3:探究者の海底洞窟
ぼんやりと意識が浮上する。顔の近くに体温がある。
またグリムが乗っかってるのかなぁ。
体温を撫でながら薄目を開くと、誰かと目が合った。明かりのない世界で、ぼんやりと見えた色は草原の緑。撫でていた手に人肌が触れる。
視界が闇に慣れてきた。至近距離にキングスカラー先輩の顔がある。思わず悲鳴を上げそうになったが、手で口を塞がれ不発に終わった。
「静かにしろ、毛玉が起きるだろうが」
言われて横を見ると、グリムがクッションの上に広がって寝ている。相変わらず幸せそうだ。
僕が落ち着いたと見て、先輩は手を離した。思わず大きく息を吐く。
「……こんな夜中にどうしたんですか」
尋ねても、すぐには答えなかった。ただ、先輩の指が僕の目尻に触れる。後に残った涼しさで、自分が寝ながら泣いていたのだと気付いた。沈んだ表情を見るに、心配してくれたらしい。
「……うるさかったんですね。すいません」
「……気にしなくていい」
「僕、少し外に出てきます」
「出なくていい」
起きあがると、少し強めの声で引き留められた。表情は真顔のままだ。
「トイレに起きたら顔が見えただけだ。声は聞いてない」
「……そうですか」
本当の所はどうだろうな。性根は優しい人だから、気を遣って言ってくれてるのかもしれない。
何を言うべきか迷っていると、布団についていた手に先輩の手が重なった。空いた手で頬を撫でられる。
「先輩」
キングスカラー先輩の唇が額に触れる。鼻梁に、瞼に、頬に、耳に。あやすように口づけられる。
親猫が子猫を毛繕いする、ってこんな感じだろうか。優しくて絶妙に心地いい触れ方で、何だか泣きそうになっていた。察したように抱き寄せられ、頭を撫でられる。
甘いのにどこか突き放すような、先輩の匂いでいっぱいになった。気持ちが落ち着いて、瞼が重くなってくる。
脱力しているのを感じたのか、今度は布団に寝かされた。キングスカラー先輩も添い寝するような体勢になって、でも毛布の中に入ってくる事は無い。髪を指で梳いて、額に口づけて、背中を撫でる。寝かしつけられている気分だ。実際にどんどん瞼が重くなっていく。
最後に見えたのは、慈しむように細められた緑の目。
優しく触れる手の心地よさに、瞼は陥落する。自分より強い存在が傍にいる事に、心から安堵していた。
蕩けるように、意識は深く深く、眠りに落ちていった。