3:探究者の海底洞窟




 肌触りの良い布団に頬を寄せる。いつまでも寝ていられる、素敵な心地よさ。
 でも瞼を刺す光が再び夢に落ちる事を阻む。残念に思いながら目を開いた。
 何だか最近、妙に現実とリンクした夢を見せられている気がする。人質を取られ、取引を持ちかけられるなんて、最近どこかでも見た光景だ。夢の内容について詳しい事は思い出せないけど。
 部屋に置かれた時計を見る。今日は朝練はしないと言っていたが、そろそろ起きないと朝ご飯が危うい。
「グリム、起きて。朝だよ」
 むにゃむにゃ、と言いながら寝返りを打つ。いつ見ても撫でたくなる可愛さだ。しかし今は頭に生えたイソギンチャクも一緒に揺れるので嫌悪感が勝つ。肩を掴んで揺さぶれば、うっすら目を開いた。
「むにゃ。朝ぁ……?」
「朝ご飯食いっぱぐれるよ。早く起きて」
「うー……ぐるる……」
 唸りながらも起きあがった。座り込んだ状態でしばらく頭を揺らしているが、そのうち完全に起きるだろう。
 部屋の奥を見れば、キングスカラー先輩もまだ寝ているらしく、毛布の膨らみは動かない。いつもならブッチ先輩が起こしに来てる所だろうと思うんだけど。
 部屋の外を確認したが、誰かがこちらに来る気配はしない。
 ……起こした方が良いのかな。
 ベッドに近づき、顔を覗きこむ。まだ眠っているようで、目は閉じたままだ。
「……先輩、朝ですよ」
 声をかけて肩を揺さぶる。眉間に皺が寄ったけど、目を覚ます気配はない。
 さてどうしよう。前回のように可愛く振る舞うのは気分が乗らない。
 不意に、耳が震えているのが目に入る。キングスカラー先輩の耳は獅子のそれだが、そこだけならとても可愛らしく見える。本人の雰囲気や迫力を崩す事は一切無いのに。不思議。
 思わず頭を撫でる。めちゃくちゃ怒られそうだと思ったけど、触ってしまったら今更だ。人間の髪の毛と動物の耳の毛では質感が違うのに、同じ生命体の、地続きの存在であると違和感なく感じられる。
 低い唸り声が聞こえた。先輩が、甘えるように手にすり寄ってくる。小動物の方から触られた時のような気持ちが胸に湧いた。
 起こさないといけないのに、起こしたくない。
 寝ていれば無害なんだよなぁ……という感想も浮かびつつ、手を止めようかと思った瞬間に、腕を掴まれる。とっさに身体を引いて振り払った。
「おはようございます、先輩」
 笑顔で挨拶すると、キングスカラー先輩は不機嫌な顔で僕を睨む。
「……一晩生殺しにしてくれたと思ったら、朝っぱらから人の頭を撫で回しやがって」
「お嫌でしたら、もっと早く起きてくださったら良かったのに」
 舌打ちされた。笑ってごまかす。
「さ、グリム。顔洗ってお布団干して、朝ご飯を食べに行こう。今日は決戦だからね!」
 まだ寝ぼけ眼のグリムを引きずり、洗面所へと向かった。


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