他プリ春+わちゃわちゃ短編詰め合わせ

「あ~もう最悪!」

ドスドスと淑女にあるまじき足音を立て、友千香は何度目になるかわからない悪態をつく。
今日は早めに仕事を終える予定だった。いくつかの雑誌のインタビューと、シャイニング事務所とコラボしている化粧品の担当者と次回の打ち合わせをして、それで終わる予定だったのだ。

だというのに、まず最初のインタビュアーが遅刻してきて、しかも録音機器を忘れた等と言い出し開始が遅れ、写真も何度も撮り直しさせられた。その後の仕事はなんとかこなしたが、押しに押してしまった為に休憩も出来ないまま打ち合わせに向かえば、いつもの担当者がおらず代理が来て、あまりに話が盛り上がらず結局ろくな話し合いにならなかった。
誕生日、なのに。

「最悪…」

赤信号に引っ掛かり、勢い良く動かしていた足が止まる。
一緒にケーキを食べようと約束していた春歌からは、可愛いスタンプと共に仕事へのねぎらいと、先にレストランで待っているとメッセージが入っていた。
大親友が可愛い。
少しでも気分を盛り上げて向かわねば、彼女はきっと、こんな自分を見たら困ってしまうだろう。
はぁ、と深いため息をついて、友千香は道を変えることにした。真っ直ぐ向かった方が近いのだが、そちらは人が多くて気持ちが沈む。待たせてしまうのは申し訳ないが、気持ちを落ち着けるために少し遠回りしたかった。

「渋谷、おーい、渋谷!」

ひそひそ声に近い、だがしかし確実に耳に届くその音量。声の主の顔が浮かんで思わず足を止めたその隙に、真横で車が停車した。怪しいワゴン車だ。
身構えた友千香だったが、ガラス越しに目が合って驚いた。

「えっ…」

同期のアイドルが2名。助手席と運転席にいてこちらを見ているではないか。
何でここに、と問いかけるより先に、後部座席が開いて更にもう一人が顔を出した。

「見つかってよかった~! 友千香、乗って!」
「ちょ、ちょっと音也?」
「はいシートベルト!」

引きずりこまれ、強制的に座席に座らされ、シートベルトまでしっかり着けさせられる。やったのが音也だからまだ許すが、これは誘拐である。

「じゃ、出発するよ」

レンが運転席からそう声をかけ、車が滑らかに走り出した。

「え、ちょっと、あたし行くところが……」
「まぁその辺は任せとけって」

何をどう任せれば良いのだ、と助手席の翔に反論するも、「着いてからなー」としか教えてくれない。
とにかく待たせている春歌に一報入れなければと携帯電話を取り出せば、彼女から『いってらっしゃい』のスタンプが押されていた。了承済みらしい。
彼女からも秘密にされているのはなんだか悲しい。

「もうすぐっぽいな……あ、そこ右」
「了解」

翔のナビゲートで、暗くなってきた道を車が進んでいく。なんだか山奥に入っていっている気がする。
山道を上ること数十分、音也に仕事の愚痴を溢している間に、車が減速するのが分かった。
進む先に、長身のすらりとしたシルエットが見えてくる。

「待っていたぞ、渋谷」
「こっちですよぉ~」

声をかけてくる二人を一旦通り過ぎ、車が停まる。
ここは一体どこなのだろうと思う友千香の横でドアが開き、さっと目の前に手が差し出された。

「お手をドウゾ、プリンセス」
「セシルさん?」
「よろしければこちらも」
「一ノ瀬さんも? あははっ」

両側からエスコートされ、友千香は思わず笑い声を上げる。

「友千香いいなー、ねえ俺は?」
「あなたは勝手に着いてきなさい」
「えートキヤひど~い!」
「じゃ、イッキはオレがエスコートしてあげるね?」
「お前ら良くやるな……」

いつも通りのメンバーのやり取りを楽しく聞きながら、先ほど那月と真斗がいた場所まで向かう。
すると彼らの背後にある、煌めく世界が目に飛び込んできた。

「すっご……」
「すげーよな、夜景スポットなんだってさ、ここ」

翔の説明に素直に頷き、眼下に広がる夜景を眺める。煌めく光の数々に、しばらく言葉が出て来ない。

「渋谷さん、振り返って、夜空も見てみてください」

柔らかい那月の言葉に従い、夜景を背にして空を見上げる。
息を飲んだ。
山の境から始まる星空は夜景のきらきらしさとはまた違う輝きだ。静謐で、それでいて煩いほどまばゆい光を放つ満天の星。降ってきそうな程の光の量に圧倒され、友千香は呆然と見上げ続けた。

「晴れて良かったな。天の川が良く見える」

真斗がそう言いながら何かを差し出してきた。受け取ってみると、缶ジュースのようだ。みれば、隣にいたトキヤも、その奥にいる音也も、いつの間にか各々飲み物を手にしている。
友千香が星に見とれている間に、だろう。

「友千香、お誕生日おめでとう!」
「おめでとう(ございます)!!」
「あ、ありがと!!」

乾杯、と声をかけて、缶をぶつけ合う。皆、友千香にも遠慮なく力一杯ぶつけてくる。

「ちょっと、やめてよ溢れるじゃない!」
「そう言いながら倍でやり返すのが渋谷だよなって、うわ溢れた!」
「ふふん」

翔があたふたするのを勝ち誇って見ながら、友千香はようやく一口目を口にする。
美味しい。

「美味しいですか、トモチカ?」
「ええ、とっても」

セシルが微笑み、友千香も自然と笑顔になる。そこへ、悪戯な笑みを浮かべたレンが問いかけてきた。

「今のご気分はいかがかな? レディ?」

レンだけでなく、皆、笑顔で返事を待っている。
ふふっ、と沸き起こる笑いもそのままに、友千香は思い切り息を吸った。

「もちろん、最っ高ぉ!!」

星空に向かって突き上げたジュースに、缶が七つ、勢いよくぶつかった。





20210707
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