リュウトミルユメ
当日になり、柚木と共に現場へ向かう。撮影は教会を貸し切って行うようで、出演者やスタッフで既にごった返していた。
邪魔にならないよう隅で大人しくする茉莉たちの元へ、早速近付いてくる人物がいた。
「よう、柚木。今日もいい悪人顔だな」
「あ、日向!お前だってよく見りゃ相当なんだからな」
日向龍也。言わずと知れた有名アイドルであり、今日のMVの主演者だ。
柚木と彼が知り合いだと聞いた時は耳を疑ったのだが、本当に仲が良いらしい。ふざけあう二人はどちらも悪人顔である。
「で、そちらさんがお前の言ってたおすすめか」
「高田茉莉です。今日は、よろしくお願いします」
強面マネージャーによって耐性ができているお陰か、あまり緊張せずに挨拶ができた。噛まずに言えたことにほっとしながら顔を上げると、龍也はなぜかじっと茉莉のことを見ていた。
「あの……?」
「……おう、よろしくな。つーか、大丈夫だったか? 勝手に話進めた柚木に無理やり連れてこられたんじゃねえのか?」
「日向~!」
「ふふ。演技の経験がないので足を引っ張らないよう頑張りますね」
茉莉がそう答えた時、現場が一際ざわついた。
思わず目を向けると、監督らしき中年男性と共に四人の男性が入ってきていた。
「QUARTET NIGHT……」
今回のMVは彼らの曲のものだ。龍也が新郎役で、彼ら四人は参列者席で歌いながらそれを祝福する、というシーンになるらしい。
龍也を見つけて、そのうちの一人がこちらへ向かってくる。寿 嶺二である。くるりと巻いた髪が揺らぎ、浮かべた笑顔がキラキラして見える。これが本物のアイドルなのだなとしみじみ思ってしまった。
「わぁー、龍也先輩、新郎姿決まってるぅ♪」
「そういうお前はやっとスーツが似合うようになってきたじゃねえか」
「ちょっとちょっとぉ~昔から着こなしてたでしょ? って、あれ、キミは?」
「あ、えっと……」
あまりに突然視線が向けられ、かつ顔を寄せられたので、つい引いてしまう。
すると、龍也が嶺二を引き戻してくれた。
「彼女も出演者だ。いきなり近づくんじゃねえ」
「そんなに近かった? ごめんねっ☆ あんまり可愛かったからさ」
「……っ」
至近距離で今度はウインクをされ、茉莉は反応に困るのと恥ずかしいのとで手で顔を隠す。
強面は大丈夫なのに、いわゆるイケメンには耐性がないのである。
「龍也先輩、どうしようこの子超可愛いね」
「こら、止めろ嶺二」
複雑な表情で龍也が止めに入り、また嶺二が茉莉から引き離された。
そこへ、嶺二を迎えに来たのか他のメンバーも合流してきた。
黒崎蘭丸、美風 藍、カミュ。
有名グループなので勿論名前は知っているが、実際目にするのは初めてである。大きすぎるオーラを感じて、つい柚木に隠れるようにしてしまう。
そんな茉莉に苦笑しつつも、柚木は咎めるのではなく、ただそっと背を押してくれた。怖じ気づく必要はないんだと、勇気付けられたような気がする。
気を取り直した彼女の前で、龍也に首根っこを掴まれている嶺二へと、三人がそれぞれ話しかけている。
「さっきから何やってんだ嶺二」
「日向の手を煩わせるな愚民が」
「その様子だと、伝えておいてって言ったことも忘れてたんでしょ」
「いや、これから言おうと……」
「何かあったのか?」
なんでも、新婦役にトラブルがあったとかで撮影開始時間が少し遅れるらしい。盗み聞き状態になってしまうが今更移動するのも失礼な気がして、茉莉は大人しくしていた。
すると、藍の意識がすっと茉莉に向いたのが分かって緊張が走る。イケメンとかいうレベルではない。彼は美しいという表現が似合う少年だ。彼の視線は茉莉の全身に注がれているのだが、それが好奇の目ではなくひたすら淡々としたものだから、どうしたらよいかわからず大いに戸惑う。
「……美風、一応聞くが女性に対して何をしている」
「ちょっと待って、問題が解決するかもしれない」
藍のその回答を聞いて、止めようとしてくれたらしいカミュまでも、彼女の事をじろじろと見始めた。
「ふむ……なるほど。確かにな」
「え? あの……なにがです?」
「監督に提案するから、キミも来て」
「??」
「キミなら絶対あのドレス入るから」
よく分からないが、嫌な予感しかしない。
首を横に振ってみるも、藍の力は見かけより相当強く、どんどん引きずられていく。
「え、ええ!? ゆ、柚木さんー!」
「がんばれ! 茉莉!」
違う。今欲しいのは応援の言葉ではない。純粋な、物理的な助けだ。
涙ながらの訴えは、残念ながら届かなかった。
邪魔にならないよう隅で大人しくする茉莉たちの元へ、早速近付いてくる人物がいた。
「よう、柚木。今日もいい悪人顔だな」
「あ、日向!お前だってよく見りゃ相当なんだからな」
日向龍也。言わずと知れた有名アイドルであり、今日のMVの主演者だ。
柚木と彼が知り合いだと聞いた時は耳を疑ったのだが、本当に仲が良いらしい。ふざけあう二人はどちらも悪人顔である。
「で、そちらさんがお前の言ってたおすすめか」
「高田茉莉です。今日は、よろしくお願いします」
強面マネージャーによって耐性ができているお陰か、あまり緊張せずに挨拶ができた。噛まずに言えたことにほっとしながら顔を上げると、龍也はなぜかじっと茉莉のことを見ていた。
「あの……?」
「……おう、よろしくな。つーか、大丈夫だったか? 勝手に話進めた柚木に無理やり連れてこられたんじゃねえのか?」
「日向~!」
「ふふ。演技の経験がないので足を引っ張らないよう頑張りますね」
茉莉がそう答えた時、現場が一際ざわついた。
思わず目を向けると、監督らしき中年男性と共に四人の男性が入ってきていた。
「QUARTET NIGHT……」
今回のMVは彼らの曲のものだ。龍也が新郎役で、彼ら四人は参列者席で歌いながらそれを祝福する、というシーンになるらしい。
龍也を見つけて、そのうちの一人がこちらへ向かってくる。寿 嶺二である。くるりと巻いた髪が揺らぎ、浮かべた笑顔がキラキラして見える。これが本物のアイドルなのだなとしみじみ思ってしまった。
「わぁー、龍也先輩、新郎姿決まってるぅ♪」
「そういうお前はやっとスーツが似合うようになってきたじゃねえか」
「ちょっとちょっとぉ~昔から着こなしてたでしょ? って、あれ、キミは?」
「あ、えっと……」
あまりに突然視線が向けられ、かつ顔を寄せられたので、つい引いてしまう。
すると、龍也が嶺二を引き戻してくれた。
「彼女も出演者だ。いきなり近づくんじゃねえ」
「そんなに近かった? ごめんねっ☆ あんまり可愛かったからさ」
「……っ」
至近距離で今度はウインクをされ、茉莉は反応に困るのと恥ずかしいのとで手で顔を隠す。
強面は大丈夫なのに、いわゆるイケメンには耐性がないのである。
「龍也先輩、どうしようこの子超可愛いね」
「こら、止めろ嶺二」
複雑な表情で龍也が止めに入り、また嶺二が茉莉から引き離された。
そこへ、嶺二を迎えに来たのか他のメンバーも合流してきた。
黒崎蘭丸、美風 藍、カミュ。
有名グループなので勿論名前は知っているが、実際目にするのは初めてである。大きすぎるオーラを感じて、つい柚木に隠れるようにしてしまう。
そんな茉莉に苦笑しつつも、柚木は咎めるのではなく、ただそっと背を押してくれた。怖じ気づく必要はないんだと、勇気付けられたような気がする。
気を取り直した彼女の前で、龍也に首根っこを掴まれている嶺二へと、三人がそれぞれ話しかけている。
「さっきから何やってんだ嶺二」
「日向の手を煩わせるな愚民が」
「その様子だと、伝えておいてって言ったことも忘れてたんでしょ」
「いや、これから言おうと……」
「何かあったのか?」
なんでも、新婦役にトラブルがあったとかで撮影開始時間が少し遅れるらしい。盗み聞き状態になってしまうが今更移動するのも失礼な気がして、茉莉は大人しくしていた。
すると、藍の意識がすっと茉莉に向いたのが分かって緊張が走る。イケメンとかいうレベルではない。彼は美しいという表現が似合う少年だ。彼の視線は茉莉の全身に注がれているのだが、それが好奇の目ではなくひたすら淡々としたものだから、どうしたらよいかわからず大いに戸惑う。
「……美風、一応聞くが女性に対して何をしている」
「ちょっと待って、問題が解決するかもしれない」
藍のその回答を聞いて、止めようとしてくれたらしいカミュまでも、彼女の事をじろじろと見始めた。
「ふむ……なるほど。確かにな」
「え? あの……なにがです?」
「監督に提案するから、キミも来て」
「??」
「キミなら絶対あのドレス入るから」
よく分からないが、嫌な予感しかしない。
首を横に振ってみるも、藍の力は見かけより相当強く、どんどん引きずられていく。
「え、ええ!? ゆ、柚木さんー!」
「がんばれ! 茉莉!」
違う。今欲しいのは応援の言葉ではない。純粋な、物理的な助けだ。
涙ながらの訴えは、残念ながら届かなかった。