人くらいしかいないし」
「百人いれば十分すぎるんだゾ!?」
オレ様だって子分は一人しかいねえのに、とグリムがぶちぶち言ってる。苦笑して流しておいた。
「オレんち、オレの下に兄弟が三十人以上いる大家族だからさ。それくらい召使いがいてくれねえと面倒みきれねぇんだよ」
「さ、三十人!?」
「うーん、四十人だったかな。三十人超えたくらいから数えるのやめちまった!顔と名前はみんな覚えてるんだけど」
「スケールが何もかも庶民と違いすぎるんだゾ……」
アジーム先輩は豪快に笑っていた。覚えるのも大変そうだし、それならまぁ同じ学校の接点の薄い生徒ぐらい覚えられなくても仕方ないだろう。
「ジャミルのとーちゃんとかーちゃんもオレんちの召使いで、だから、ジャミルにも小さい頃からずっとオレの世話係をしてもらってる」
幼なじみ、という事らしい。互いの事をよく知っている雰囲気だが『奔放な主人と冷静な従者』という関係性は厳然としているように思えた。
……二人の間には不変の『主従関係』がある。在って当然の身分の差。対等な友人関係を間違いなく邪魔する関係性。
アジーム先輩は、悪い意味でそれを気にしてなさそうなのが気になる。いや従者を見下すよりは良いのかもしれないけど、悪気がなければ何でも許されるものではないし、余計に質が悪いって事もあるだろうし。
ただ、それは外野が口を出すような事ではない。問題も解決したようなものだし、今は気にするだけ無駄だろう。意識の隅に疑問を追いやった。
「ジャミルはスゲーヤツなんだ。頭もいいし、気が利くし、なにより料理が上手い!」
「確かに、さっきの料理はスゲー美味かったんだゾ」
「だろ?じゃあ今日は夕食も食べていけよ!なっ!」
「お、おう」
グリムが僕の背中に登ってくる。思わずアジーム先輩と少し距離を取った。
「……なんかコイツとしゃべってると調子狂うんだゾ」
「この学園では珍しい、いい人だね」
疲れた様子のグリムを撫でると、めんどくさそうに手を払われた。
「おーい、お前ら。なにコソコソしてるんだ?こっちに来いよ」
アジーム先輩がこちらを振り返り手招きしてくる。慌てて追いかけた。