3:探究者の海底洞窟
オンボロ寮に戻ると、ゴーストたちがささやかながら寮奪還おめでとうのパーティーを開いてくれた。食堂からもらってきたご飯を寮で食べるだけだけど、久々に彼らと話すのは楽しかった。
サバナクローに身を寄せた事はゴーストの情報網で知っていたようで、何もされなかったかと心配もされたけど。
部屋の中の点検もした。貰った服もシャンプーの空き瓶も、何も変わった所はない。ちゃんと約束は守ってくれたようだ。
学園長への報告は明日でいいかな。今回もえらい目に遭った。
「ほぁ~……でっけぇ魚……こんなに食べきれねぇんだゾ~……」
シャワーを浴びて部屋に戻れば、グリムが僕のベッドの上でもう眠っている。いい加減自分の部屋で寝ればいいのに。
布団に潜り込んで、見慣れた天井を見上げる。すっかり見慣れた景色が愛しい。グリムが脇腹に頭を押しつけてくるのをくすぐったく思いながらも、疲れていた意識は眠りに落ちていく。
夢か現か、自分が寝ているか起きているかわからない世界で、目の前がぼんやり明るくなった。
視界が起きあがる。光源は鏡だ。
「……なんだろう?」
ベッドから降りて、鏡に近づく。光は確かに明るいのに、寝ぼけた視界でもまぶしくはない。
鏡面の向こうが揺れている。それは見慣れている気がする水面の震えではなく、暗闇に煙が立ちこめているような揺らぎだった。鏡のはずなのに、何も映っていない。
不意に、こんこん、と鏡から音がした。
「……え?」
目を見開いて鏡を凝視する。
確かに今、誰かが向こう側から鏡を叩いた。
『……の……かい……』
鏡の向こう、遠くから誰かの声がする。耳を近づけた。
『……そこに……誰かいるの?』
性別がわからない、誰かの声。鏡の中、煙の向こうに誰かがいる。
もっと近くに、と思った途端に、鏡から光が消えた。鏡面には僕の顔が映っている。いつもの普通の鏡だ。
「今のは一体……?」
問いかけても答える声はない。再び光が溢れてくる様子もない。
しばらくそのまま見つめていたけど、やがて眠気の限界が来て布団に戻った。