3:探究者の海底洞窟
「おはよーッス!朝ッスよー!!」
ブッチ先輩の明るい声で目が覚めた。もうすっかり空は明るい。
「もう朝か……ってまだ六時じゃねーか!」
「ウチではマジフトの朝練してるんス。泊まるからにはユウくんたちにも付き合ってもらうからね」
「は、はぁ……」
魔法使えないのに良いのか。いやグリムは多少相手になれるかもしれないけど。
そうこうしている間にブッチ先輩がキングスカラー先輩をベッドから引きずり出す。しかし起きる様子がない。下半身がすっかりベッドから落ちてるのに、手足も尻尾も垂れたまま動かない。
「とりあえずレオナさん起こすの手伝ってもらえる?オレ洗濯物の回収するから」
言われるがまま、動かないキングスカラー先輩の肩を揺さぶる。
「先輩、起きてください」
びくともしねえ。狸寝入りじゃないだろうな。
「せんぱーい、朝ですよー!!朝練するんでしょー!!」
割と大きい声を出したが、うっとおしそうに顔を布団に押しつけるだけだった。思わず舌打ちする。
ちょっと悪戯心が芽生えた。これで起きるとは思わないけど、まぁ一応。
ベッドに乗り上げて、先輩の耳元に顔を近づける。
「レオナさん、起きて」
自分でもちょっと引くぐらい甘えた声で囁いた。視界の端で毛を逆立てているグリムが見えた気がするけど気にしない。
くすぐったそうに先輩の顔がこっちを向いて、うっすら目を開ける。次の瞬間に目を見開き、音が立つ勢いで起きあがってバランスを崩しひっくり返りそうになって、見事な受け身を取っていた。
「ああ、よかった起きた。おはようございます、先輩」
「………………………ああ」
やっと昨日僕たちが泊まっていった事を思い出したらしい。いつもの不機嫌そうな顔に戻っている。
「おはようございます、レオナさん」
「……ラギー、てめえの仕業か」
「何の事ッスか?オレは起こしてくれるように頼んだだけッスよ」
ブッチ先輩はニヤニヤ笑いで洗濯物の入ったカゴを抱えている。
「じゃあ、僕も顔洗ってきますね」
「待て」
キングスカラー先輩に肩を掴まれる。
「部屋を出る前に着替えろ」
「はい?」
「着替えてから顔を洗いに行け。せめて下に何か履け!!」
言われて、寮服のシャツしか借りてない事を思い出した。
「すいません、忘れてました。お見苦しい所をお見せしました」
「早くしろ」
「はーい」
僕とキングスカラー先輩のやり取りを、ブッチ先輩は笑いをかみ殺しながら見ていた。キングスカラー先輩からの殺気が肌で感じられる。
「仕方ないじゃないですか、急な事だから着せる服がなかったんですよ。ねぇ?」
「予備の在庫だと一番小さいのでも僕には大きかったので……すいません本当に」
「お前、まさかと思うが普段からそんななのか?ハーツラビュルの連中の前でも?」
「オンボロ寮ではちゃんとパジャマ着てますよ。建物が古くて寒いんで。エーデュースは体育の着替えで見慣れてるんで今更どうという事もないと思いますけど」
キングスカラー先輩が頭を抱えた。その様子をブッチ先輩がニヤニヤ笑いで見ている。めちゃくちゃ楽しそう。
「え、そんなに?」
「そりゃあ、ねえ?彼シャツよろしくぶかぶかの寮服着て、美味しそうな足見せてりゃ、男としては色々反応しちゃうよね」
「ラギー……」
「え、エースからは『夢が壊れる足の太さ』って言われたんですけど」
まさか食肉として見られてるわけじゃないよね?獣人属、人間食べないよね?
「あぁ、ハーツラビュルの子とかは華奢な方が好みそう。リドルくんみたいな女の子並みに細い子見慣れてるから、相当夢見てるんじゃないスか」
「あー……ありえる……」
その言いぐさだと、サバナクローは肉感的な体型の方が好みって事?
脳内でキングスカラー先輩に美女を侍らせると、確かになんか凄い肉感的で強そうなお姉さんが浮かぶ。似合う。
「先輩……美女侍らせるのめちゃくちゃ似合いますね……さすが長身美形の王子様……」
「くだらねえ事言ってないで、着替えたんなら顔洗ってこい」
「はーい」
グリムは既に洗面所に向かったようだ。慌てて追いかけた。