3:探究者の海底洞窟
鏡面が水面のように揺れる。
何も映さなかった闇色に、景色が映る。
真っ暗な洞窟に、ほのかに明かりが灯る。
水の音がする。水の中にいる。
光の中からやってきた少女は、女の声に導かれるように奥へ進んでいく。
少女の下半身は魚だ。人魚のお姫様が、海の魔女に会いに来ているのだろうか。
『人間に恋をしたんだね?』
種族の違う恋。生まれた場所も生きていく場所も違う人への憧れ。
少女の真っ直ぐな想いを、海の魔女は巧みに誘導する。
『さあ、取引だ!』
美しい声と引き替えに、三日間だけ人間にしてやる。
恋が叶えば元通り、叶わなければ……その先は聞こえない。語る者がいない。
自分には永遠に解りそうにない。
何かを犠牲にしてでも手に入れたいもの。
そうでもしないとどうにもならないもの。
そこに手を伸ばしてしまう気持ち。
自分の胸に湧く失望さえ怖いのに。
鏡面が揺れる。
映っていたものが溶けて消えていく。