短編
名前・一人称の設定
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ひと目見て、その人だと分かった。
手配書を見て、一目惚れした彼。
写真と違ってバンダナは被っていないけれど、あの鋭い目に左目の傷は間違いない。
“海賊狩り”ロロノア・ゾロ。
いつものように街へ出かけた時の出来事だった。中央広場の噴水の近くで佇んでいる彼を見つけた。
…相手は海賊だと分かっている。一箇所には留まらず、自由に海を行く者だと。
そして、世間一般では悪者。周囲が認めてくれるわけはない。
それでもどうしようもなく惚れてしまったのだ。一度でいいから、気を引きたかった。
そう思い、声をかけようと一歩踏み出したその時。
「ゾロー!やっと見つけた!」
そう言いながら彼の元へ駆け寄っていく姿があった。
彼はその姿を目にすると、わずかに顔を緩ませる。
「ふらっと」
そう呼ばれた少女は、彼の目の前に立って顔を見上げる。
「まったく…路地裏とか街の外れとかそんなところばっか探したのに。そういう時に限って分かりやすいばしょにいるのなんなのもう…ほら行こ?」
少女はそう言うと、彼の腕を引っ張る。
まずい。このままじゃ、彼がどこかへ行ってしまう。せっかく見つけたのに。…いや、この島に来てくれたのに。
焦った私は、無我夢中で声をかけていた。
「あのっ…!」
突然声をかけられ、2人が不思議そうに振り向く。
「観光ですか?よかったら案内しましょうか?」
咄嗟に口から出たのは、そんな言葉だった。
─────────
「ごめんね、わざわざ案内してもらっちゃって…買い物の途中だったんじゃない?大丈夫?」
「いえ、大丈夫、です…」
少女の問いにそう答えてはみたものの。全く大丈夫ではない。大丈夫なわけがない。
だって、あのロロノアさんと歩いているのだ。夢にまで見た、あの彼と。
「そっか」
そして、ふらっととかいうこの少女。こいつは一体、ロロノアさんの何なんだろう。私とロロノアさんの間を歩いている。いますぐ腕を掴んで彼の隣からひっぺがしたい気分だけど、彼にそんな姿を見せるわけにはいかないので、黙って微笑むに留める。
ああ、どうにかして彼の注意が私の方を向くようにならないだろうか。そう思ったちょうどその時、ふらっとが近くの道を指差した。
「あそこ何?面白そう、行ってみたい」
…それは、街の外れへと続く道だった。
人気のない道で、しばらく進むと最近この辺りを襲っている盗賊のアジトがある。
盗賊の、アジト。途端に、私の頭にいい考えが浮かぶ。彼の気を引く、いいアイデアが。
「いいですよ、案内しましょう」
私はにっこり微笑むと、2人の先に立って歩き始めた。
──────────
しばらく進むと、少しひらけた場所に出た。
乱雑にものが置かれ、一見すると人の気配はない。
だが、私は知っている。ここには何十人もの盗賊が潜んでいるということを。
街の子供達はここに近づくなときつく親から言われているし、大人でも進んで近づくものはいない。私だってそうだ。
…でも、今は。今だけは。
少し震える足で一歩を踏み出す。それと同時に、どこからか何かが飛んできた。
ああ、やっぱり。私はぎゅっと目を瞑る。避けようとは思わなかった。だって、彼はいくら海賊といえど、目の前で人が襲われるのを黙ってみているような人間ではないと思うから。
カキンカキン…!と金属同士がぶつかる音、そして、コロコロ…と何かが地面に転がる音を聞いて、私はゆっくり目を開けた。
まず目に入ったのは、地面に転がる2本のナイフ。顔を上げると、案の定、私を守るように刀をかざす彼。…そしてもう1人、同じように刀をかざす、ふらっと。
「っっ……!!!!」
なんで、この女が。隣でニコニコ笑っていることしかできない、軟弱そうなやつだと思ったのに。
そう思う私の前で、2人は目を合わせて無言で頷きあうと、飛び出してきた盗賊たちに斬りかかっていった。
一言も交わすことなく、お互いの動きを読み合っているかのように動く2人。
それは、戦闘が全くの素人の私からしても、息ぴったりであることが一目瞭然であった。
あっという間に敵を片付け、同時に刀を鞘に収める2人。
しまう時の“キンッ…!”という音まで揃っているのをいるのを聞いて、私は思い知った。
ああ、この2人の間には、誰も割り込むことが出来ないんだ…と。
「ったく、お前が面白そうだって言うから…」
「あはは、ごめんごめん。でも、体動かせてよかったでしょ?」
「まァな」
2人はそんな会話をしながらこちらへ戻ってくる。
「あ、えっと…」
「キミもごめんね?怪我はない?怖かったよね」
「…ううん、大丈夫です」
にっこり笑って問いかけるふらっとさんに、私は首を振る。
「…ごめんなさい」
「んー?なんか言った?」
「いいえ、なんでもないです。そろそろ街へ戻りましょうか」
2人を連れて街へ戻りながら、私はふと思った。
…ロロノアさん、一度も私に話しかけてこなかったな。
背後からは、2人が楽しそうに会話する声が聞こえていた。
──────────
案内してくれた女の子とは、広場の噴水に戻ったところで別れた。
そういえば最後まであの子の名前聞かなかったな。
…まあいいか。 だって。
私はそう思いながらゾロを見つめる。
「どうした、ふらっと」
ほら、こうやって、ゾロが呼ぶのは私の名前だけでいい。
「…なんでもない。ほら、船に戻ろ」
そう言いながら私はゾロの手を強く握り直す。
「お前、どうしてあの道へ行きたいと言ったんだ?」
ゾロを見上げると、灰色の瞳と目が合う。
私のことなら何でも見透かしているようなその目。
こうなると、もう隠し事はできなくて。
「…あの子に、私達の圧倒的な相性の良さを見せつけたくなったの」
「どういうことだ」
「気づいてなかった?あの子、絶対ゾロに惚れてたよ」
恋愛には鈍感な私だけど、私の彼に送る視線が違うのぐらいは気づいてた。
「あんたの入る余地なんてないよ、って分からせたくてね。あそこに何かのアジトがあるってのは、ゾロを探し回った時に分かってたから。ダメ元で言ってみたけど、まさか本当に案内してもらえるとは。ゾロに守ってもらって気を引きたいとか、お礼に何か…とか思ったんじゃないの、あの子」
「ったく、お前は…」
つらつらと話す私に、ゾロは苦笑する。
「そんなことしなくても、おれにはお前しかいねェって分かってるだろ」
「分かってる、分かってるけどさ…でも気分のいいもんじゃないじゃん。あーあ、どうせゾロの手配書だけみて惚れたクチなんだろうな。あれがカッコよすぎるのは分かるけどだからってあれだけでゾロのこと全て知った気にならないでほしいんだけど。寝室に手配書貼って毎晩眺めてたりすんのかな。家特定して燃やしにいくとか言わなかったの褒めてほしいぐらいだよ…ん」
ゾロは私の頭に手を置くと、撫でる。
「ほら、機嫌直せ」
大きな温かい手に撫でられると次第に落ち着いてきて、ということは先ほどまで私の心はざわざわしていたんだなと気づく。
「帰りになんか甘ェもんでも買ってくか」
「うん…あと」
私が促すように見上げると、ゾロは「仕方ねェな」と笑って、軽く触れるだけのキスをしてくれた。
「ん…ありがと」
「行くぞ」
ゾロは私の手を引いて、あらぬ方向へと歩きだす。
「そっちじゃないよ、こっち。甘いもんだけじゃなくて、お酒も買ってこうか」
「そうだな」
ゾロは嬉しそうにニヤッと笑う。
「買いすぎてナミちゃんに怒られないようにしないとね」
私も同じようにニヤッと笑うと、2人で店へと向かった。
手配書を見て、一目惚れした彼。
写真と違ってバンダナは被っていないけれど、あの鋭い目に左目の傷は間違いない。
“海賊狩り”ロロノア・ゾロ。
いつものように街へ出かけた時の出来事だった。中央広場の噴水の近くで佇んでいる彼を見つけた。
…相手は海賊だと分かっている。一箇所には留まらず、自由に海を行く者だと。
そして、世間一般では悪者。周囲が認めてくれるわけはない。
それでもどうしようもなく惚れてしまったのだ。一度でいいから、気を引きたかった。
そう思い、声をかけようと一歩踏み出したその時。
「ゾロー!やっと見つけた!」
そう言いながら彼の元へ駆け寄っていく姿があった。
彼はその姿を目にすると、わずかに顔を緩ませる。
「ふらっと」
そう呼ばれた少女は、彼の目の前に立って顔を見上げる。
「まったく…路地裏とか街の外れとかそんなところばっか探したのに。そういう時に限って分かりやすいばしょにいるのなんなのもう…ほら行こ?」
少女はそう言うと、彼の腕を引っ張る。
まずい。このままじゃ、彼がどこかへ行ってしまう。せっかく見つけたのに。…いや、この島に来てくれたのに。
焦った私は、無我夢中で声をかけていた。
「あのっ…!」
突然声をかけられ、2人が不思議そうに振り向く。
「観光ですか?よかったら案内しましょうか?」
咄嗟に口から出たのは、そんな言葉だった。
─────────
「ごめんね、わざわざ案内してもらっちゃって…買い物の途中だったんじゃない?大丈夫?」
「いえ、大丈夫、です…」
少女の問いにそう答えてはみたものの。全く大丈夫ではない。大丈夫なわけがない。
だって、あのロロノアさんと歩いているのだ。夢にまで見た、あの彼と。
「そっか」
そして、ふらっととかいうこの少女。こいつは一体、ロロノアさんの何なんだろう。私とロロノアさんの間を歩いている。いますぐ腕を掴んで彼の隣からひっぺがしたい気分だけど、彼にそんな姿を見せるわけにはいかないので、黙って微笑むに留める。
ああ、どうにかして彼の注意が私の方を向くようにならないだろうか。そう思ったちょうどその時、ふらっとが近くの道を指差した。
「あそこ何?面白そう、行ってみたい」
…それは、街の外れへと続く道だった。
人気のない道で、しばらく進むと最近この辺りを襲っている盗賊のアジトがある。
盗賊の、アジト。途端に、私の頭にいい考えが浮かぶ。彼の気を引く、いいアイデアが。
「いいですよ、案内しましょう」
私はにっこり微笑むと、2人の先に立って歩き始めた。
──────────
しばらく進むと、少しひらけた場所に出た。
乱雑にものが置かれ、一見すると人の気配はない。
だが、私は知っている。ここには何十人もの盗賊が潜んでいるということを。
街の子供達はここに近づくなときつく親から言われているし、大人でも進んで近づくものはいない。私だってそうだ。
…でも、今は。今だけは。
少し震える足で一歩を踏み出す。それと同時に、どこからか何かが飛んできた。
ああ、やっぱり。私はぎゅっと目を瞑る。避けようとは思わなかった。だって、彼はいくら海賊といえど、目の前で人が襲われるのを黙ってみているような人間ではないと思うから。
カキンカキン…!と金属同士がぶつかる音、そして、コロコロ…と何かが地面に転がる音を聞いて、私はゆっくり目を開けた。
まず目に入ったのは、地面に転がる2本のナイフ。顔を上げると、案の定、私を守るように刀をかざす彼。…そしてもう1人、同じように刀をかざす、ふらっと。
「っっ……!!!!」
なんで、この女が。隣でニコニコ笑っていることしかできない、軟弱そうなやつだと思ったのに。
そう思う私の前で、2人は目を合わせて無言で頷きあうと、飛び出してきた盗賊たちに斬りかかっていった。
一言も交わすことなく、お互いの動きを読み合っているかのように動く2人。
それは、戦闘が全くの素人の私からしても、息ぴったりであることが一目瞭然であった。
あっという間に敵を片付け、同時に刀を鞘に収める2人。
しまう時の“キンッ…!”という音まで揃っているのをいるのを聞いて、私は思い知った。
ああ、この2人の間には、誰も割り込むことが出来ないんだ…と。
「ったく、お前が面白そうだって言うから…」
「あはは、ごめんごめん。でも、体動かせてよかったでしょ?」
「まァな」
2人はそんな会話をしながらこちらへ戻ってくる。
「あ、えっと…」
「キミもごめんね?怪我はない?怖かったよね」
「…ううん、大丈夫です」
にっこり笑って問いかけるふらっとさんに、私は首を振る。
「…ごめんなさい」
「んー?なんか言った?」
「いいえ、なんでもないです。そろそろ街へ戻りましょうか」
2人を連れて街へ戻りながら、私はふと思った。
…ロロノアさん、一度も私に話しかけてこなかったな。
背後からは、2人が楽しそうに会話する声が聞こえていた。
──────────
案内してくれた女の子とは、広場の噴水に戻ったところで別れた。
そういえば最後まであの子の名前聞かなかったな。
…まあいいか。 だって。
私はそう思いながらゾロを見つめる。
「どうした、ふらっと」
ほら、こうやって、ゾロが呼ぶのは私の名前だけでいい。
「…なんでもない。ほら、船に戻ろ」
そう言いながら私はゾロの手を強く握り直す。
「お前、どうしてあの道へ行きたいと言ったんだ?」
ゾロを見上げると、灰色の瞳と目が合う。
私のことなら何でも見透かしているようなその目。
こうなると、もう隠し事はできなくて。
「…あの子に、私達の圧倒的な相性の良さを見せつけたくなったの」
「どういうことだ」
「気づいてなかった?あの子、絶対ゾロに惚れてたよ」
恋愛には鈍感な私だけど、私の彼に送る視線が違うのぐらいは気づいてた。
「あんたの入る余地なんてないよ、って分からせたくてね。あそこに何かのアジトがあるってのは、ゾロを探し回った時に分かってたから。ダメ元で言ってみたけど、まさか本当に案内してもらえるとは。ゾロに守ってもらって気を引きたいとか、お礼に何か…とか思ったんじゃないの、あの子」
「ったく、お前は…」
つらつらと話す私に、ゾロは苦笑する。
「そんなことしなくても、おれにはお前しかいねェって分かってるだろ」
「分かってる、分かってるけどさ…でも気分のいいもんじゃないじゃん。あーあ、どうせゾロの手配書だけみて惚れたクチなんだろうな。あれがカッコよすぎるのは分かるけどだからってあれだけでゾロのこと全て知った気にならないでほしいんだけど。寝室に手配書貼って毎晩眺めてたりすんのかな。家特定して燃やしにいくとか言わなかったの褒めてほしいぐらいだよ…ん」
ゾロは私の頭に手を置くと、撫でる。
「ほら、機嫌直せ」
大きな温かい手に撫でられると次第に落ち着いてきて、ということは先ほどまで私の心はざわざわしていたんだなと気づく。
「帰りになんか甘ェもんでも買ってくか」
「うん…あと」
私が促すように見上げると、ゾロは「仕方ねェな」と笑って、軽く触れるだけのキスをしてくれた。
「ん…ありがと」
「行くぞ」
ゾロは私の手を引いて、あらぬ方向へと歩きだす。
「そっちじゃないよ、こっち。甘いもんだけじゃなくて、お酒も買ってこうか」
「そうだな」
ゾロは嬉しそうにニヤッと笑う。
「買いすぎてナミちゃんに怒られないようにしないとね」
私も同じようにニヤッと笑うと、2人で店へと向かった。