3:探究者の海底洞窟
「……アトランティカ記念博物館に行く!?」
朝の授業が始まり、いつものメンバーで作戦会議。
エーデュースもジャックも朝から浮かない顔だった。更に僕の提案には揃って素っ頓狂な声を上げる。
「いやいやいや、人魚には水中じゃ勝てないから、別の方法でどうにかしようって話になったじゃん」
「確かに、契約書を破る方法は何も浮かんでないけど……」
「何か作戦でもあるのか?」
グリムと顔を見合わせ、ニヤリと笑う。
「レオナに協力させるんだゾ」
ぶほぅ、と三人同時に吹いた。
「な、はい!?」
「監督生!?」
「レオナ先輩が協力って……それって……」
「オレ様たちがキョーハクしたら一発だったんだゾ」
少し輝いていたジャックの目が、あっという間に落ち込んだ色になった。
「いや、マジで一体何したワケ?」
「ちょっと弱みを握ってね」
「その、変な事されたりしてねえな?」
「それは大丈夫。最後の手段として考えてはいたけど、使わずに済みそう。グリムのおかげでね」
「にゃはは、オレ様のアイデアの勝利なのだ!」
「まだ勝ってないだろ」
律儀にツッコミを入れつつ、ジャックはため息を吐く。
「……今日、マジフトの朝練がなかったのも、寮の連中が沈んだ顔だったのもそれでか」
「むしろ寮生のジャックはなんで把握してないんだ?」
「騒ぎは十二時近かったから、多分ジャック寝てたよ」
「いや、確か夜中に変な音が聞こえて目が覚めたんだが……談話室で誰か騒いでるだけかと思って寝直したんだ」
「それで済んだなら幸せだと思うゾ……」
「何で脅迫した側のグリムがげっそりしてるんだ?」
デュースが首を傾げているのを見て、思わず苦笑する。
気を取り直して。
「金庫の契約書の処分と双子の足止めは、キングスカラー先輩がやってくれる。僕たちはモストロ・ラウンジが開店した時間を見計らってアトランティカ記念博物館に行き、写真を借りてくる」
「……まさか、サバナクロー寮の生徒を店に押し掛けさせて、双子の足止めしようって事……?」
「そういう事」
キングスカラー先輩の資金力は一学生のそれではない。しかもサバナクローは校内屈指の肉体派集団。モストロ・ラウンジのこじゃれたメニューなど恐るるに足らず。
「イソギンチャクも頭数はいるし、他の寮生もいるだろうから、おまじない程度だとは思うけど」
「そーね。アズールなら店の事より契約の妨害を優先しそうだもん」
「しかし、キングスカラー先輩は強力な助っ人だと思うけど、本当に大丈夫なのか?」
デュースが思わずといった感じで疑問を口にすると、ジャックの目がつり上がる。
「レオナ先輩がアズールに負けるわけねえだろうが!」
「い、いや、そうだろうけど、そうじゃなくて」
「そこは大丈夫」
「根拠は?」
「無い!……でも信じて大丈夫。ね、ジャック」
少し疑う顔のエーデュースに言い切ると、ジャックは嬉しそうな顔で頷いた。尻尾がご機嫌にぶんぶんしてる。
「それじゃあ、アトランティカ記念博物館までの道の情報を整理して、魔法薬の飲む量を決めたら一旦解散。放課後すぐに闇の鏡の前に集合ね」
放課後から日没まで、残された時間は多くない。
そこからは時間との勝負だ。