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短編

じっくりとローストされている。
そんな言葉がふいに過ぎるほど、今日の気温は高かった。
天気予報によると朝から晩まで快晴で低くて25℃、最高気温は30℃以上を記録するらしい。
まあ、気温が高いだけならば別に、青空が広がっていて気分も晴れ渡るというものなのだが日本ではそうはいかない。
日本特有のじめっとした嫌な暑さ。ぐるりと体に巻きついてくるようで何時までも涼しいという気分になれない。そんな厄介な暑さだ。
元々そこまで気温が上がったり、じめじめとした気候にならない地域出身な俺、生まれも育ちも日本な小僧、ここなんかよりも暑い国生まれな姫さんもみんなへばってしまっている。
この中で平然とした顔で過ごしている(しかも暑苦しいカソックでだ)言峰はどんな神経をしているのか本気で疑った。
うーうーと意味の無い音を発する姫さんはべったりと机に顔を付け死んだかのように動かなかったが、やがてばっ!と顔を上げると閃いたと言わんばかりの表情で告げた。
「プールに行くぞ!!」

…………

という訳で発案者に連れられてやってきたのはここいらではメジャーなレジャー施設『わくわくざぶーん』。
大型の室内プールという事もあってか、姫さんと同じ考えの輩が大勢来ている。
先々に進んで入場口まで行ってしまった姫さんは何やら従業員と話し込んでいるようで中々入場料を払わない。
何やってんだ…?と思いつつも暫く待っているとふいに姫さんがこちらを向いて手を招く。
「ふふふ、感謝するがいい!我特権で貴様らの入場料は半額となったぞ!」
一体なんだと近づいてみればドヤ顔でこの発言。
「そう言えばギルはわくわくざぶーんの経営者だったっけ。」
すっかり姫さんの荷物持ちと化していた坊主が思い出したかのように言う。
「なるほどなー…ってそれ職権乱用じゃね?」
「なにを言うか狗。これは我の支配するもの、なれば支配者たる我の言う事を聞くのが道理というものだぞ?」
…まあ従業員の方も良いと言っているのでちょっとしたラッキーとして受け取ろう。
姫さんの気まぐれで少しばかり経費を浮かせる事が出来たから何か店のもん買って食うか…と考えつつ入場をするのであった。

若干芋洗いっぽい混みようだったが流石の広さを誇る施設。充分に遊べるスペースがあった。
俺は設置してある休憩スペースを確保しつつ姫さんと小僧が遊んでいるのを見守る事にした。ビールとフランクフルト片手に。
「どうしたしろー!貴様の実力はそんなものかー!?」
きらきらとした笑みが眩しい。
姫さんはなんとまあお似合いな清楚さ溢れる白い水着にゴツめの水鉄砲を持ち小僧に何発も弾をくれていた。
あの射撃の上手さを見ているとやっぱりこいつアーチャーだなと、聞かれていたら怒られそうな感想を1人ごちていた。
「やったな、この!これならどうだ!?」
こちらも負けないくらい明るい笑顔だ。
坊主は拳銃サイズの水鉄砲を2つ持ち、絶え間なく撃ち込んでいく。
姫さんは咄嗟に避けようとしたが、足元が水だし手数は多いしで顔面から水の弾を浴びる事になった。
やってやられての応酬、2人は実に楽しそうにけらけらと笑いながら水遊びを続ける。傍から見たらお似合いのカップルに見えるだろう。
晴れ渡る夏の空、澄み渡るプールの水、仲睦まじい男女…嗚呼、これが青春。
若いっていいねぇ、なんておっさん臭い言葉はビールと共に胃の中に流し込んだ。
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