3:探究者の海底洞窟
「グリム、地面に鼻擦り付けて何してんの?」
エースの声に振り返ると、グリムが何かを探すように地面を這いつくばっていた。しきりに鼻を動かしている。
「オレ様のグルメハンターのカンが言っている……この辺に、トリュフのごとき真っ黒なご馳走が落ちていると!」
「お前は豚かっ!」
アズールが一瞬息を飲んだ気がした。気づかないフリをする。
「ふなっ!黒い石みーっけ!グルメハンター・グリム様の鼻は誤魔化せねぇんだゾ~」
「……黒い石だと?」
グリムが高々と掲げた石を見て、キングスカラー先輩が険しい顔になった。自分もグリムの手元を見る。宝石のような直線的な形をした光を返さない黒さの石が、グリムの手に握られていた。
「いっただっきま~す!」
止める間もなく、グリムは石を口に放り込んだ。笑顔で咀嚼している。
「う~んこれは……こってりとしていながらパンチのきいた塩辛さもあり……マニアにはたまらないお味!なんだゾ!」
「お前、また拾い食いしてるのか?」
「もう止めるのも馬鹿馬鹿しいっつーか。やっぱモンスターの味覚ってよくわかんね」
エーデュースは慣れたと言わんばかりの様子だ。初めて見たメンツはドン引きしている。
「いくらオレでも石はちょっと……いや食べてみりゃいけるのか……?」
「ラギー先輩、冗談でもやめてください」
「……あの狸、いつもああして黒い石を拾い食いしてるのか?」
「え?えーと、いつもじゃないですけど……」
キングスカラー先輩に言われて考える。初めて見たわけじゃないが、頻繁に見るものでもない。
「普段は食堂のご飯食べてますし……あー、でも、ここに来る前の事はわからないです。腐ったキノコがどうとか言ってた事もあるし……」
「……そうか」
「レオナ先輩、どうかしたんすか?」
「別に。なんでもねえよ」
キングスカラー先輩は、まだ訝しげな表情でグリムを見ている。そんな視線を気にせず、グリムは呆れた顔のエーデュースに、美味の探究がどうとか講釈を垂れていた。
「……そろそろ帰るか。寮の連中も引き上げさせろ」
キングスカラー先輩が言うと、ブッチ先輩が頷いてスマホを操作する。モストロ・ラウンジで作戦に参加した生徒はまだオクタヴィネル寮の中にいたらしい。
と、思っていると身体が宙に浮いた。至近距離にキングスカラー先輩の顔がある。
「あの、先輩?」
「帰るんだろ?」
「帰りますけど、あの、自分で歩いて帰りますから下ろしてください」
「立てないんなら誰かが運ばねえと往来の邪魔になるだろうが」
「立てます!歩けます!もう大丈夫ですから!!」
「全く力が入ってないぜ。見え透いた嘘つきやがって」
話してる間も、先輩はすたすたと歩いて鏡の方に向かっている。
「た、助けて親分ー!!」
思わず叫ぶと、グリムが我に返りすっ飛んできた。
「子分を離せー!」
キングスカラー先輩の背中にひっついて猫パンチを繰り出すが全く効かない。
「はいはい、保健室いってらっしゃーいッス」
ブッチ先輩の投げやりな声に見送られ、僕はオクタヴィネル寮の敷地を後にした。