短編
何の変哲もない小さな少女。だが、それは見た目だけの話だ。
彼女は人類を脅かす絶対的な『悪』。人を堕落させる『魔性』。この手で討ち果たさなければならない邪悪だ。
本来ならば神の従順な僕として清き存在でなくてはならない人間を悪徳の道へと誘い、何も知らぬ無垢な子供に劣悪な歪みの種を埋め込み芽吹かせ、その人生を歪ませた。
何よりも許してはならぬのは彼女が行おうとしている、身勝手な『人類の裁定』だ。
穢れきった聖杯に澱む泥、それを用いてこの町…いやこの星を地獄へと落とす。そしてその地獄を生き延びたひと握りを『選ばれた民』として支配する。
人の命を弄ぶ最低な行為だ。最初に『裁定』の事を聞いた時激しく糾弾した。
「人類を裁定する…だと?そんな事をする権利がアーチャー、君にある筈ないだろう!」
アーチャーは深い溜息を洩らすと呆れたような、どうしようもない子供を見るような目でこちらを見た。
「我を誰だと思っている聖剣使い。この世全てを見、支配した英雄の中の英雄王だぞ?その我が現代の雑種共の裁定をするのは当然の義務であろうが。」
さも当たり前の事だと主張するその言葉。
「民を統べる王は何もお前一人だけでは無いぞアーチャー。それに裁定をするにしたって方法が理不尽過ぎるぞ!何の罪も無い命を奪い、守るべき弱きものを見捨てるという考えは間違っている!」
意に返さぬ様子ですっ…と目を細めるアーチャー。 不思議と辺りの空気が冷えていっている感覚に襲われた。
「吼えるな、青二才。」
僕の怒声に対し放たれたたったそれだけ言い放つ。たったそれだけの一言で世界が静まり返った。
彼女の様子が一変している。2度の聖杯戦争で見知った筈の傍若無人な暴君でも、圧倒的な強さを見せつける武人でも、希に垣間見させる少女の部分でもない、感情の乗らない無機質な何か。あえて言うならば神のような…そんな様子だった。
「我が弱きを切り捨てる酷薄な王だ…と貴様は言いたいのか?愚かだな。弱きが虐げられ死に絶えるのは当然の摂理だ。」
「確かに自然界ではそうだろう。だが!人の世にその摂理は当てはまらない!」
そうだ、人は助け合える。どんなにか弱くて消えそうな存在でも守りあえる。
人の温かな絆を否定するアーチャーに激しい怒りを覚え反論する。
すると鋭く凍える様な目で見据えられた。まるで自分の考えや思いが全て間違いだ、と錯覚してしまいそうな愚者を見る目だった。
「人もこの星に生きる生命。自然界での摂理に当てはまらぬ訳が無いだろう。どうして人間だけを特別視する?おかしいのは摂理から外れ、無尽蔵かつ無益に増え続けるあれらの方だろう。」
アーチャーは言葉を続ける。
「食物連鎖。あれが正しい星の摂理、連鎖だ。喰らい喰らわれの関係があるからこそ一定の種が増え続ける事が無く、自滅を防ぐ機構となっている。しかし人はどうだ?抑える上位種は存在せず、惰性に増え続けている。神代の頃は良い。この星の摂理に従い生きて、死んで、抑えられる強靭なる者が多かった。だが今はどうだ?無駄に知恵を付け、誤った暴力を手にする脆弱な輩ばかりだ。その様な雑種共が蔓延れば星は死に絶える。それは、聖剣使い。貴様でも分かっていることだろう?」
淡々と、しかし力強さを感じる演説は人の目線からと言うよりも遥か上。神の目線からの話のように感じた。
アーチャーの言い分に共感出来る部分はある。現代の人々は僕達が生きていた頃よりも弱く、間違いだらけになった。でも、だからと言って守らない理由にはならない。命を奪うきっかけにしてはいけない。
「アーチャー、お前の言う事は確かに分かる。だけれど私は彼等を不必要と見捨てはしない。どんなに脆弱で愚かになろうと人には素晴らしい心がある。…絶対にお前の裁定の魔の手から守ってみせる。」
長話は終わりだ、と聖剣を向ける。この前のようにやられる訳にはいかない。ここで負けてしまえば、人類の終わりがやってしまう。
ギッと睨みつけられているのにも関わらず臆すことの無い少女の姿をした災禍は小さく「そうか」と残すと、鎧姿へと変わった。
これが、最終決戦だ。必ず、勝ってみせる…!
彼女は人類を脅かす絶対的な『悪』。人を堕落させる『魔性』。この手で討ち果たさなければならない邪悪だ。
本来ならば神の従順な僕として清き存在でなくてはならない人間を悪徳の道へと誘い、何も知らぬ無垢な子供に劣悪な歪みの種を埋め込み芽吹かせ、その人生を歪ませた。
何よりも許してはならぬのは彼女が行おうとしている、身勝手な『人類の裁定』だ。
穢れきった聖杯に澱む泥、それを用いてこの町…いやこの星を地獄へと落とす。そしてその地獄を生き延びたひと握りを『選ばれた民』として支配する。
人の命を弄ぶ最低な行為だ。最初に『裁定』の事を聞いた時激しく糾弾した。
「人類を裁定する…だと?そんな事をする権利がアーチャー、君にある筈ないだろう!」
アーチャーは深い溜息を洩らすと呆れたような、どうしようもない子供を見るような目でこちらを見た。
「我を誰だと思っている聖剣使い。この世全てを見、支配した英雄の中の英雄王だぞ?その我が現代の雑種共の裁定をするのは当然の義務であろうが。」
さも当たり前の事だと主張するその言葉。
「民を統べる王は何もお前一人だけでは無いぞアーチャー。それに裁定をするにしたって方法が理不尽過ぎるぞ!何の罪も無い命を奪い、守るべき弱きものを見捨てるという考えは間違っている!」
意に返さぬ様子ですっ…と目を細めるアーチャー。 不思議と辺りの空気が冷えていっている感覚に襲われた。
「吼えるな、青二才。」
僕の怒声に対し放たれたたったそれだけ言い放つ。たったそれだけの一言で世界が静まり返った。
彼女の様子が一変している。2度の聖杯戦争で見知った筈の傍若無人な暴君でも、圧倒的な強さを見せつける武人でも、希に垣間見させる少女の部分でもない、感情の乗らない無機質な何か。あえて言うならば神のような…そんな様子だった。
「我が弱きを切り捨てる酷薄な王だ…と貴様は言いたいのか?愚かだな。弱きが虐げられ死に絶えるのは当然の摂理だ。」
「確かに自然界ではそうだろう。だが!人の世にその摂理は当てはまらない!」
そうだ、人は助け合える。どんなにか弱くて消えそうな存在でも守りあえる。
人の温かな絆を否定するアーチャーに激しい怒りを覚え反論する。
すると鋭く凍える様な目で見据えられた。まるで自分の考えや思いが全て間違いだ、と錯覚してしまいそうな愚者を見る目だった。
「人もこの星に生きる生命。自然界での摂理に当てはまらぬ訳が無いだろう。どうして人間だけを特別視する?おかしいのは摂理から外れ、無尽蔵かつ無益に増え続けるあれらの方だろう。」
アーチャーは言葉を続ける。
「食物連鎖。あれが正しい星の摂理、連鎖だ。喰らい喰らわれの関係があるからこそ一定の種が増え続ける事が無く、自滅を防ぐ機構となっている。しかし人はどうだ?抑える上位種は存在せず、惰性に増え続けている。神代の頃は良い。この星の摂理に従い生きて、死んで、抑えられる強靭なる者が多かった。だが今はどうだ?無駄に知恵を付け、誤った暴力を手にする脆弱な輩ばかりだ。その様な雑種共が蔓延れば星は死に絶える。それは、聖剣使い。貴様でも分かっていることだろう?」
淡々と、しかし力強さを感じる演説は人の目線からと言うよりも遥か上。神の目線からの話のように感じた。
アーチャーの言い分に共感出来る部分はある。現代の人々は僕達が生きていた頃よりも弱く、間違いだらけになった。でも、だからと言って守らない理由にはならない。命を奪うきっかけにしてはいけない。
「アーチャー、お前の言う事は確かに分かる。だけれど私は彼等を不必要と見捨てはしない。どんなに脆弱で愚かになろうと人には素晴らしい心がある。…絶対にお前の裁定の魔の手から守ってみせる。」
長話は終わりだ、と聖剣を向ける。この前のようにやられる訳にはいかない。ここで負けてしまえば、人類の終わりがやってしまう。
ギッと睨みつけられているのにも関わらず臆すことの無い少女の姿をした災禍は小さく「そうか」と残すと、鎧姿へと変わった。
これが、最終決戦だ。必ず、勝ってみせる…!