0:プロローグ
長距離の移動には闇の鏡を使うのが、この学校では通例らしい。僕の故郷はその範囲外だけど。四人揃って時間をかけずに移動できるのは便利だなと素直に思った。
でもまさか、いきなり森の中に出るとは思わなかった。もう夜だし、鬱蒼とした木々に囲まれて明かりもない。
一昔前は魔法石の採掘で栄えた、という話が事実なら、出口になった鏡も本来は屋内にあったものなのだろう。見つけた家も空き家になって久しいらしく、蜘蛛の巣が蔓延り荒れ果てていた。
家の中には子ども向けと見られる小さな家具も多数あり、栄えていた過去を思わせる。七人も子どもがいた大家族も、家を捨てるような状況に追い込まれたという事だろうか。なかなか悲しいドラマが垣間見える。
そこから程近い所に、鉱山内部への入り口があった。捨てられたランプを拾い上げて、火の魔法で灯す。内部に灯りの気配はないが、壁から何かが光を反射してキラキラ輝いていた。
「あ、灯りがあれば、こんなトコ怖くねーんだゾ!」
グリムは胸を張って先頭を歩き出す。尻尾が自信なさげに揺れているのは言わないでおいた。
闇の鏡を潜る前、グリムに一通りの話の流れを説明した。めんどくさい、と言い出すかと思いきや、グリムは同行に前向きだった。
『よくわかんねーけど、魔法石を持ってくれば窓拭きもチャラなんだろ?にゃはは、楽勝だ!』
失敗すれば多額の借金を抱えて一生こき使われる事になるだろうが、多分言っても理解できないと思うので黙っておいた。同行する二人も一年生のワケだし、手は多いに越した事はない。
薄暗い鉱山を連れ立って歩く。四人分の足音がイヤに大きく響いていた。
「待て、何かいる」
デュースがエースの進路を遮る。エースが文句を言うより先に、真っ暗な道が白く濁った。
『ヒーッヒッヒッヒ!十年ぶりのお客様だ!』
『ゆっくりしていきなよ、永遠にね!』
「で、でででで出たぁぁぁぁぁ~~~~!!!!」
「……いやビビりすぎでしょ」
学園にいるのと同じ、骸骨と言うにはふっくらしたシルエットのゴーストたちだ。エースたちからすれば驚くまでもない、見慣れた存在なのだろう。でも学園のゴーストと違って強い悪意を感じる。ボロ屋で最初に出会った時よりも、ずっと悪質な感じがした。彼らと違って冗談のつもりはない、という事なのだろう。
「ゴーストに構っている暇はない、撒くぞ!」
「お前が仕切んなよ!」
文句を言いつつ、エースはデュースについて走り出す。それをグリムが追いかけ、僕もついていった。どれくらい走ったかわからないけど、いつの間にか恨めしげな声が聞こえなくなって足を止める。
「ここもゴーストがうろうろしてんのかよ」
「文句言ってないで、先を急ぐぞ。早く魔法石を持って帰らないと」
エースの愚痴をデュースが遮ると、エースはむっとした顔になった。
「偉そうに命令しないでほしいんだけど。お前があんな馬鹿な事しなきゃこんな事になんなかったのに」
これにはデュースも苛立った顔になった。
「元はと言えば、お前が掃除をサボったのが原因だろうが!」
「それを言ったら、最初に『ハートの女王』の像を燃やしたのはそこの毛玉だ!」
「オマエがオレ様を馬鹿にしたから悪いんだゾ!」
「お前たち……今の状況がわかってるのか?朝までに魔法石を持って帰れなければ、僕たちは退学なんだぞ!」
「だーかーら、さっきからいちいち仕切んなよ」
そもそも状況が状況だから全員緊張はしていたけど、一度不満が出れば止まるわけがない。これを止めるのは、この仕事の成功しかないのだ。
なるべく後ろの騒ぎに気を取られないように、耳を澄まして気配を探る。ゴーストが騒ぎを聞きつけてやってきたらまた逃げなきゃいけなくなるんだ。その前に移動するなり、石を探したい。
程なく、遠くから人の声がした。でもさっきまで聴いていたゴーストのものと違う気がする。
「ごめん、ちょっと静かにして!」
「ああ!?今度はお前かよ!」
『……さぬ……』
声は近づいてきていて、それはエースたちの耳にも届いたらしい。濁ったうめき声。ゴーストたちとは違う、地を這うような音。
ガチャ、ガチャ、という金属が擦れるような音もしている。何かを引きずっている音が合間に挟まっていた。思わず三人に駆け寄り背に庇う姿勢を取る。デュースがランプを前方の曲がり角に掲げた。
ちょうどそこに現れたのは、化け物だった。インク瓶のような頭に、人の上半身。下半身はよく見えないが、少なくとも足らしいものは無い。左手にツルハシを持ち、右手に僕たちが拾ったのと似たデザインのランプを提げていた。
目が見えてるようには見えないのに、顔もないのに、明らかにこちらを向いたと解る。溺れているようで、それにしてはハッキリしている、合成音のような不気味な雄叫びを上げた。
『イジハ……オデノモノダアアアアアアアアアア!!!!!!』
「で、出たあああああああああああああ!!!!!!」
後ろの三人がそれに負けないくらいの悲鳴を上げた。来た道を一目散に駆け戻る三人を追いかける。あまり足は速くないのか、声は見る見る遠ざかっていった。
誰とも無く疲労で足が止まる。周囲を見回して、ゴーストもアイツもいない事を確認した。とりあえず安全そう。
「な、なんだあのヤバいの!」
「あんなのいるなんて聞いてねーんだゾ!」
「……アイツ、石がどうとか言ってなかった?」
「うん、僕も聞こえた。石はオレのモノ、って。多分だけど」
デュースが顔を輝かせ、対照的にグリムは泣きそうな顔になった。
「やっぱりここに魔法石はまだあるんだ!」
「むむむむむむ無理無理!!いくらオレ様でも、あんなのに勝てっこねえんだゾ!」
「魔法石を持ち帰れなければ退学なんだ、僕は行く!」
「冗談でしょ!?」
こちらが止めようにも、ランプを持ってるのはデュースだ。追いかけないと、暗いままで身動きが取れなくなる。エースは苛立たしげに後を追い、グリムも残されるのがイヤなのか、必死でその後を追った。自分も追いかける。
あの化け物は、鉱山の奥へ向かっているようだった。全員で合わせたように息を潜め足音を殺し、ツルハシを引きずる音を追う。
ずいぶん奥まで進んだと思った。化け物の持ったランプの淡い光が、一際大きく反射する。
「あ!」
デュースとグリムが声を上げた。思わずといった様子でランプを掲げる。照らされた先に、大きな水晶が見えた。光を受けて、中が虹色にきらめいている。大きさも多分、指定されたぐらいはあるだろう。
しかし同時に、化け物がこちらに気づいた。全身が粟立つ。
「下がって!」
僕が叫ぶのと、化け物が雄叫びを上げるのはほぼ同時だった。
「ユウこそ下がってくれ、グリムを頼む!」
デュースに半ば強引に後ろに押された。前をエースの背中に塞がれる。
二人はそれぞれ風や火の魔法を放つが、とてもダメージを与えられたようには見えない。化け物がツルハシを振り下ろす度に石がまき散らされ、ランプを振り回せば魔法は振り払われてしまう。ついにはそのランプが二人をなぎ倒した。
「エース、デュース!」
声をかければすぐに起きあがる。意識はありそうだが、身体のダメージよりも、魔法が効かない事にショックを受けているように見えた。
「こ、こっちに来るなぁ!!」
グリムが苦し紛れに吐き出した炎も物ともせず、化け物はツルハシを振り上げる。
「グリム!」
飛び込んでグリムを拾い上げた。間一髪、ツルハシの先がグリムのいた地面を抉る。追撃を前に跳んで避けてから、グリムを地面に下ろした。
「このままじゃ全員やられちまう!逃げるぞ!」
「二人とも走って!」
叫ぶと、二人はグリムと一緒に走り出した。デュースのランプの光を追いかけて自分も走る。
『カエレ!カエレ!カエレ!』
呪詛のような声が坑道に響く。聞こえなくなっても、三人の足は止まらなかった。息苦しい坑道を出て森まで戻ってくると、三人はもう動けないとばかりに膝をつく。
「……ここまでくれば大丈夫か?」
「なんだったんだよ、さっきの。あんなのいるなんて聞いてねーって!」
「ただのゴーストではなさそうだったな……」
「アイツが出てきてから、普通のゴースト見てないよね。……ゴーストたちもアレが怖いのかも」
身体についた埃をはたく。さすがに転がると汚れがひどい。
「もう諦めて帰ろうよ、あんなんと戦うくらいなら退学でいいじゃん」
「ざっけんな!退学になるくらいなら死んだ方がマシだ!……魔法石が目の前にあるのに、諦めて帰れるかよ」
「オレより魔法ヘタクソなくせになに言ってんだ」
デュースに対し、エースは冷ややかに言い放った。
「行くなら勝手に一人で行けよ。オレはやーめた」
「……あぁそうかよ。なら腰抜け野郎はそこでガタガタ震えてろ!」
「……はぁ?腰抜け?誰に向かって言ってんの?」
デュースの表情が一層険しく、声の調子が乱暴になる。一気に雰囲気が変わった。さっきまでは普通の優等生っぽかったのに。
挑発的な言葉に対し、エースの表情も変わった。どうも『腰抜け』にはムカついたらしい。
「なぁ、デュース……オマエ、なんかキャラが変わってる気がするんだゾ?」
「……わ、悪い。少し取り乱した」
グリムが怯えた表情でデュースの豹変を指摘すると、すぐに態度は元に戻った。深くは突っ込まないでおこう。
正直、状況は絶望的だ。エースの言わんとする所もわからなくはない。
「何て言うか……デュースの魔法、さっきの方が強くなかった?」
「さっきと言うと?」
「ほら、エースを捕まえてくれた時。結構重かったし、アレをぶつけられれば結構ダメージ出そうなんだけど」
「魔法は強くイメージ出来なければ具現化しないんだ」
「パッと思い浮かべた通りに魔法を使うには、かなりの練習が要るワケ。テンパってるとミスりやすい」
その練習のために魔法学校があるのだと、エースは付け加えた。
「とにかく、僕は何とかしてアイツを倒して魔法石を持ち帰る」
「さっき全然歯が立たなかったくせに、何とかって。何度やったって同じだろ」
「何だと!?お前こそ……」
二人の口喧嘩が再開される。グリムでさえ呆れた顔になった。
「ねえ、それいつ終わる?」
「あぁ!?」
「明日の朝までに終わるか、って訊いてんの」
「……ユウ、お前も顔が怖いんだゾ」
「終わらないなら僕が一人で行ってくる」
「はぁ!?」
今度は三人の声が揃った。
「それはさすがに無茶だって!魔法も使えないのに」
「そうだ、ユウだけ外にいてほしいくらいなのに!」
「子分じゃゴーストには太刀打ちできねえだろ!?」
「口を開けば喧嘩して大した魔法も使えない馬鹿二人と、ゴーストにビビって照準も合わせられない狸を連れていく方が無理だよ」
「うぐっ……」
「そ、それは……」
「お前、ホントに口が悪すぎるんだゾ……」
「……倒そうって思うから無理なんじゃない?」
三人がきょとんとした顔になる。
「坑道は結構入り組んでるし、分かれ道もあった。アイツは足も遅い。多分、この四人だと僕が一番足が遅いと思うけど、それでもここまで逃げきれたんだよ」
「それは……そうだな……」
「反応は速いけど音を聞き取れる範囲も広くはなさそうだし、魔法石を取って逃げてくるぐらいなら、ギリギリどうにかなるんじゃないかなって」
三人は顔を見合わせる。
「それなら……確かにどうにかなる、か?」
「まぁ、向こうが諦めずに追いかけてきて逃げ込む前に鏡を叩き割られたりしたら、あらゆる意味で終わりなので勝算は薄いかな」
「期待させといて、いきなり梯子はずすじゃん……」
「うん、時間稼ぎがいるんだよね。坑道を崩してアイツを潰すとか、そういうの」
「そんな高度な魔法は習ってないな……」
「……それこそ、デュースの大釜じゃねえか?」
グリムが言うと、デュースが目を見開く。
「ぼ、僕の、魔法……!」
「いや、なに目をキラキラさせてんだよ。通用するかわかんないじゃん」
「テンパってればミスりやすいなら、覚悟が決まってれば成功しやすい、って事だよね。使う魔法が一つに絞れれば、デュースみたいなタイプはやりやすいんじゃない?グリムだって火の魔法しか使えないけど、ムカつく奴にぶつける分には燃えにくい石像も黒こげにするぐらいの威力あるわけだし」
「ふ、ふははは!さすが子分、よく見てるんだゾ」
「単純バカだって言われてるんだよ、気付けよお前ら……」
エースが呆れたため息をつく。
「単純は見様によっては『ひとつの事に集中できる』っていう長所だよ。そういうのを巧く使うのが、器用な奴の立ち位置なんだよ、エースくん」
「……自分がそうだとでも言いたいワケ?」
「あ、僕は全然無理だよ。僕も単純バカ側」
「自分で言う?」
「人には向き不向きがあるの。多かれ少なかれ誰だって自覚はあるでしょ」
言いながらちょっと悲しい。気を取り直してエースを見る。
「全体を見ながら、必要な手助けや合図をしつつ、進行を管理するのって適性がいるんだよ」
「オレなら出来るって言いたいの?」
「出来ないの?じゃあ退学だね。腰抜けの称号も付くよ、おめでとう中退腰抜けトラッポラくん」
「お前マジでむかつく!!」
「しょうがないだろ、中退腰抜けトラッポラくん」
「帰るんなら仕方ないよなぁ。中退腰抜け爆発頭!」
「グリムのは悪口しか言ってねえだろ!!」
エースは咳払いしてこちらに向き直る。
「っていうか、こいつらと協力しろって事だろ?やだよそんなダセーの」
「ぼ、僕だって協力するとは言ってない!」
「ひとりで戦って勝つのがかっこいい、とか思ってるワケ?それで負けてりゃ世話ないよ。自分と相手の力を正しく理解して、適切な対処が出来てこそ優秀な魔法士、なんじゃない?」
「それに……入学初日で退学って言うのも、相当ダセーぞ……」
二人は黙り込む。
まあ、ここで黙ってじっとしてる分には危ない事はない。
「グリム、二人と一緒にいてくれる?」
「お、オマエ、本当に一人で行くのか!?」
「僕は一人の方が慣れてる。二人が一緒にいたらグリムも怖くないでしょ」
魔法少女としての戦闘を可能にした強化装備は無い。装備を作った保護団体の技術者たちからのバックアップも無い。
本当に自分の身一つで大きくて強い何かと対峙するなんて、多分これが初めてだ。
でもこういう場数は自分が一番踏んでるだろうし、このまま諦めるのも僕個人としては納得いかない。
鉱山に向かおうとする僕の前に、エースが立ちふさがった。
「ひとりで戦って勝つのがかっこいい、とか思ってるワケ?」
「人の言った内容そのまま復唱されても」
「自分だって似たような事しようとしてるじゃん」
「無理だと思ったら退くよ。そしたら君たちは退学、僕らは借金抱えて一生雑用係」
借金!?と後ろでグリムが素っ頓狂な声を出していたが無視した。
「まぁ成功したらラッキーと思ってよ。ゆっくり座ってな」
「……なんでそこまですんだよ。借金抱えるったって雑用係の立場は変わんねえし、オレらが退学したって影響ないだろ」
「んー……不用意に危険な目に遭わせた事を後悔してるから、かな」
「ここに来てからの事か?」
「ううん、シャンデリアの時」
「あの時?何で?」
「僕が最初に思いついてすぐに長椅子をグリムにぶつけてれば、エースはデュースに投げられなかったし、シャンデリアが壊れても僕だけの責任で済んだかなって思って」
二人はぽかんと口を開けた。グリムが目を見開いて身震いしている。
「オレ様、デュースとエースに感謝しなきゃいけない気がしてきたゾ……」
「いや、長椅子をあの高さにぶつけるのは相当難しいと思うが……」
「お前、メガネのくせにとんだ脳筋じゃん!」
「だから言ってるじゃん。僕も単純バカだって」
エースは一頻り笑うと、嘲りのない表情で僕に向き直った。
「いいぜ、お前の挑発に乗ってやるよ」
デュースも真剣な表情で頷く。
「やっぱり、ユウだけを危険な目に遭わせるのは納得いかない。コイツと協力するのはイヤだが、……ここで何もしないで待ってるのはもっとダセエ!」
グリムも胸を張った。
「子分だけにいい格好させるワケにはいかねえ!オレ様もやる!」
三人ともやる気になったらしい。……まぁ、成功率が上がるに越した事はない。
「そういう事なら……僕は囮役が適任だと思うけど」
「だから何で自分から危険なポジションに入るんだ!」
「だって、僕には攻撃手段が無いから。ゴーストと比べて実体はあるから大釜は当たりそうだけど、たぶん、僕が殴ってもダメージにならない」
「それは……そうだけど……」
デュースはまだ納得いかなさそうだ。エースは対照的に、冷静に質問してくる。
「大声は自信ある感じ?ブチギレた時、馬鹿でかい声だなって思ったんだけど」
「うん、声は結構大きいと思うよ、鍛えてるから」
「なるほど、囮役適任だわ。魔法石が奥にあるならおびき寄せるなら入り口側になるけど」
「ちょうど、ゴーストと出くわした辺りが、魔法石のあるトコとの中間ぐらいだったか?あの辺りは通路が少し複雑だったと思う」
「入り口側におびき寄せて足止めして、中に入って魔法石を回収。追ってくるアイツを途中の通路でやりすごして、入れ替わりに脱出。……こんなトコか」
エースが木の枝で地面に図解を描く。手遊びに近いようだがわかりやすい。
「そんなうまくいくのかぁ?」
「うまくいくかじゃねえ、やるんだ!」
いぶかしげなグリムに、デュースが勢いよく返す。
「どんだけ足止め出来るかが重要だ。重石は大釜でいいとして、それを当てるにもアイツの動きを止めたい」
「えっと、例えばなんだけど、威力を上げるような援護って、エースにも出来ない?」
「どういう意味?」
「アイツ、たぶん視覚……物を見て動いてると思うんだ。グリムが炎を吹きかければ攻撃と同時に目眩ましにもなるかなと思うんだけど、さっきの感じだと威力が足りなさそう」
グリムの吹いた炎は広範囲に広がったけど、足止めにもならなかった。一点集中なら威力は出るけど、視界を塞ぐほどの広範囲になると心許ない。かといって火の玉でピンポイントに顔だけにぶつけても効果は薄そう。
「他人の魔法の威力を上げる魔法、か……難しそうだな」
「なーんだ、それなら簡単じゃん。楽勝だよ」
「なっ!?」
難しい顔をしたデュースに対し、エースはニヤリと笑う。
「デュースは固く考えすぎ。バカ正直に増幅魔法を使うんじゃなくて、頭を使うんだよ」
「頭を……使う………?」
「あ、これホントに解ってねえな」
困惑するデュースはひとまず置いといて、作戦をまとめた。
僕が大声を出して外まで化け物をおびき寄せたら、グリムの魔法にエースが援護して足止めをしている隙に、デュースが大釜を召喚して化け物に重石をする。化け物の動きが止まったら鉱山に入って奥まで進み、魔法石を回収。複雑な道になってる所まで戻って、僕らを追いかけて奥に向かうであろう怪物をやり過ごして脱出する。
「魔法石までの先導はデュースに任せていい?」
「あぁ、大丈夫だ。任せてくれ」
「魔法石の回収、全員で行く意味あるか?一人で行った方が……」
「中間地点でやり過ごす時とか、取って戻ってくる時に出くわしたら絶体絶命だから」
「そ、それもそうだな……みんなが固まってた方が怖くないんだゾ」
「じゃあこれでいこう。ヘマすんなよ」
「お前こそな!」
エースもデュースも、さっきに比べて表情が良くなった。協力なんて柄じゃないとは言うものの、本当に出来ないタイプではなさそう。