他プリ春+わちゃわちゃ短編詰め合わせ

写真を撮りたいと言い出した恋人に、藍は一瞬間を置いてから苦笑を返した。
今日は3月1日。一応、美風藍が誕生した日とされている。
嘘ではないが、世間一般の誕生日とは違うので、目覚めたばかりの頃は特に、皆から口々におめでとうと言われてどう反応したら良いものかと悩んだものだ。

「ボクの写真を? キミが?」
「はい! 成長の証として記録に残すんです」

記録に残す。
きっと彼女にとってそれは、家族が毎年そうしてきたからとか、そういう当たり前の事なのだろう。
悪気のない綺麗な目を見つめ、藍は口を開いた。

「ハルカ。ボクの写真なんて撮っても、毎年同じ顔だよ?」

何しろ、生まれてきてからこの顔のパーツは作り替えていない。
それに、記録に残すという事は常にしているので、改めて彼女にさせずとも、母体であるスパコンには自分を含めたあらゆる人物の記録が蓄積されている。
そういう意味で伝えたはずなのだが、当の春歌はきょとんと首を傾げてしまった。
その反応がわからない。
ロボットであることはもちろん理解しているだろうが、言葉が足りなかったのだろうか。
藍もまた首を傾げて、どう説明しようかと言葉を探す。

「先輩、気づいてないんですか?」
「何に?」
「同じじゃないですよ?」
「え?」

藍の笑顔は雑誌などでよく天使の微笑み、などと称されるが、今目の前でほんわかと笑っている春歌の方がよほど天使だと思う。

「初めて出会った頃より、今はとても柔らかく素敵に笑っていらっしゃいます。それは、間違いなく成長の証ですよ」
「……!」
「それに、今日という日は二度と来ません。ですから、一緒に写真を撮っていただけませんか?」
「……」

胸が温かい、気がする。
それは嬉しいからだと、身体のどこかが告げている。
こくりと頷いた藍に輝くような笑顔を見せて、春歌が携帯電話を取り出しカメラをセットし始めた。セルフタイマーをかけたいらしい。
しばらくはそれを見ていた藍だったが、彼女がまごつく間にひょいとカメラを取り上げた。

「えっ? あ、あの…っ」
「恋人同士はこうやって写真撮るって聞いたよ?」

ぎゅっと抱き寄せた細い肩。甘い香りのする艶やかな髪。それにもたれるように密着し、カメラを持つ手を目一杯天に伸ばす。

「ほら撮るよ、ハルカも笑って?」
「は、はいっ…」

途端に緊張してしまう春歌の肩をくすぐってやると、恥ずかしがりながらもカメラに顔を向けてくれた。
その横に写る藍自身も、同じくらい照れた顔をしていて、内心驚いた。

そうか。彼女といるとこんな顔をしているのか。

じわじわと込み上げるその感情の名前は、もう知っている。
彼女が教えてくれたから。

「ねえ、ハルカ」
「はい?」
「ありがとう。愛してる」
「え、あ…っ」

シャッター音が響き、数秒後に写真がレビューされる。
真っ赤になって驚く顔と、はにかんだ顔。
二つ並んだそれを見て、二人はどちらからともなく笑みを溢した。

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