蘭春
はぁ!?
と、内心思ったものの声を荒らげなかったのは、一応相手が仲良くしている現場監督だったのと、心底困った顔をしていたからだ。
「急にキャンセルされちゃってさ~…今、急いで代わりのモデルさん探してるんだけど…」
今からやるのは雑誌に載せる広告の写真撮り、だ。
デザインもさせてもらってるシルバーのもので、夏用に、ちょっと面倒だが水着で女性モデルと軽く絡むショットがある、とは聞いていた。
そのモデルが急に今回の撮影を辞退したらしい。
……やる気ねぇモデルだな。いや、他人の事情に口を出すような事はしたくないが。大方おれの悪評にビビったとか、まぁ、そんなところだろう。
「代わりって、んなすぐに見つかるもんすか」
「いや~……」
無理だろうな。
しかもおれは午後には別の仕事が入ってる。
延期するか、一人で撮影するしかない。
「クライアントの強い要望でね~、女性モデルさんと水着が必須で」
「はぁ…」
と、おれがあいまいに頷いたときだった。
後ろで機材を運んでいたスタッフが「あっ」と声を上げ、監督に近づいてくる。
「あのー、前にも一度撮影が中断しそうになって、ほら、急遽出てもらったじゃないですか、黒崎さんの後輩で! さっき廊下ですれ違いましたよ!」
「ああー! あの子か!」
「は?」
中断しそうになった?
そんなことあったか?
それに後輩ってまさか渋谷か?
いや、あいつは今海外で映画撮ってるって春歌が……
…………春歌か!?
「いや、待ってください、あいつは作曲家で…第一あれはピアニストが…っ」
「あーいたいた! 君、七海さんだったよね!」
「あ、はい。おはようございます…えっと」
おれが止めようとした時には既にスタッフが春歌をスタジオに連れてきていた。
くそっ。
遅かったか…!!
おれが頭を抱える横で、事情を説明されている春歌がどんどん真っ青になっていった。
言われるがまま、水着に着替えてきた春歌がスタジオに現れると、明らかにスタッフ全員のテンションが上がった。
カメラマンがいそいそと準備を始めていてやる気満々だ。
……おれも一応努力はした。
春歌の着替えを待つ間、日向さんに連絡して誰か寄越せる人員がいないか掛け合ってみた。
が、隣に居合わせていた月宮さんぐらいしかいなかったのだ。
あの人に水着は無理だ。つーかおれが絡みたくねぇ。結局男同士だろうが!
というわけで春歌の出演を阻止できず、代わりといっちゃなんだが、親父に日向さんから話をつけてくれることにはなった。
が、裏方の春歌をまた表舞台に出すとなれば、次はどんなペナルティが科せられるかわかったもんじゃない。
「あの…黒崎先輩…」
上着で身体を隠しつつ恥ずかしそうに春歌が歩いてくる。
男としてはその様子が余計に煽られているように感じるんだが、こいつは相変わらず無自覚だ。
勿論、顔は写らないように角度を調整する。だが身体はバッチリ晒されてしまう。今隠していても雑誌に載れば数えきれない程の人に見られることになる。
そんな事になったらこいつ、耐えられるのか?
完成した広告は見せないほうがいいだろうな。
「先輩?」
春歌が困った顔で小首を傾げる。途端、商品のネックレスが胸元で揺れて、思わず目がいく。
おれ自身は、水着どころじゃない姿を何度も見たことがある。が、改めて明るいところで水着っつーのも結構…
じゃねぇよバカかおれ!
今は変な気を起こしている場合じゃない。おれは急いで頭の中に嶺二とカミュの腹立つ顔を思い浮かべた。ついでに藍が絶対零度の軽蔑の眼差しでおれを見てる顔も浮かんだ。
よし、冷めた。
「あー、その、悪いな、巻き込んで」
「いえ…というより、私で本当に良いのでしょうか…」
良すぎるくらいだっつの。
むしろおれのモチベーションは、面倒なモデル相手より断然上がる。
「じゃ、お願いしまーす」
監督の一声で、スタッフたちが動き出す。
カメラテストの為で、まずポーズを確認する。
顔を隠す為もあり密着度はかなり高い。
常に息が触れ合う距離で、春歌の身体がガチガチに固まっているのが伝わってきた。
つーか、ここまで固いとこちらも動き辛くてしょうがない。
「大丈夫かよ?」
「は、す、すみません…っ」
囁き合いながら少しずつポーズを替える。
カメラのシャッター音がリズミカルに響いて心地好い。
カメラマンに指示されるまま首筋に鼻先を近づけると、春歌の甘い香りが強くなった。
「おれだけ見てろ。いつも通りと思っとけ」
「で、ですがっ」
「撮影乗りきったら…今度海でもいくか」
「え、本当ですか?……ひゃあ!?」
春歌が大声を出したところでストップがかかる。
おれが離れると、春歌が真っ赤になって首をおさえてうずくまった。こちらを見る目は既に涙で潤んでいる。
「せせせ先輩っ!! 何するんですか!!」
「んだよ、あんまり緊張してっからちょっと舐めただけだろ」
「舐めっ…!?」
おれが堂々と言ったせいか、スタッフがどよめく。
そのざわめきの中、春歌は全身真っ赤に染まっていた。
「…いつも通りって言ったろ?」
手を取って立たせ、春歌にしか聞こえないよう囁いてやった。
言葉の意味を理解した春歌がわなわな震え出す。
おれは堪えきれず盛大に吹き出した。
「~~!!」
「くっ…ははははは!」
後で聞いた話だが、今までのどの写真よりおれが生き生きしているとかで、ファンの間でプレミアがつく程貴重な広告になったらしい。
20130811
=====
イメージとしては色気たっぷりの蘭丸が女の子のつけてるピアスかネックレスにキスしてる…というカットを撮ってる感じ。
ちなみに他の先輩とプリンスの間では春歌ちゃんの水着姿のほうが垂涎ものじゃないかと話題になったのです。
と、リハビリがてら…また書き直すかも?
と、内心思ったものの声を荒らげなかったのは、一応相手が仲良くしている現場監督だったのと、心底困った顔をしていたからだ。
「急にキャンセルされちゃってさ~…今、急いで代わりのモデルさん探してるんだけど…」
今からやるのは雑誌に載せる広告の写真撮り、だ。
デザインもさせてもらってるシルバーのもので、夏用に、ちょっと面倒だが水着で女性モデルと軽く絡むショットがある、とは聞いていた。
そのモデルが急に今回の撮影を辞退したらしい。
……やる気ねぇモデルだな。いや、他人の事情に口を出すような事はしたくないが。大方おれの悪評にビビったとか、まぁ、そんなところだろう。
「代わりって、んなすぐに見つかるもんすか」
「いや~……」
無理だろうな。
しかもおれは午後には別の仕事が入ってる。
延期するか、一人で撮影するしかない。
「クライアントの強い要望でね~、女性モデルさんと水着が必須で」
「はぁ…」
と、おれがあいまいに頷いたときだった。
後ろで機材を運んでいたスタッフが「あっ」と声を上げ、監督に近づいてくる。
「あのー、前にも一度撮影が中断しそうになって、ほら、急遽出てもらったじゃないですか、黒崎さんの後輩で! さっき廊下ですれ違いましたよ!」
「ああー! あの子か!」
「は?」
中断しそうになった?
そんなことあったか?
それに後輩ってまさか渋谷か?
いや、あいつは今海外で映画撮ってるって春歌が……
…………春歌か!?
「いや、待ってください、あいつは作曲家で…第一あれはピアニストが…っ」
「あーいたいた! 君、七海さんだったよね!」
「あ、はい。おはようございます…えっと」
おれが止めようとした時には既にスタッフが春歌をスタジオに連れてきていた。
くそっ。
遅かったか…!!
おれが頭を抱える横で、事情を説明されている春歌がどんどん真っ青になっていった。
言われるがまま、水着に着替えてきた春歌がスタジオに現れると、明らかにスタッフ全員のテンションが上がった。
カメラマンがいそいそと準備を始めていてやる気満々だ。
……おれも一応努力はした。
春歌の着替えを待つ間、日向さんに連絡して誰か寄越せる人員がいないか掛け合ってみた。
が、隣に居合わせていた月宮さんぐらいしかいなかったのだ。
あの人に水着は無理だ。つーかおれが絡みたくねぇ。結局男同士だろうが!
というわけで春歌の出演を阻止できず、代わりといっちゃなんだが、親父に日向さんから話をつけてくれることにはなった。
が、裏方の春歌をまた表舞台に出すとなれば、次はどんなペナルティが科せられるかわかったもんじゃない。
「あの…黒崎先輩…」
上着で身体を隠しつつ恥ずかしそうに春歌が歩いてくる。
男としてはその様子が余計に煽られているように感じるんだが、こいつは相変わらず無自覚だ。
勿論、顔は写らないように角度を調整する。だが身体はバッチリ晒されてしまう。今隠していても雑誌に載れば数えきれない程の人に見られることになる。
そんな事になったらこいつ、耐えられるのか?
完成した広告は見せないほうがいいだろうな。
「先輩?」
春歌が困った顔で小首を傾げる。途端、商品のネックレスが胸元で揺れて、思わず目がいく。
おれ自身は、水着どころじゃない姿を何度も見たことがある。が、改めて明るいところで水着っつーのも結構…
じゃねぇよバカかおれ!
今は変な気を起こしている場合じゃない。おれは急いで頭の中に嶺二とカミュの腹立つ顔を思い浮かべた。ついでに藍が絶対零度の軽蔑の眼差しでおれを見てる顔も浮かんだ。
よし、冷めた。
「あー、その、悪いな、巻き込んで」
「いえ…というより、私で本当に良いのでしょうか…」
良すぎるくらいだっつの。
むしろおれのモチベーションは、面倒なモデル相手より断然上がる。
「じゃ、お願いしまーす」
監督の一声で、スタッフたちが動き出す。
カメラテストの為で、まずポーズを確認する。
顔を隠す為もあり密着度はかなり高い。
常に息が触れ合う距離で、春歌の身体がガチガチに固まっているのが伝わってきた。
つーか、ここまで固いとこちらも動き辛くてしょうがない。
「大丈夫かよ?」
「は、す、すみません…っ」
囁き合いながら少しずつポーズを替える。
カメラのシャッター音がリズミカルに響いて心地好い。
カメラマンに指示されるまま首筋に鼻先を近づけると、春歌の甘い香りが強くなった。
「おれだけ見てろ。いつも通りと思っとけ」
「で、ですがっ」
「撮影乗りきったら…今度海でもいくか」
「え、本当ですか?……ひゃあ!?」
春歌が大声を出したところでストップがかかる。
おれが離れると、春歌が真っ赤になって首をおさえてうずくまった。こちらを見る目は既に涙で潤んでいる。
「せせせ先輩っ!! 何するんですか!!」
「んだよ、あんまり緊張してっからちょっと舐めただけだろ」
「舐めっ…!?」
おれが堂々と言ったせいか、スタッフがどよめく。
そのざわめきの中、春歌は全身真っ赤に染まっていた。
「…いつも通りって言ったろ?」
手を取って立たせ、春歌にしか聞こえないよう囁いてやった。
言葉の意味を理解した春歌がわなわな震え出す。
おれは堪えきれず盛大に吹き出した。
「~~!!」
「くっ…ははははは!」
後で聞いた話だが、今までのどの写真よりおれが生き生きしているとかで、ファンの間でプレミアがつく程貴重な広告になったらしい。
20130811
=====
イメージとしては色気たっぷりの蘭丸が女の子のつけてるピアスかネックレスにキスしてる…というカットを撮ってる感じ。
ちなみに他の先輩とプリンスの間では春歌ちゃんの水着姿のほうが垂涎ものじゃないかと話題になったのです。
と、リハビリがてら…また書き直すかも?