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蘭春

春歌が深刻な表情でメイクを教えてほしい、と言い出したのはつい30分程前だ。
しかも「ロックにお願いします」と要望がきた。

明らかに不慣れなのであんまり複雑なもんを教えても無駄だろうと、できるだけ分かりやすく簡単にメイクを施していく。

「ん…こんなもんか?」
「あ、ありがとうございます」

可愛いと言われる顔立ちのこいつだが、黒いアイラインを太く入れただけでも印象が変わる。
まだまだ年下のガキだと思っていたが、こいつもやっぱり女だ。

口紅は自分でやりますから、と唇に紅を乗せていく春歌。

ふだんがナチュラル過ぎるくらいのナチュラルメイクなだけに、完成すると別人のようだ。
鏡に写る自分の顔をしげしげと見詰めてから、春歌がおれを振り返った。

「あの、どうでしょうか?」
「どうって言われてもな…突然何なんだよ」
「あ、すみません、えっと、これです!」

大きな鞄をごそごそ漁って、取り出したのは黒い布。
それを肩に当て、にっこり笑う。

「……んだ、それは」
「悪魔ドレスです!」
「は?」
「トモちゃんとお揃いの、ハロウィンパーティーの仮装用です」
「ああ…」

そういえば、親父がまた思い付いたとかでパーティーを企画していた気がする。
おれは美味いもんが食えれば良いという程度にしか興味がなかったが。

つーか、この衣装相当際どいんだが大丈夫か?

「今日は部屋に置いて来てしまいましたが、羽もあるんです!とっても可愛いんですよ~」

露出の多さに気づいているのかいないのか、とにかくこいつはコスプレに興味津々らしく、いつもよりテンションが高い。

悪魔、な……

見るからにポヤッとしているこいつが悪魔になっても迫力の欠片もない。どちらかといえば天使と言った方が合うだろう。それも頼りない感じの。
メイクしてようが、性格は変わらないからな。

「蘭丸さんは何の仮装されるんですか?」
「あー…真斗が用意するとか言ってたが、知らねぇ」
「わぁ…ではきっと手作りですね! 楽しみです!」

と、春歌は続いて真斗の裁縫の腕前について語りだしたが、おれの耳は素通りだ。
どうしても、こいつが着る悪魔ドレスとやらに目がいっちまう。

今は肩に当ててるだけだが、まずぱっと見でわかるくらい胸元が開きすぎている。

……こいつ、デカイからな……

それを編み込みで締め上げ、腰の辺りも開いているから臍は丸出しになるだろう。
スカートのフリルはかなり多いが、何分生地が薄い。そこからこいつの白い脚が透けて見えたらと考えるだけで喉が鳴る。

色気に関しては分からないが、こんな衣装を着て恥ずかしそうな顔をされたらそれはそれでたまったもんじゃない。

これは…パーティーどころじゃなくなる男が続出するな。

あと渋谷、これをこいつに着せようとしているお前は間違いなく悪魔だ。

「春歌。一つ提案がある」
「はい、なんでしょう?」
「お前も真斗に衣装頼め。あー、そうだな、赤ずきんとかでいいんじゃねぇか?」
「え? え?」
「決まりだ。メイク落として頼みにいくぞ」

有無を言わさず衣装を取り上げ、おれは春歌を洗面台に連れて行った。





☆HAPPY HALLOWEEN☆

蘭丸は狼男の予定で、聖川さんがものすごいもふもふのを作っています。
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