トキ春

やれやれ、ただでさえ時間が惜しいというのに、なぜこんなことになったのか…。

私の横では、四ノ宮さんが楽しそうにカレーの鍋へ謎の液体を注ごうとしています。

栄養ドリンク?

四ノ宮さん!
それは入れなくて結構です。カレーは完成していますから焦げないよう混ぜる程度で十分です。
良いですか、そもそもカレーと言うのは何十種類ものスパイスが調合され、絶妙なバランスを保っているのです。
そこにいきなり栄養ドリンクをいれたりしたらそのバランスが……

ええ、分かって下されば良いのです。怒っている訳ではありません。ただ、食堂の平和を守るのに少し必死になってしまっただけです、気にしないでください。
宜しければ、こちらの野菜炒めを手伝ってください。調味料は全て計量してありますから順番に…

ん?
春歌…いつからそこに?
先ほどから?

そう、ですか。
何をしているかって、見ての通りです。四ノ宮さんが食堂の手伝いをしていたので阻…いえ、せめて最低限のフォローをと…いつもは聖川さんが助太刀に来てくれるのですが、今日は忙しそうでしたので。

手伝う?
君が…ですか?
しかし君は…ああ、そうでしたね、料理は得意だと、以前言っていましたね。
ドジだと言われると思ったのでしょう?
まったく、そんなに頬を膨らませて……可愛いですね。
では、ぜひ手伝っていただきましょうか。手を洗ったら、あちらの余っている割烹着を着てきてください。


無事に着れましたか?

!!!!
あ、いえ…なんでもありません…四ノ宮さん、春歌の割烹着姿が可愛いからと言って醤油を持ったまま彼女に抱き着こうとするのは止めてください! 醤油を置いても駄目です!

しかし、皆同じ格好をしている筈なのに春歌だけこんなに可愛らしく似合ってしまうのは何故でしょうね……ああ、すみません独り言です。

君はあちらの味噌汁の仕上げをお願いします。


なんですか四ノ宮さん………春歌の味噌汁が飲めるなんて夫婦みたい?

……激しく曲解したプロポーズみたいな発言は止めてください。

しかしまぁ、真剣に味見しているあの後ろ姿は確かに良…


コホン。


いけません、そろそろ食堂が開く時間です。野菜炒めも仕上がりましたし、そろそろ配膳台に料理を運びましょう。

春歌、君も……味見?
まだやっているのですか…君が美味しいと思えば大丈夫ですよ。そんな目で見ても駄目です。


……ハァ、わかりました。どうしてもというなら、味見して差し上げましょう。
ですがこの通り、私は皿を抱えていて両手が塞がっていますから…どうすればいいか、分かりますよね?


…ん……良くできました。ほう…君らしい優しい味付けになっていますよ。
ええ、とても美味しいです。

ああ、そうでした。
私の分の味噌汁だけは、君が用意をしてくださいね。私以外はセルフサービスが妥当でしょう。
むしろ春歌の味噌汁を飲ませてやっているだけで大変な譲歩であると思って頂きたいところです。


音也と翔が騒いでいますので、そろそろ行きましょうか。

味噌汁の件、忘れないでくださいね、春歌?
これから先もずっと…ですよ?





20130407
2/7ページ
スキ