3:探究者の海底洞窟




 鏡面が水面のように揺れる。
 何も映さなかった闇色に、景色が映る。


 男女が仲睦まじく過ごしている。
 魔女と取引した人魚のお姫様と、彼女が恋した人間の青年。
 小舟の上で過ごす二人は、幸せそうに見えた。

 それが突如として崩れる。
 小舟は沈み、視界は暗い海の底へと落ちていく。

『あの娘、意外としぶとい』

 魔女は忌々しげに言う。

 黒雲が空を覆うように、不穏が心に満ちていく。
 場面が変わり、魔女に捕らえられた人魚の少女と、魔女の姿が見えた。そこに壮年の男性の人魚がやってくる。
 威厳に満ちた姿、手に携えた槍。きっと王様とか偉い立場で、少女の父親なのだろう。

 魔女が人魚の少女と取引したのは、彼を引きずり出すためだったのだ。

 魔女は男性に取引を持ちかける。
 娘と引き替えに。

 ……自分の望みのために、少女の夢すら利用する。
 なんて恐ろしいのだろう。

 どうして、そんな事をしなくてはいけないのだろう?


 鏡面が揺れる。
 映っていたものが溶けて消えていく。


34/53ページ