短編
ぎぃぃ…と軋んだ扉の開く音で微睡んでいた意識を覚醒させた。
一体誰が王の眠りを妨げたのだろうか。多少の苛立ちを出しながら扉の方を見ると馴染みの顔が立っていた。
足元には何やらもぞもぞと弱々しく動く何か。丁度中途半端に開いた扉の影が邪魔で一体何なのかは判別が出来なかった。
「言峰か。こんな夜更けに王の閨を訪れるとは…貴様でなければ即刻首を刎ねていた所だぞ?」
我がそう投げつけると奴は反省の色も無く
「申し訳ないな、英雄王。次からは気をつけるとしよう。」
と、肩を竦めながら上辺だけの謝罪の言葉をほざいた。
ああ…この様に導いたのは自分自身だが、ここまで可愛げが無くなるとはもう少し考えて堕とせば良かったか?
「…まあ良い。して、貴様の足元に転がるものは何だ?王の睡眠を邪魔してまで持ってやってきたという事は何かしら価値のあるものなのだろうな?」
「勿論だとも。そうでなければ自らの命を危険に晒すような真似はせんよ。…ほら、自分の目で確認するといい。」
聞かれるのを待ってましたと言わんばかりに言峰は光が失せ、死を漂わせる眼を三日月形に歪めた。実に愉しそうな顔である。
奴の手によって光のよく当たる場所まで引き摺られてきた蠢くそれは、我のよく知る、
「最近は『これ』に執着していただろう?偶然にも捕らえる機会が出来てな。ギルガメッシュ、お前に見せたらどういった顔をするか気になって連れてきしまったよ。」
窓から指す月明かりに照らされた金色の髪は我のものとは違う煌めきを見せてくれるはず…なのだが今は血がべっとりとついてぬらぬらとくすんだ赤を映す。
両腕両足を折られたのかあらぬ方向に曲がってしまっている。所々、骨が見えている部分もある。
荒く、苦しそうな息や口元を汚す血の量から見て臓器も幾つかやられてしまったのだろう。
美しい銀の鎧は半壊し、酸化した血で黒ずんで汚れきっていた。
…そう、そこには見るも無残な姿になった騎士王、アーサー・ペンドラゴンが転がされていたのだ。
「セイバー…か?機会があったとはいえよく生身の人間がサーヴァントに打ち勝てたな。」
ずっと己のものにしたかった男が瀕死の状態で居るというのに口から零れたのはそんな興味だった。
「ふっ、どんなに強いサーヴァントであれ隙をついてしまえばただの人と変わらんさ。」
確かにそうだな、と納得をしつつもあれ程の実力を持つセイバーがあっさりとやられてしまうのか?と疑問を抱いてしまう。
「で、この様な死に体のセイバーを我にどうしろと?」
つかつかとセイバーの元へと近づき見下ろしながら言峰に問いかける。
「それはギルガメッシュの自由だ。私ただ単に、自分の仕える王に宝物を献上したまで。献上されたものをどう扱うかなど本人次第ではないかね?」
つまりは煮るも焼くも我の自由にしろ、という事か。
「それもそうであったな。…用は済んだな?ならばもう下がれ。我は眠い。次妨げるような事があれば…」
「分かっているとも。では良い夢を、英雄王。」
思ってもない事を言い残し、入ってきた時と同様に耳障りな軋みを立てながら扉が閉まった。
我はゆっくりとその場にしゃがみこむと宝物庫から治療用の宝具を取り出すと息も絶え絶えで死んでしまいそうなセイバーの傷を癒していった。
そして最後に…ほんの少しだけ口を合わせ魔力を送ってやる。
癒された身体と与えられた魔力により元気を取り戻したセイバーをじっと見つめる。
「あー…ちゃー………な、ぜ…?」
朦朧としている意識の中、問いかけるセイバーを無視して我は今度は転移系の宝具を取り出すと奴をマスターの元へと返した。
何故そうしたのだろう。己でも分からない。だが、ひとつ言えるのは…あの様な形でセイバーを手にしたくなかった。
無理矢理物として献上され、あの自由の輝きを失ったセイバーよりも、我を置いていく、眩い星のようなあやつが欲しい。
例えるならば風切羽を切られ観賞用として売られる鳥よりも、自由に飛び回る鳥に興味が引かれる。というものなのだろう。
そんな理由…だからだろうか。我が奴をマスターの女の元へと返したのは。
次の日言峰には
「返してしまったのか。やれやれ、捕まえ損だったようだな。」
と嫌味を言われたが無視することにした。少しだけ、今はあれと話す気になれなかったからだ。
言峰を避けるように教会を出る。1人になりたかった。
受肉をしてからだろうか。どうも感情的になりやすくなっている。『人間の女』の性に我の意識が引っ張られやすくなっている。
頭の中がぐちゃぐちゃになって、何も纏まらないし、考えられないまま本能的に己が己で無くなっていく恐怖を感じていた。
一体誰が王の眠りを妨げたのだろうか。多少の苛立ちを出しながら扉の方を見ると馴染みの顔が立っていた。
足元には何やらもぞもぞと弱々しく動く何か。丁度中途半端に開いた扉の影が邪魔で一体何なのかは判別が出来なかった。
「言峰か。こんな夜更けに王の閨を訪れるとは…貴様でなければ即刻首を刎ねていた所だぞ?」
我がそう投げつけると奴は反省の色も無く
「申し訳ないな、英雄王。次からは気をつけるとしよう。」
と、肩を竦めながら上辺だけの謝罪の言葉をほざいた。
ああ…この様に導いたのは自分自身だが、ここまで可愛げが無くなるとはもう少し考えて堕とせば良かったか?
「…まあ良い。して、貴様の足元に転がるものは何だ?王の睡眠を邪魔してまで持ってやってきたという事は何かしら価値のあるものなのだろうな?」
「勿論だとも。そうでなければ自らの命を危険に晒すような真似はせんよ。…ほら、自分の目で確認するといい。」
聞かれるのを待ってましたと言わんばかりに言峰は光が失せ、死を漂わせる眼を三日月形に歪めた。実に愉しそうな顔である。
奴の手によって光のよく当たる場所まで引き摺られてきた蠢くそれは、我のよく知る、
「最近は『これ』に執着していただろう?偶然にも捕らえる機会が出来てな。ギルガメッシュ、お前に見せたらどういった顔をするか気になって連れてきしまったよ。」
窓から指す月明かりに照らされた金色の髪は我のものとは違う煌めきを見せてくれるはず…なのだが今は血がべっとりとついてぬらぬらとくすんだ赤を映す。
両腕両足を折られたのかあらぬ方向に曲がってしまっている。所々、骨が見えている部分もある。
荒く、苦しそうな息や口元を汚す血の量から見て臓器も幾つかやられてしまったのだろう。
美しい銀の鎧は半壊し、酸化した血で黒ずんで汚れきっていた。
…そう、そこには見るも無残な姿になった騎士王、アーサー・ペンドラゴンが転がされていたのだ。
「セイバー…か?機会があったとはいえよく生身の人間がサーヴァントに打ち勝てたな。」
ずっと己のものにしたかった男が瀕死の状態で居るというのに口から零れたのはそんな興味だった。
「ふっ、どんなに強いサーヴァントであれ隙をついてしまえばただの人と変わらんさ。」
確かにそうだな、と納得をしつつもあれ程の実力を持つセイバーがあっさりとやられてしまうのか?と疑問を抱いてしまう。
「で、この様な死に体のセイバーを我にどうしろと?」
つかつかとセイバーの元へと近づき見下ろしながら言峰に問いかける。
「それはギルガメッシュの自由だ。私ただ単に、自分の仕える王に宝物を献上したまで。献上されたものをどう扱うかなど本人次第ではないかね?」
つまりは煮るも焼くも我の自由にしろ、という事か。
「それもそうであったな。…用は済んだな?ならばもう下がれ。我は眠い。次妨げるような事があれば…」
「分かっているとも。では良い夢を、英雄王。」
思ってもない事を言い残し、入ってきた時と同様に耳障りな軋みを立てながら扉が閉まった。
我はゆっくりとその場にしゃがみこむと宝物庫から治療用の宝具を取り出すと息も絶え絶えで死んでしまいそうなセイバーの傷を癒していった。
そして最後に…ほんの少しだけ口を合わせ魔力を送ってやる。
癒された身体と与えられた魔力により元気を取り戻したセイバーをじっと見つめる。
「あー…ちゃー………な、ぜ…?」
朦朧としている意識の中、問いかけるセイバーを無視して我は今度は転移系の宝具を取り出すと奴をマスターの元へと返した。
何故そうしたのだろう。己でも分からない。だが、ひとつ言えるのは…あの様な形でセイバーを手にしたくなかった。
無理矢理物として献上され、あの自由の輝きを失ったセイバーよりも、我を置いていく、眩い星のようなあやつが欲しい。
例えるならば風切羽を切られ観賞用として売られる鳥よりも、自由に飛び回る鳥に興味が引かれる。というものなのだろう。
そんな理由…だからだろうか。我が奴をマスターの女の元へと返したのは。
次の日言峰には
「返してしまったのか。やれやれ、捕まえ損だったようだな。」
と嫌味を言われたが無視することにした。少しだけ、今はあれと話す気になれなかったからだ。
言峰を避けるように教会を出る。1人になりたかった。
受肉をしてからだろうか。どうも感情的になりやすくなっている。『人間の女』の性に我の意識が引っ張られやすくなっている。
頭の中がぐちゃぐちゃになって、何も纏まらないし、考えられないまま本能的に己が己で無くなっていく恐怖を感じていた。
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