他プリ春+わちゃわちゃ短編詰め合わせ
「コーヒーとかに入ってるカフェインって、一度に大量に摂取すると危ないんですって」
新作スイーツにフォークを入れながら、林檎が不意にそんなことを言い出した。
カミュはまさにコーヒーを飲もうとしていたところだったが、動きを止めたのはほんの一瞬。結局優雅に味わった。
「俺には関係ない」
「もー、その謎の自信はどこから来るの?」
そもそも摂取したカロリーはどこに消えているのか等、いつも聞かされる文句が並び始めたので、カミュはどれも黙殺する事にした。
が、すぐ後ろで聞きたくない声が聞こえてきた為、意識がそちらに向かう。
「アイツの死因は絶対カフェイン中毒じゃねえだろ。糖分だろ」
「ちょっとランラン聞こえるよっ」
「聞こえるように言ってんだよ」
声の聞こえ方からして、背中合わせに座っていた蘭丸がカミュの方を振り向いたようである。
応戦する為肩越しに睨み付けると、蘭丸ではなくその奥にいた嶺二が「ぎゃっ」と醜い悲鳴をあげてテーブルの下に潜る素振りをした。
「あら、二人ともお仕事終わり?」
「うん、まいらす収録終わったよーん♪」
当たり前のように席を移動してきて、嶺二が横に座る。林檎の横には蘭丸が腰を下ろした。必然的に向かい合う事になり、お互い無言で睨み合う。しかし、怒鳴り合いにはならない。
彼らがいるのはテレビ局から程近いファミレス。目立つ場所で喧嘩を繰り広げるほどプロ意識は低くない。が、テーブルの下では当然のように互いの足を踏みつけていた。
「それ新作? ぼくも頼むか悩んだんだよねー」
「そうなのー。一口食べる?」
「え、いいの?」
「はい、あーん♪」
「あーん♪」
隣から聞こえてくる会話は、内容だけならばまるで馬鹿な恋人同士である。見た目もそう見えなくもない。ふざけて楽しんでいるだけであるが、男同士だと知っているカミュからしたら気分が悪いやりとりでしかない。
林檎の与えた一口が相当大きかったようで、もぐもぐと咀嚼しながら嶺二がカミュに向き直った。
「みゅーひゃん、はえらあくてひいふぉ?」
「食べ終わってから喋れ。当然帰るに決まっているだろう」
「あ、通じてた」
「カミュちゃんはね、ちょっとだけアタシの時間潰しに付き合って貰ってたの。このあとまだ撮影があって…」
ドラマ撮影の待ち時間に抜け出してきたのだ。新人がかなり使えないようで、予定時間を大幅に過ぎているらしい。
「なら、おれが付き合いますけど」
「えー、黒りんが? ってちょっと、見てるメニューが肉だらけじゃないの」
「夕飯食うんすよ」
蘭丸が淡々と言うのを聞いて、カミュは驚きに目を見開いた。しかし、それを指摘するより先に隣の嶺二がカミュの腕を引いく。
「じゃあミューちゃん一緒に帰ろうよ。特別にお車で送ってあげるよ?」
「誰があんなオンボロ車でなど……」
「絶っ対乗せて帰るからねっ!」
その怒り口調に若干の本気を感じて、カミュは仕方なく、駐車場に留めてあった車に乗り込む。
そこそこ手入れされているのだが、如何せん、彼には助手席も後部座席もサイズが小さいのだ。これが蘭丸ならば器用に丸くなって眠ってしまうところだが、カミュがそんな事をする訳がない。狭そうに足を縮めてシートにおさまるカミュに苦笑を向けつつ、嶺二がエンジンキーを回す。
「貴様といい、黒崎といい、何故そんなに俺を帰らせたがる」
「あ、なんだ分かってたの?」
当たり前である。嶺二はともかく、蘭丸の身代わりは不自然すぎた。慣れた手つきでハンドルを返しながら、嶺二が笑う。
「ふふ、アイアイからちょっとね」
「美風?」
「だってミューちゃん、後輩ちゃんがお家で待ってるでしょ」
「……」
一緒に暮らしているのでいつも待っているが。
と言う回答は流石にひねくれていると言わざるを得ないだろう。これ以上聞き出すのも馬鹿らしく思い、カミュは鼻を鳴らして窓の外に目を向けた。
「誕生日だしぃ、はりきって買い物してたよって、アイアイから報告来たんだよね」
「……もういい」
「ケーキも手作りかなー、いいなー可愛い恋人に祝ってもらえてっ!」
「ドアを蹴破って良いという回答と受け取るが異存ないな」
「異存ある!すっごいある!ごめんって!」
それからは至極真面目な仕事の話をし始めた為、カミュも仕方なく話に付き合う。話し始めるとそこからはあっという間で、気付いた時には事務所の門が見えていた。
「じゃあねー、お幸せにっ!ひゅーひゅー!」
「……」
柄にもなく礼を言おうとしたのを腹の立つひやかしで遮り、カミュを降ろした車が走り去る。
敷地内に入ったので本性を隠すことなく舌打ちをして、そのまま家に向かう事にする。すると、ちょうど懐の携帯が震えてメールの着信を知らせた。素早く内容を確認し、すぐに相手へ電話の発信ボタンを押した。
「もしもし……俺だ。ああ、もう事務所内にいる。ああ、そうだ」
弾んだ声を聞くだけで、彼女がどんな顔をしているのか分かる。
「……何? 俺が今笑っているか、だと? フン、ならば、直接確かめるが良い」
声だけで表情まで分かるのは、お互い様のようである。
通話終了ボタンを押しつつ、カミュはゆっくりと玄関扉に手をかけた。
新作スイーツにフォークを入れながら、林檎が不意にそんなことを言い出した。
カミュはまさにコーヒーを飲もうとしていたところだったが、動きを止めたのはほんの一瞬。結局優雅に味わった。
「俺には関係ない」
「もー、その謎の自信はどこから来るの?」
そもそも摂取したカロリーはどこに消えているのか等、いつも聞かされる文句が並び始めたので、カミュはどれも黙殺する事にした。
が、すぐ後ろで聞きたくない声が聞こえてきた為、意識がそちらに向かう。
「アイツの死因は絶対カフェイン中毒じゃねえだろ。糖分だろ」
「ちょっとランラン聞こえるよっ」
「聞こえるように言ってんだよ」
声の聞こえ方からして、背中合わせに座っていた蘭丸がカミュの方を振り向いたようである。
応戦する為肩越しに睨み付けると、蘭丸ではなくその奥にいた嶺二が「ぎゃっ」と醜い悲鳴をあげてテーブルの下に潜る素振りをした。
「あら、二人ともお仕事終わり?」
「うん、まいらす収録終わったよーん♪」
当たり前のように席を移動してきて、嶺二が横に座る。林檎の横には蘭丸が腰を下ろした。必然的に向かい合う事になり、お互い無言で睨み合う。しかし、怒鳴り合いにはならない。
彼らがいるのはテレビ局から程近いファミレス。目立つ場所で喧嘩を繰り広げるほどプロ意識は低くない。が、テーブルの下では当然のように互いの足を踏みつけていた。
「それ新作? ぼくも頼むか悩んだんだよねー」
「そうなのー。一口食べる?」
「え、いいの?」
「はい、あーん♪」
「あーん♪」
隣から聞こえてくる会話は、内容だけならばまるで馬鹿な恋人同士である。見た目もそう見えなくもない。ふざけて楽しんでいるだけであるが、男同士だと知っているカミュからしたら気分が悪いやりとりでしかない。
林檎の与えた一口が相当大きかったようで、もぐもぐと咀嚼しながら嶺二がカミュに向き直った。
「みゅーひゃん、はえらあくてひいふぉ?」
「食べ終わってから喋れ。当然帰るに決まっているだろう」
「あ、通じてた」
「カミュちゃんはね、ちょっとだけアタシの時間潰しに付き合って貰ってたの。このあとまだ撮影があって…」
ドラマ撮影の待ち時間に抜け出してきたのだ。新人がかなり使えないようで、予定時間を大幅に過ぎているらしい。
「なら、おれが付き合いますけど」
「えー、黒りんが? ってちょっと、見てるメニューが肉だらけじゃないの」
「夕飯食うんすよ」
蘭丸が淡々と言うのを聞いて、カミュは驚きに目を見開いた。しかし、それを指摘するより先に隣の嶺二がカミュの腕を引いく。
「じゃあミューちゃん一緒に帰ろうよ。特別にお車で送ってあげるよ?」
「誰があんなオンボロ車でなど……」
「絶っ対乗せて帰るからねっ!」
その怒り口調に若干の本気を感じて、カミュは仕方なく、駐車場に留めてあった車に乗り込む。
そこそこ手入れされているのだが、如何せん、彼には助手席も後部座席もサイズが小さいのだ。これが蘭丸ならば器用に丸くなって眠ってしまうところだが、カミュがそんな事をする訳がない。狭そうに足を縮めてシートにおさまるカミュに苦笑を向けつつ、嶺二がエンジンキーを回す。
「貴様といい、黒崎といい、何故そんなに俺を帰らせたがる」
「あ、なんだ分かってたの?」
当たり前である。嶺二はともかく、蘭丸の身代わりは不自然すぎた。慣れた手つきでハンドルを返しながら、嶺二が笑う。
「ふふ、アイアイからちょっとね」
「美風?」
「だってミューちゃん、後輩ちゃんがお家で待ってるでしょ」
「……」
一緒に暮らしているのでいつも待っているが。
と言う回答は流石にひねくれていると言わざるを得ないだろう。これ以上聞き出すのも馬鹿らしく思い、カミュは鼻を鳴らして窓の外に目を向けた。
「誕生日だしぃ、はりきって買い物してたよって、アイアイから報告来たんだよね」
「……もういい」
「ケーキも手作りかなー、いいなー可愛い恋人に祝ってもらえてっ!」
「ドアを蹴破って良いという回答と受け取るが異存ないな」
「異存ある!すっごいある!ごめんって!」
それからは至極真面目な仕事の話をし始めた為、カミュも仕方なく話に付き合う。話し始めるとそこからはあっという間で、気付いた時には事務所の門が見えていた。
「じゃあねー、お幸せにっ!ひゅーひゅー!」
「……」
柄にもなく礼を言おうとしたのを腹の立つひやかしで遮り、カミュを降ろした車が走り去る。
敷地内に入ったので本性を隠すことなく舌打ちをして、そのまま家に向かう事にする。すると、ちょうど懐の携帯が震えてメールの着信を知らせた。素早く内容を確認し、すぐに相手へ電話の発信ボタンを押した。
「もしもし……俺だ。ああ、もう事務所内にいる。ああ、そうだ」
弾んだ声を聞くだけで、彼女がどんな顔をしているのか分かる。
「……何? 俺が今笑っているか、だと? フン、ならば、直接確かめるが良い」
声だけで表情まで分かるのは、お互い様のようである。
通話終了ボタンを押しつつ、カミュはゆっくりと玄関扉に手をかけた。