蘭春

『あっ!見て、母さん!』

あちこち煤だらけの子どもが、同じく煤だらけの女性に叫ぶ。
その視線の先にいた男性と合流すると、三人はきつく抱き合った。

『みんな無事だったんだな、良かった…!!』
『うん、あのね、あのお兄ちゃんが助けてくれて──あれ?』

少年が指差した先には、誰もいなかった。先程まで、銀髪の青年がそこにいた筈だった。

『そんな…何も言わずに行ってしまうなんて…』

母親も、戸惑いや寂しさを漂わせて呟く。
バイクの音がかすかに聞こえ、三人は慌てて窓から外を見回す。

遥か下方、ところどころ舗装がガタガタになった道路を、バイクが疾走している。それには銀髪を靡かせた男が乗っており、親子が見ている中、あっという間に遠ざかっていった。

『そうか……彼が…あの──』

父親が呟き、泣き笑いを浮かべる。そして、子どもと妻の肩を抱き寄せた。

『帰ろう…彼が守ってくれた、私達の帰るべき場所へ』

親子は寄り添いあって、確かな足取りで歩き始めた──




パチパチパチパチ!!!

涙ぐみながら立ち上がって、春歌が拍手する。隣で一緒にソファに座っていたおれは呆れてそれを見上げていた。

「お前…何回見るんだよこのドラマ」
「何回見ても感動します…っ!」

最近春歌はこのドラマがお気に入りのようで、休日の度に再生している。
単発だが、主演したドラマの中では自分でもなかなかの手ごたえを感じている。
撮影前に大型バイクの免許を取りに行く時間を貰えたのが本当にラッキーだった。前からずっと取りたいと思ってたからな。
まあ、今の所バイクを購入するあてがないが。

「ふふ…このエンドロールで映ってる蘭丸さんもとても格好いいです」

エンドロールではドラマ中や休憩中のおれや出演者が映っている。スタント無しのアクションが多数あったから、その動きを確認している様子が流れていた。

「撮影中、おれが痣作る度にお前、大騒ぎしてたよな」
「そっ…それは…だって心配で…」

春歌が頬を赤らめながらクッションに顔を沈める。
手当てするとか言って勢いこんでおれの服を脱がせようとしたのを思い出したんだろう。

大胆だな、と指摘した途端飛んで逃げていったが、黙ってされるがままにしとけば良かったと今は少し後悔してる。

ドラマの劇伴は当然、春歌が担当した。エンドロールに流れているのもそうだ。
DVDやサントラの売れ行きも良く、続編を望む声も多いらしい。

「ま、こうやって何度も見て貰えるのは、ありがたいと思っているが」

クッションを取り上げてやると、春歌がきょとんとした顔でこちらを見上げてきた。

「たまの休日くらい、お前を独り占めさせろ」






20151109
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冒頭のドラマ部分は本当に夢で見ちゃいました。
蘭丸さんの鍛え抜いた白いお肌に痣とか…想像したらすごい興奮したごめんなさい。
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