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短編

とても美しい女性だと思った。
幾つもの金を溶かして作った滑らかな金糸の髪。真っ赤に熟れて食べ頃になった柘榴そっくりの瞳。白磁器で出来た白く透き通る、でも触ると凄くしっとりと柔らかで暖かい肌。
神様が練って、捏ねて、積んで、編んで、塗って、そして綺麗に仕上げを施した、欠けたところも、醜いところも、非をつけるところも何にもない、神様が創りたもうた完璧なニンゲン。
半分以上に神様(キカイ)を、余ったところに人間(ジユウ)を詰め込まれた、女神のような完璧で綺麗な女性(ヒト)。
神がいるなんてこれっぽっちも思ってないし、この先の人生でも信じる事は無いだろう。でも、この女性だけは女神様として信じていこうと、幼心に思った。
俺が信仰心を捧げるのは彼女ただ1人。俺の親愛を捧げるのも、情愛を捧げるのも、性愛を捧げるのも、全て全て彼女だけでいい。俺を構築するありとあらゆるが彼女から貰った物なのだから。

俺が彼女と出会ったのはあの地獄のような炎に包まれた瓦礫の山の中。周りには崩れて元の形すら分からなくなった何かの破片たちとじわじわと火に焼かれ、炙られ消えゆく哀れな死体達だけ。
助けを求めてさ迷っている俺も、体力の限界で、熱くて、苦しくて、意識も朦朧として「ああ、ここで死ぬんだ」。子供ながらに悟った気持ちで重くなりつつある瞼を閉じようとしたその時。視界に何か、消えゆく自分の魂を引きつけるものが見えた。
こんな阿鼻叫喚の地獄みたいな場所に居るのにちっとも悲壮感さを感じさせない、きらきらと輝く無邪気な笑顔だった。
どう考えてもこの場所には不釣り合い、寧ろ不謹慎なまでの愉快そうで、例えるなら新しいおもちゃを見つけた子供のような顔の女性は炎の明かりに照らされて金と赤の混じった光を靡かせながら倒れふす俺を抱き上げた。
近くなる顔。その女性の顔はきっと俺と同じように煤やらなんやらで汚れているはずなのにそんなもの気にならないくらいに綺麗で、こちらを見つめる双眸は吸い込まれそうなほどのあかだった。それも周りの炎なんか目じゃないくらい深く綺麗な。
俺も見られている間、抱き上げた人を見る。こんなに綺麗ならばもしかしたら俺を迎えに来た天使様か若しくは女神様なのかもしれない。だってこんな場所に居るのに何処までも高貴で穢れを知らなそうなのだから。
抱き抱えてくれている女神様は静かに俺の頭を撫でると、見た目通りの美しい透き通る、聞き心地の言い音で口を動かす。
「成程こやつ、この地獄での生き残りか。だいぶと弱って入るが目は死んではおらぬ。…よい、良いぞ!気に入った!」
そう高らかに言うと女神様はぎゅっと俺の事を抱き締めると顔だけを後に向けた。よくよく見てみるとボロボロになったカソックを着ている大柄の男性が居た。
女神様はその男性に向かいこう宣言した。
「綺礼よ、我はこの幸運なる子雑種を拾うぞ。」
綺礼、と呼ばれた男は困り気味に首を軽く振りつつ溜息を吐く。
「どういう風邪の吹き回しだ。英雄王。」
問われた女神様はさらり、と俺の頭を一撫ですると
「こやつはこの地獄を生き延びたのだ。つまり、王の選定に選ばれた。…興味が湧いた、と言った方がいいか?」
綺麗で、可愛らしいとも取れる顔に似つかぬニヤリとした顔で男に答えた。
その後は男もこうなったこの女神様が何を言っても聞かないのを熟知しているかのように静かに「…分かった」とだけ苦々しげな顔で告げる。
二人の間で俺を連れて帰る話が纏まったので女神様は俺を抱えたまま何処ぞへと渋顔の男を引き連れて向かっていった。

それが彼女…ギルガメッシュと俺、■■士郎との出会いだった。
死にかけていた俺の目に焼き付いた彼女の姿。消えかけた命に手を伸ばし引っ張り上げた彼女。その後教会で死んだように生きる俺に色んな楽しい事(彼女は『愉悦』って呼んでる)を教えてくれた。何もかもを俺に与えてくれた。
つまり俺の全ては彼女がつくってくれた。俺の亡くなった中身を彼女が与えてくれた。俺の生きる意味を彼女教えてくれた。
だから俺は何処までもギルガメッシュを愛しているし、彼女のためならばどんな非道な事にも手を染めよう。例えそれがまた地獄に堕ちるような事であっても。
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