リュウトミルユメ
再開してからの撮影はそんなに長くはなかった。
外が明るいうちにしたいとのことで先にブーケトスのシーンだけ撮り、それからは指輪の交換と、あともうひとつ。
「それでは、誓いのキスを」
神父役の外国人の言葉に促され、向かい合った龍也にヴェールを上げてもらう。
直に見る龍也は凛々しく、鼓動が高鳴るのが分かった。勿論キスは寸止めなのだが、少しどころではなく緊張する瞬間である。
肩に手が置かれる。大きくて温かい手だと一瞬気を取られた隙に、龍也が近づいてきていた。
強い人なのだなと良く分かる、真っ直ぐな視線。綺麗な目は、見つめていると吸い込まれてしまいそうだった。
不自然にならないようにそっと目を閉じる。
間近に龍也の息遣いが感じられ、あまりの緊張でふらつきそうになる。それが分かったのか、肩に添えられていた龍也の手に力がこもった。
その時──
「!」
離れる寸前、僅かだが唇が触れてしまった気がする。すぐに龍也と目が合ったのだが、彼に動揺らしきものは見られない。演技中なのだから当たり前であるが。それに、触れたとしても事故だろう。
茉莉も気にしないようにして、龍也を見つめて微笑む演技を続ける。
「はい!カットー!」
監督の声が響き、龍也との距離が開く。あちこちでスタッフの声がして騒がしくなった。
茉莉の出番はこれで終了である。残りは、グループメンバーである四人だけでの撮影になる。
無事に終わったことに心底安堵しながら、まだ横にいる龍也を見上げた。
「日向さん、お疲れ様でした。ありがとうございました」
「ああ……」
「私、ぎこちなかったですよね……すみませんでした」
「いや、それより──」
「龍也先輩お疲れさまでーっす!」
タイミング悪く嶺二が入ってきたので、龍也の言葉はうまく聞き取れなかったが、何か言いかけていた気がする。
「本当に結婚式挙げてるみたいでぼくちん感動しちゃった……」
「泣くな。衣装が汚れる」
「キミもお疲れ様」
「あ、はい、お疲れさまでした」
藍に話しかけられ、慌てて返す。下げていた顔を上げると、龍也を含め五人が揃って茉莉を見ていて、半端ではないオーラで溢れていて壮観である。
「茉莉ちゃん、ほんとお疲れ様!綺麗だったよー!」
「いきなり言われたにしては様になっていたな」
「……ま、良かったんじゃねえの」
「良い映像になってると思うよ」
「貴重な経験でした。ありがとうございました」
それぞれから言葉まで貰い、これは世辞でも嬉しくなってしまう。本当に良い記念になった。
「茉莉ちゃーん、着替えこっちで~す」
「はい! では、お先に失礼します」
スタッフに呼ばれ、歩きやすいようドレスを纏め始める。
「茉莉ちゃん、またお仕事しようねー!」
「……っ」
今日で最後です、などと言える場ではない。少し迷って、悪いとともいつつも茉莉はそれには答えず、無理やり笑顔を張り付けた。
「……皆さん、撮影まだ続きますよね。曲も、MVの完成も楽しみにしてますから、頑張ってくださいね」
迎えに来てくれたスタッフにドレスの後ろ裾を持って貰い、退出する。
監督には柚木が挨拶しているのが見えたので、おそらく着替えたらそのまま帰っていい流れなのだろう。
別室に着いてドレスを脱ぐと、先程までと比べ物にならないくらいの安堵と疲労に襲われて、柚木が迎えに来てくれるまで、茉莉はぐったりしていたのだった。
外が明るいうちにしたいとのことで先にブーケトスのシーンだけ撮り、それからは指輪の交換と、あともうひとつ。
「それでは、誓いのキスを」
神父役の外国人の言葉に促され、向かい合った龍也にヴェールを上げてもらう。
直に見る龍也は凛々しく、鼓動が高鳴るのが分かった。勿論キスは寸止めなのだが、少しどころではなく緊張する瞬間である。
肩に手が置かれる。大きくて温かい手だと一瞬気を取られた隙に、龍也が近づいてきていた。
強い人なのだなと良く分かる、真っ直ぐな視線。綺麗な目は、見つめていると吸い込まれてしまいそうだった。
不自然にならないようにそっと目を閉じる。
間近に龍也の息遣いが感じられ、あまりの緊張でふらつきそうになる。それが分かったのか、肩に添えられていた龍也の手に力がこもった。
その時──
「!」
離れる寸前、僅かだが唇が触れてしまった気がする。すぐに龍也と目が合ったのだが、彼に動揺らしきものは見られない。演技中なのだから当たり前であるが。それに、触れたとしても事故だろう。
茉莉も気にしないようにして、龍也を見つめて微笑む演技を続ける。
「はい!カットー!」
監督の声が響き、龍也との距離が開く。あちこちでスタッフの声がして騒がしくなった。
茉莉の出番はこれで終了である。残りは、グループメンバーである四人だけでの撮影になる。
無事に終わったことに心底安堵しながら、まだ横にいる龍也を見上げた。
「日向さん、お疲れ様でした。ありがとうございました」
「ああ……」
「私、ぎこちなかったですよね……すみませんでした」
「いや、それより──」
「龍也先輩お疲れさまでーっす!」
タイミング悪く嶺二が入ってきたので、龍也の言葉はうまく聞き取れなかったが、何か言いかけていた気がする。
「本当に結婚式挙げてるみたいでぼくちん感動しちゃった……」
「泣くな。衣装が汚れる」
「キミもお疲れ様」
「あ、はい、お疲れさまでした」
藍に話しかけられ、慌てて返す。下げていた顔を上げると、龍也を含め五人が揃って茉莉を見ていて、半端ではないオーラで溢れていて壮観である。
「茉莉ちゃん、ほんとお疲れ様!綺麗だったよー!」
「いきなり言われたにしては様になっていたな」
「……ま、良かったんじゃねえの」
「良い映像になってると思うよ」
「貴重な経験でした。ありがとうございました」
それぞれから言葉まで貰い、これは世辞でも嬉しくなってしまう。本当に良い記念になった。
「茉莉ちゃーん、着替えこっちで~す」
「はい! では、お先に失礼します」
スタッフに呼ばれ、歩きやすいようドレスを纏め始める。
「茉莉ちゃん、またお仕事しようねー!」
「……っ」
今日で最後です、などと言える場ではない。少し迷って、悪いとともいつつも茉莉はそれには答えず、無理やり笑顔を張り付けた。
「……皆さん、撮影まだ続きますよね。曲も、MVの完成も楽しみにしてますから、頑張ってくださいね」
迎えに来てくれたスタッフにドレスの後ろ裾を持って貰い、退出する。
監督には柚木が挨拶しているのが見えたので、おそらく着替えたらそのまま帰っていい流れなのだろう。
別室に着いてドレスを脱ぐと、先程までと比べ物にならないくらいの安堵と疲労に襲われて、柚木が迎えに来てくれるまで、茉莉はぐったりしていたのだった。